コバルトフリー電池が韓国で実用化へ、高まるTeslaへの対抗意識

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 2020年7月19日、韓国メディアは、韓国TopBattery(トップバッテリー)がコバルトフリー正極材(活物質)を開発したと報道した。同社は、リチウムイオン電池やエネルギー貯蔵システム(ESS)の開発・生産を専門とするベンチャー企業である。

 TopBatteryは新開発のコバルトフリー正極活物質を、電気自動車(EV)用バッテリーを手掛けるベンチャー企業の韓国Eurocell(ユーロセル)に供給する。Eurocellは、20年末からこの正極活物質を使ったリチウムイオン電池を電動スクーターに搭載する計画だ。

 TopBatteryの正極活物質はスピネル型マンガン系に分類されるもので、マンガンの割合を75%と従来品よりも多くし、ニッケルの割合を25%と少なくした。同社によると、通常はニッケルの割合を増やすことでコバルトフリーを目指すが、それだと電池の寿命と安全性に限界があることから、安価なマンガンの割合を増やした。この正極活物質を使った電池の重量容量密度は135mAh/g、平均放電電圧は4.7Vだという。

 TopBatteryは、13年12月に韓国で初めてESSやEV向けリン酸鉄リチウムイオン電池を開発した。その後、年36万個を生産できる自動化ラインを設立し、量産を始めた。

業界全体でコバルトフリー目指す

 現在、「バッテリーご三家」と呼ばれるLG Chem(LG化学)、Samsung SDI(サムスンSDI)、SK innovation(SKイノベーション)をはじめとする韓国の電池業界は、コバルトフリーを志向している。コバルトは埋蔵量が少ない上、今も紛争が続くコンゴの生産に依存しているため、供給が安定せず価格が上昇し続けている。EVの普及推移から30年を境にコバルト不足も懸念されている。

 世界の人権問題を調査・是正勧告している非政府組織(NGO)のAmnesty International(アムネスティ・インターナショナル)は17年、コンゴのコバルト採掘で児童労働や危険労働が放置されていると告発する報告書を発表した。19年末には国際連合児童基金(UNICEF)も、コンゴ南部の鉱山で児童約4万人が1日1~2米ドルの賃金で働いていると公表した。これらの報告によって、コバルトを利用する大手企業は「採掘の労働環境に目をつぶって安く仕入れることにしか興味がない」などと批判されるようになった。

 そこで、電池メーカーは短期的にはコバルトを倫理的な方法で確保しながら、長期的にはコバルトフリーを目指している。前出の韓国バッテリーご三家も、コバルトをはじめとする鉱物の確保に当たり、紛争鉱物問題に取り組む団体であるResponsible Minerals Initiative(RMI)に加入している。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2020. 8.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00012/

FeRAMの集積度を1000倍に、0.5nmまで微細化 Samsung支援の研究

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 韓国Ulsan National Institute of Science and Technology(蔚山科学技術院、UNIST)教授のJun-hee Lee(イ・ジュニ)氏らのチームは、強誘電体メモリー(FeRAM)の集積度を1000倍以上に高められる理論を発表した。FeRAMは、次世代メモリーの有力候補の1つ。今回の研究成果によって、現在は10nmあたりで停滞気味のメモリー製造プロセスを0.5nmまで微細化できるようになるという。

酸素原子4個に1ビットのデータを格納

 FeRAMは、強誘電体を記憶素子とする不揮発性メモリーの一種である。強誘電体に電圧を与えると分極が生じ、電圧をゼロにしても分極が持続する(残留分極)。正負の残留分極を論理値の「0」「1」に対応させている。

 Lee氏らの研究では、強誘電体材料として酸化ハフニウム(HfO2)を用いている。Lee氏らは、HfO2に特定の電圧を与えると原子間の弾性相互作用が消える現象を発見した。弾性相互作用を打ち消す遮蔽膜が形成されるのだ。この現象をスーパーコンピューターで再現したところ、あたかも真空中であるかのようにHfO2中の酸素原子4個の位置を個別に制御できることを確認した。この酸素原子4個ごとに1ビットのデータを格納することが可能だという。

 従来は、「ドメイン」と呼ばれる数千個の原子から成る群に1ビットのデータを格納していた。ドメインは約1000nm2であるのに対し、酸素原子4個のまとまりは0.2nm2とはるかに小さい。データを格納する単位が⼩さくなることで、メモリーの集積度を⾼められるわけだ。

 半導体メモリーでは、記憶素子が限界レベルより小さくなるとデータの格納能力が消失する「スケーリング」という問題がある。Lee氏らの研究成果は、この限界を突破する可能性を秘めている。

 Lee氏によると、FeRAMの先行研究はドメインを小さくすることに焦点を合わせたものが多かったが、同氏らのチームは発想を転換して「ドメインは必要なのか」という疑問から出発した。フラットバンド理論を強誘電体に応用したことが、従来の固定観念を覆す発見につながった。CMOSプロセスに適用できるので、商用化の可能性も高いとみられる。「原子を分割しない限りにおいて、個々の原子に情報を格納する手法は最良の集積化技術だ。この技術を応用することで半導体の微細化がさらに加速することが期待できる」(同氏)。

 Lee氏は、ソウル大学物理学部で凝集物質理論を研究して博士号を取得した経歴を持つ。新素材に関する研究のバックグラウンドが今回の理論発見に結び付いたといえる。現在はシミュレーションだけを実施した段階で、これから実験で理論を証明する計画である。なお、同氏らの研究成果は、英『Science』誌に2020年7月2日付で掲載された1)。

 Lee氏らの研究は、Samsung Electronics(サムスン電子)の未来技術育成プロジェクトとして選定されたものの1つで、Samsung Science & Technology Foundation(サムスン未来技術育成財団)の支援を受けていたほか、韓国政府の科学技術情報通信部(韓国の部は日本の省に相当)の「未来素材ディスカバリー事業」にも指定されていた。今後、この研究から商用化可能な技術が開発されれば、サムスン電子のメモリーに優先的に適用される。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2020. 7.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00011/

新型コロナでロボット活用進む韓国、非対面サービスの需要増に期待

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として防疫ロボットの需要が高まっている。

 例えば、韓国の通信事業者SK Telecom社の本社では、2020年5月から自律移動ロボットが訪問者の体温測定やビル内の消毒などを行っている。消毒については、人がいない空間を自動で認識して消毒液を噴霧するほか、夜間にビル内を走行して紫外線ランプを照射する。さらに、マスクを正しく着用していない人や密集している人々も自動で認識し、マスク着用や社会的距離の確保を依頼する。

 これまで警備員や外部業者に委託していた訪問者対応や消毒といった仕事をロボットで置き換えることで、効率良く防疫体制を整え、感染リスクを減らす狙いがある。



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趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

《日経Robo

2020. 7.

 

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/rob/18/00006/00057/


熱愛発覚後も人気冷めぬ『愛の不時着』カップル、“大人の恋愛”に称賛

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 日本でも『愛の不時着展』が開催されるなど、引き続き話題を集めている韓国ドラマ『愛の不時着』。年明け早々飛び込んできたのが、このドラマで主演を務めたヒョンビン(38才)とソン・イェジン(38才)の熱愛ニュース。世界中のドラマ視聴者が2人の恋の行方を見守っていただけに、報道から約1か月経った今も韓国のSNSやテレビを賑わし続け、2人の好感度がさらに上昇する人気ぶりだという。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんがリポートする。

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 ヒョンビンとソン・イェジン、同い年のスターカップルの誕生に、韓国のSNSでは「お似合いカップル!」「やっと2人が熱愛を認めて嬉しい」といった祝福の声で溢れている。筆者も、2人の事務所が発表した熱愛を認めるコメントを読むうち、ドラマのクライマックス、スイスの草原で2人が見つめ合い微笑むシーンを思い出し「なんて素敵なカップルなんだろう」と嬉しい気持ちだ。熱愛報道後、Netflixでは再びドラマの人気が急上昇し、アジア各国で総合ランキング上位になった。

 ヒョンビンとソン・イェジンの熱愛報道は今回で4度目。1度目は2018年9月に映画『ザ・ネゴシエーション』で共演した後、2度目は2019年1月に米ロサンゼルスのスーパーで2人が一緒に買い物している写真がSNSに投稿されたとき、3度目は2020年1月の『愛の不時着』放送開始時だ。度々熱愛が取り沙汰されては、これまで双方とも否定してきたが、4度目となる今回、満を持して交際を認めたのだ。

 2020年1月に熱愛が取り沙汰されたときは、韓国では結婚説や破局説などさまざまな情報が拡散し、ワイドショーやSNSなどではしばらくの間この話題で持ち切りだった。今回も交際を認めたことで、韓国放送局KBSの芸能番組では、「結婚しそうなスターカップル1位」として2人の特集が組まれるなど前回を上回るお祝いムード。スターの熱愛が発覚すると、ファンが離れたり人気が落ちるのが普通だが、2人の場合はそれをものともせず、今回の交際宣言で逆に好感度を上げている印象だ。

 1月23日、熱愛を認めてから初めて、ヒョンビンがファンの前に姿を現した。韓国エンターテインメントマネジメント協会が主催した「2020 APAN STAR AWARDS」で、『愛の不時着』での演技や視聴率、知名度、好感度などが認められ大賞を受賞したのだ。受賞の感想を述べる際、ソン・イェジンのことはあえて触れないまま終わるだろうと予想していたファンが多かったが、ヒョンビンはそれを気持ちよく裏切った。

 ヒョンビンは、『愛の不時着』を視聴した全世界のファンや監督、俳優らに感謝の言葉を述べた後、「ジョンヒョク(ヒョン・ビン)にとってはあまりにも最高のパートナーだったユン・セリ(ソン・イェジン)。イェジンさんが上手に創り上げたユン・セリというキャラクターのおかげで、リ・ジョンヒョクはよりかっこよく息ができました。この場を借りて本当にありがとうと言いたいです」と、淡泊ながらもソン・イェジンの演技を称えるコメントで愛情を表現した。

ありきたりの「サランヘヨ(愛しています)」ではなく、恋人であり役者としてのソン・イェジンの実力を認め尊重するコメントで締めくくったことがかっこよすぎると、韓国メディアやSNSでは称賛の嵐である。このコメントの中に、2人の関係が表れているのではないだろうか。お互いの仕事ぶりを認め相手を思い配慮する大人の恋愛が垣間見えたことで、2人の好感度はますます上昇した。

 2021年は、ソン・イェジンの俳優デビュー20周年でもある。1月11日のソン・イェジンの誕生日には、誕生日とデビュー20周年のお祝いに熱愛報道まで重なり、ファンの愛情が爆発した。ソン・イェジンのインスタグラムには、広いリビングをぎっしり埋め尽くしたファンからの花束やケーキなどの写真が投稿され、ソウルの商業施設「COEXMALL」の大型スクリーンには、ファンによる大々的なお祝い広告も掲載された。ソン・イェジンがいつも寄付している児童施設や病院などにもファンからの寄付が集まるなど、彼女の人気ぶりが改めてうかがえた。

 この20年間、ソン・イェジンと共演者の熱愛報道は何度かあったが、交際を認めたのはヒョンビンが初めて。かつてソン・イェジンがバラエティー番組に出演した際、「(恋人を明かして堂々と交際する)「公開恋愛」をする芸能人が増えているが、自分は負担が大きいのでしたくない」と話していただけに今回交際を認めたのは意外だったが、それだけ2人の思いが真剣ということなのだろう。

 韓国では、2022年に2人は結婚するのではないかと報じるメディアもあった。ヒョンビンは2011年のインタビューで、「芸能人の生活は不規則なのでこの職業を好きになってくれる人はいても隣で理解してくれる人はいないようだ」と話したことがある。また不思議なことに、ソン・イェジンも2011年、「俳優という職業は私の生活の延長線上にある。それを理解して配慮してくれる人がいい」とインタビューで話していた。2人は交際を始めて以降、ヒョンビンの海外の長期滞在など頻繁に会えていたわけではないようだが、それでも2人の絆はとても強いという。お互いを理解してくれる相手に出会ったからかもしれない。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

NEWSポストセブン》

2021. 1.

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BTSのグラミー賞に期待高まる アジア最大級音楽祭で8冠

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 新型コロナウイルスの感染拡大で大きな打撃を受けながらも、巣ごもり需要をいち早く取り込み大躍進した韓国のエンタメ業界。特に、人気アイドルグループ「BTS(防弾少年団)」は米ビルボードのシングルチャートで全米1位を獲得するなど、世界的なヒットを記録した事は記憶に新しい。そんな中、アジア最大級の音楽祭「MAMA2020(Mnet ASIAN MUSIC AWARDS)」が12月6日開催された。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんがレポートする。

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 2020年の韓国のエンタメ業界は、2月に映画『パラサイト 半地下の家族』が第92回アカデミー賞で4部門を受賞した事から始まり、『愛の不時着』をはじめとした韓国ドラマが日本で大ブームとなったり、BTSが「Billboard Hot 100」1位を獲得し、第63回グラミー賞にもノミネートされるなど、映画やドラマ、音楽など韓国発のエンタメコンテンツが海外で愛された1年となった。

 米TIME誌は、BTSを「世界で最もビッグなバンド」とし、「今年のエンターテイナー(Entertainer of the Year)」に選定。BTSの躍進を受けて、韓国メディアは2021年1月に開催されるグラミー賞で、BTSが最優秀ポップ・パフォーマンス賞(グループ/デュオ部門)を受賞するのではないかと大いに期待している。

 そんな中、韓国では音楽や映画、ドラマ、ゲームなどエンタメ業界の1年を締めくくる授賞式が相次いで開催されている。特に注目度が高いのが、12月6日オンラインで開催された年末恒例の音楽アワード「MAMA2020(Mnet ASIAN MUSIC AWARDS)」だ。MAMAは、「音楽でひとつになるアジア最大級の音楽授賞式」をキャッチフレーズに、韓国や日本、ベトナム、香港などで毎年開催・放送されてきた。今年はコロナ禍ということもあってか、MAMAの開催中、アメリカや日本、ブラジル、イギリスなど世界68地域でTwitterリアルタイムトレンド1位を獲得するほど視聴者が多かったようだ。

 授賞式では、アーティスト賞、歌賞、アルバム賞など、BTSが計8部門を受賞。大賞4部門を2年連続で総なめにした。今年の活躍ぶりを見れば当然の結果だろう。そのほか、女性グループ賞は日本でも人気が高い韓国ガールズグループ「BLACK PINK」が、インスパイアード・アチーブメント賞はBoAが受賞した。

 BTSメンバーの末っ子ジョングクは授賞式で、「私たちに熱情、覇気、毒気(必死になるという意味)しかなかった時代があったが、ARMY(BTSファンの呼称)の皆さんが真心と愛情を教えてくれた」とコメント。BTSとARMYの絆は有名だが、マンネ(末っ子)の口から「ファンから愛を学んだ」という言葉が出てきたのは、ARMYにとってはこの上ない喜びだったのではないだろうか。

MAMAは、どのアーティストがどの賞を受賞するかよりも、どれだけすごいパフォーマンスを見せたか、どんな仕掛けでファンを楽しませたか、という事の方が話題になる印象がある。今年は特にオンラインでの配信だったこともあり、韓国で「実感コンテンツ」と呼ばれるAR・VRなどの仮想現実や拡張現実を駆使した仕掛けが多かった。舞台上だけでなく客席まで使い、先端技術で実際の映像とグラフィック映像を合成し、現場で見るよりもさらに色鮮やかで華やかな演出を行った。

 BTSは「ボリュメトリックキャプチャ」というXR技術(ARやVRの総称)を使い、肩の手術のため活動を休止しているSUGAを登場させた。実際に舞台上にいるのは6人のみだが、新曲『Life Goes On』が始まりSUGAのパートになると、他のメンバーと同様画面に溶け込むようにSUGAが登場し、メンバー7人全員が揃うという仕掛けを施した。あらかじめ専用スタジオでSUGAを4K画質のカメラで360度撮影し、高画質の3次元デジタルデータで再現したという。まるで本当にSUGAが同じ空間にいるような精巧な仮想現実だった。米ビルボードでチャート1位を獲得した『Dynamite』でも曲の後半、AR技術でメンバーの後ろで花火が打ち上げられ、フィナーレでは花火がDYNAMITEの文字に変わる、という演出が施されていた。

 MAMAの目玉はBTSだけではない。デビュー20周年を迎えたBoAの特別ステージも素晴らしかった。BTSより先に韓国初の賞を数多く獲得した先駆者であるBoAは、韓国人なら誰もが口ずさめるのではないかというほどヒットした曲『No.1』と、韓国ボーイズグループ「SHINee」のテミンと難易度の高いダンスを披露した『Only One』、新曲『Better』の3曲を披露。全てかっこよく、デビューから今までを短く編集した映像で『Better』が流れ始めた時は、「20年間あっという間だったな~」という感慨深い気持ちになった。

 BoAといえば、2002年3月にリリースした日本でのファーストアルバム『LISTEN TO MY HEART』で、韓国人で初めてオリコン週間アルバムランキング1位を獲得し、セカンドアルバム『VALENTI』も発売初日に100万枚を超える大ヒットを記録した日本でも馴染み深いアーティスト。最近は日本での露出は減っているが、今は所属事務所であるSMエンターテインメントの取締役を務めながら曲作りも続けている。

 コロナの影響で全てのイベントがオンラインでの開催となってから、テレビやスマホ越しにしかアーティストに会えない1年だったが、韓国エンタメ業界はコロナ禍ならではの試みでファンを沸かせている。MAMAは公式YouTubeからも観られる。最新技術を駆使した超豪華K-POPスターたちのパフォーマンスをぜひその目で確認して欲しい。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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2020. 12.

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次にヒットする韓国ドラマの新潮流は「ファンタジー系」

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新型コロナウイルスの感染拡大で大打撃を受けたエンタメ業界。多くの人々が自粛生活を余儀なくされたことで、コンサートや映画など接触型のエンタメは壊滅的な影響を受けたが、ネットの動画配信など、「巣ごもり需要」を取り込む新たな動きが目立った年でもあった。その恩恵を最も受けたのが、韓国のエンタメ業界ではないだろうか。特に、『愛の不時着』など韓国ドラマの世界的ブームは記憶に新しい。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが、今年1年の振り返りと、来年日本で話題になりそうな韓国ドラマを紹介する。

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 コロナ一色となった2020年、韓国のエンタメ業界は無観客コンサートのネット配信や動画サイトでの新作映画の封切り、テレビ会議システムを使ったファンミーティングなど、「巣ごもり消費」をいち早く取り込もうとさまざまな手を打った。

 この1年でNetflixなどの動画配信サイトの利用者は大幅に伸びており、韓国言論振興財団の調査によると、2019年の47.1%から2020年には66.2%に増加。特に60代以上の増加率は大きく、2019年の17.7%から2020年には39.3%と2倍以上に伸びた。コロナ禍を背景に、動画配信サイトでドラマを観る人が増えたことや、幅広いジャンルのドラマが配信されたことなどが主な要因だろう。韓国でヒットしたドラマが日本でもヒットし、韓国人が面白いと思うドラマが日本人にも受け入れられたことで、韓国の視聴数がさらに伸びるという好循環が生まれていたように思う。

 Netflixが12月14日「note」に公開した記事によると、今年配信した作品の中で「最も多い日数総合TOP10(日本)入りした作品」1位は『愛の不時着』。続いて2位に『梨泰院クラス』、6位『サイコだけど大丈夫』、8位『青春の記録』、9位『キム秘書はいったい、なぜ?』と、半分を韓国ドラマが占めた。さらに同社は、「配信直後から日本で最も勢いのあった韓国ドラマTOP10」も公開。1位はこれぞ“王道のラブコメ”と言える『キム秘書はいったい、なぜ?』。2位は『私のIDはカンナム美人』、3位『青春の記録』、4位『梨泰院クラス』、5位『サイコだけど大丈夫』だった。

 一方、日本で人気になる韓国ドラマは、主にNetflixで配信されるものが中心のためこのようなランキングになるが、韓国で今年人気だったドラマは日本とは大きく異なる。韓国メディアのジョイニュース24が今年10月に集計した「2020年最高のドラマ」によると、1位『賢い医師生活』、2位『夫婦の世界』、3位『キングダム シーズン2』、4位『秘密の森 シーズン2』、5位『愛の不時着』、6位『サイコだけど大丈夫』となった。1位の『賢い医師生活』はNetflixで日本でも観られるが、日本ではそれほど話題になっておらず、日本で人気の『愛の不時着』、『サイコだけど大丈夫』は同ランキングでは5位以下だったのが興味深い。

次に「来る」のはファンタジー系ドラマ

 韓国ドラマといえば、ラブコメや時代劇、ほのぼの系ホームドラマ、マクチャンドラマ(ドロドロの愛憎劇)などが定番。特にラブコメ率は高く、医療ドラマかなと思ったらラブコメ、サスペンスドラマかなと思ったらラブコメというほど、これまでどんなドラマにも「ラブライン」と呼ばれる、登場人物が恋に落ち結ばれるまでの駆け引きを無理やり入れることが多かった。しかしここ数年韓国では、「ラブラインの無いドラマ」という宣伝文句が登場するほど、ラブコメ以外のドラマのニーズが強くなっており、これが日本と韓国の人気ランキングに差が生まれる一つの理由ではないかと思う。

 今韓国で人気急上昇中なのが、これまであまり無かった「ファンタジー系」ドラマだ。現在放送中の『驚異的なソムン』(ソムンは「噂」の意、主人公の名前でもある)は、韓国ウェブコミック配信サイト「DAUM WEBTOON」で連載されたマンガが原作のスリラー×ファンタジードラマ。人に取り憑き殺人を犯す悪霊と、悪霊を退治する「カウンター」と呼ばれるヒーローたちの物語で、カウンターは、普段は「クッス(韓国式そうめん)食堂で働いているが、悪霊を感知すると客を放置して出動、それぞれが持つ驚異的な能力で悪霊をやっつけ人々を救う。1話、2話と回を重ねる度に注目を集め、12月13日放送された6話の視聴率は全国平均7.7%、最高視聴率8.3%と高視聴率を記録。ケーブルテレビドラマの歴代視聴率TOP5に入りそうな勢いである。

『驚異的なソムン』は、『愛の不時着』を制作した「スタジオドラゴン」の作品。大手制作会社の作品にも関わらず、この頃韓国ドラマでよく見られるスポンサーの商品を無理やりドラマの中に登場させて視聴者の失笑を買う、といったことが無いのも好感を得ている要因だろう。これまでの韓国ドラマでは、突然スーツのポケットから真空パックキムチを取り出して主人公に差し出し、キムチをクローズアップするといったあからさまなシーンも度々見られたが、こんなことをされるとそれまでの感動が台無しだ。制作やスポンサー側も、そうした姑息な描写が逆効果であることを意識し始めているのかもしれない。

『驚異的なソムン』は、ケーブルテレビの放送に加え、韓国のNetflixでも配信されている。SNSでの評判を見ると、好きな時間に観られるNetflixで観る人がかなりいるようで、Netflix韓国版の「総合TOP10」1位になるほど大人気だ。近々日本でも配信されれば、来年話題さらう人気ドラマとなるのではないだろうか。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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2020. 12.

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BTSの急成長支える「ARMY」パワー 進化するファンとの関係

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 韓国の人気アイドルグループ「BTS(防弾少年団)」のシングル『Dynamite』が11月24日(現地時間)、音楽界の最高栄誉とされる「グラミー賞」にノミネートされ大きな話題になっている。アジア出身の歌手がノミネートされたのは初めてで、SNSでは世界中のBTSファン「ARMY」の歓喜の声で溢れた。BTSは、10月にも米ビルボードのシングルチャートで1位を獲得したばかり。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんは、「BTSの大ヒットは、ARMYたちの尋常ではない努力の賜物」と話す。

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 コロナ禍でエンタメ業界全体が落ち込むなか、この1年で異例の急成長を遂げたBTS。公式YouTubeに頻繁に動画をアップしたり、大々的なオンラインコンサートを実施するなど、自宅にいながらBTSを楽しめるよう工夫した運営側の活動もあるが、BTS人気をここまで押し上げたのは、紛れもなくARMYたちの働きによるところが大きい。

 その働きは、例えばBTSがデビューして間もない頃は、話題になるよう新曲を発表したら、24時間眠らずに新曲動画を繰り返し再生する(再生回数を稼ぐため)、BTSの歌詞をARMYが世界各国の言葉に翻訳し解説を付けてSNSで紹介する、BTSの活動でメンバーのためにならないことや、社会的に納得のいかないことなどがあれば改めるよう所属事務所に直談判したり抗議活動をする、「BTSをもっと知ってほしい」という思いから地下鉄や電車にARMYたち自ら広告を出す、BTSの活動に関する論文を書く…など挙げ始めたらキリがない。

 プロモーター的な役割を担うこともある。10月に開催されたオンラインコンサート『BTS MAP OF THE SOUL ON:E』のチケット販売の際は、チケットの種類が多いうえ、運営側の説明が分かりにくかったことから大混乱が生じたが、ARMYの1人が「どのデバイスからどんな映像をどのように見たいか」でチケットを選択できるよう一目でわかる表を作りSNSで公開、運営側がその表を公式サイトなどに転載して案内し直したことがあった。

また、10月はメンバーのジミンの誕生月だったため、中国のARMYがソウル中区役所と協力し、「明洞ジミンテーマ通り」と題した盛大な誕生祭を実施。ソウル中心地の明洞のあちこちにジミンの写真や看板が登場し、メインストリートの入口には「ジミン楽園へようこそ」と書かれた大型のLEDゲートも設置された。休業中のお店の大型看板がジミンの写真に代わっていたり、レストランやカフェの中を覗くとひょっこりジミンの等身大サイズの立て看板が見えたりして、ARMYではない私でも宝探しのようで楽しい気持ちになった。目玉は明洞芸術劇場前に設置された、スノードームにすっぽり入ったジミンのオブジェだ。夜になると灯りがともり幻想的な雰囲気になるので、明洞の観光スポットの一部としてずっと置いて欲しかったくらいだ。

 韓国では、こうしたARMYパワーに注目する記事が増えている。「歴史上最も強力な“ファンダム(熱心なファン集団)”」、「ARMYは全世代、全世界に存在する」とし、ARMYのような自主的に動くファンは他のアーティストには無い現象であり、その存在自体も単なる狂信的なファンのものとは性質が異なることなどを伝えた。

 ARMYたちの“規格外”の活動には、海外メディアも注目している。英ロイター通信や米ブルームバーグ、米ワシントンポストは、BTSが6月、人種差別の撤廃などを訴える「Black Lives Matter」運動に100万ドルを寄付したところ、ARMYもこれに呼応し同額の100万ドルを集めたことなどに触れ、SNS上の繋がりやハッシュタグを使い、社会問題に積極的に声を上げ行動するこれまでにない部類のファンであることを詳しく報じた。アジア人であるBTSも差別の対象になる可能性があるため、「人種差別問題には積極的に対応する」という米国ARMYたちの声も紹介していた。

 2020年に3周年を迎えたユニセフとBTSが行っている児童・青少年に対する暴力根絶運動「LOVE MYSELF(私自身をまず愛そう)」でも、SNSなどでのARMYの活動により寄付金額は2020年10月末に32億ウォン(約3億円)を突破した。

 アイドルとファンの先例の無い新たな関係性を築くARMYの活躍から目が離せない。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

NEWSポストセブン》

2020. 11.

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グラミー賞にも期待 BTS新譜は“爆発の年”締めくくる作品

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米ビルボードチャートで韓国アーティストとして初の1位を獲得するなど、今人気絶頂のアイドルグループ「BTS(防弾少年団)」。彼らの最新アルバム『BE (Deluxe Edition)』が11月20日、世界同時リリースされるとあって、音楽特番などが増える年末年始に向けてさらに注目が集まっている。この1年のBTSの活躍について、ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 BTSの最新アルバム『BE (Deluxe Edition)』は、音楽だけでなく、コンセプトからデザイン、構成、ミュージックビデオ(MV)に至るまで、メンバーが制作全般に参加するなど、これまでに無い力の入れようとなっている。初回の特典も太っ腹で、韓国で初回限定版としてCDとセットで販売されるのは、92ページのフォトブックに32ページのメイキングブック、フォトブックサイズの額縁、ポスター、フォトカードなど、全部で重さ1kgの超豪華版。これで3万9400ウォン(約3700円)はお買い得だ。前回のアルバム『Map Of The Soul : 7』同様、予約販売サイトによっても異なるオリジナル特典が用意されているというから、どこで買おうか悩んでしまう。

 アルバムの発売に先立って、11月1日から公式SNSで新アルバムのコンセプトフォトも公開。1日目はメンバー全員、2日目はV、3日目はジミン、4日はRMとリレー形式で公開し、指折り数えて発売を待つ「ARMY(BTSファンの名称)」の心を離さない仕掛けを用意した。どの写真も美しい作品に仕上がっており、メンバーがそれぞれ録音したオーディオガイドも付いている。どんなコンセプトの写真なのか、自分らしさを表現するためどこにこだわったのか、本人が解説してくれるのだ。

 アルバムとは別に、年末恒例の「シーズングリーティング(略してシグ)」も予約販売を開始した。K-POPアイドルらが毎年発売する「シグ」はカレンダーやダイアリー、フォトブック、メイキングDVDなどで構成されたグッズのことで、「BTS 2021 SEASON’S GREETINGS」は90年代を彷彿とさせるレトロコンセプトで制作された。メイキングDVDの一部が先行公開されたが、BTSメンバー自らが考えたという自身の“サブキャラ”の説明がとにかく笑える。今韓国のバラエティー番組では、芸能人らがサブキャラを作り本人でないふりをして登場するのが流行っている。BTSもその流行りにのってARMYを楽しませようとしているのだ。

 BTSが最新アルバムやシグに力を入れるのは、もちろんアルバムを売るためということもあるが、2020年という年の締めくくりとして、特別な思い入れもあるからではないだろうか。2020年は、多くの人にとってコロナで全てが思い通りにいかない年であったが、コロナ禍にデビュー7周年を迎えたBTSと、彼らを支えるARMYにとっては、最も団結した1年であり、これ以上ない飛躍の年となったからだ.

今年2月、2年3か月ぶりにリリースしたアルバム『MAP OF THE SOUL : 7』は米ビルボードのアルバムチャートで1位を獲得し、全世界で417万枚のセールスを記録。8月に発表した新曲『Dynamite』でも、米ビルボードシングルチャート「Hot100」で初登場1位を獲得し、3週連続で首位をキープ。不動の人気を獲得した。

 9月から10月にかけても、毎日のように『Dynamite』のパフォーマンス動画を公開。米国の有名番組が企画した動画だったため米国のテレビやラジオで放送され、その後YouTubeにも毎日アップされた。同じ曲なのに、パフォーマンス毎に新しいBTSが見られるため、ARMYたちは毎日その動画を心待ちにした。おかげで世界中のARMYが家にいながらBTSにどっぷりハマることが出来た。

 10月10日から2日間にわたり開催したオンラインコンサート『BTS MAP OF THE SOUL ON:E』も凄かった。所属事務所によると、世界191か国99万3000人がチケットを購入する異例の盛況ぶりで、全員が最も安いチケット(4万9500ウォン)を購入したとしても売上は491億ウォン(46億円)超えと、凄まじい売上を叩き出した。コンサートの内容も、4つのセットにAR(拡張現実)を駆使したダイナミックな舞台演出や、6つのアングルを選択できるマルチビューに対応するなど、リアルのコンサートと遜色ない、配信だからこそ楽しめる仕掛けが多数施されていた。

 曲名通り、“ダイナマイト”が爆発したかのような1年を駆け抜けたBTS。ARMYも、PCやスマホの画面などからYouTubeやSNSで追いかけ続け、自宅にいながらまるで全てのライブに参加したかのような疲労感と達成感を味わえた、といった声が多く見られた。それほど応援に没頭し、団結していたのだろう。応援するだけでも大変だが、メンバーはいつ練習していたのか、彼らの体力にも感服する。

 新アルバム『BE (Deluxe Edition)』のリリースから3日後の11月23日(日本時間)にも、米国の栄誉ある音楽賞の一つであるアメリカン・ミュージック・アワードで、収録曲『Life Goes On』を世界初披露する予定だ。また、1月にはグラミー賞も控えている。米ビルボードでシングルチャート1位を獲得した際、メンバーのSUGAは「グラミー賞を受賞し、BTSの単独公演をしたい」と抱負を語っていた。コロナ禍を共に乗り越え、数々の記録を打ち立ててきたメンバーとARMYに、グラミー賞受賞という喜びを味わって欲しいものだ。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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2020. 11.

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米大統領選は地味? エンタメ要素満載の“韓国流”開票中継

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大接戦の末、民主党のジョー・バイデン前副大統領が勝利した今回の米大統領選挙。世界中が固唾を飲んで選挙の行方を見守る中、意外な反応を示していたのが韓国国民だ。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 米大統領選の模様は、韓国でも日本と同様連日テレビで伝えられ、「どちらが当選した方が韓国のためになるのか」といった内容の特番が毎日のように放送されていた。だが、注目度が高い一方で、韓国のネットユーザーの間では、「米大統領選の開票中継が単調で面白くない」「共和党、民主党の投票数を米国地図に赤と青で色分けしただけで地味すぎる」といった声が多く見られた。というのも、韓国の大統領選の開票中継は、さまざまな工夫が凝らされたエンタメ要素の強いものだからだ。

 韓国の大統領選は、米国のように有権者が選挙人を選び、選挙人が大統領を選ぶ「間接選挙」ではなく、有権者が大統領を直接選ぶ「直接選挙」。自分の投票がダイレクトに結果につながるだけに、国民の関心も高い。そのため、大統領選を締めくくる開票中継は、選挙期間中のテレビ局の視聴率を左右する重要なイベント。開票率など数字ばかり見せていては視聴率は上がらないため、各局はCGを駆使し、とにかく派手で面白い映像を作り国民の気を引くのだ。

 2017年に行われた韓国大統領選挙では、地上波のテレビ局3社が開票中継の視聴率を争った。候補者らをあらかじめスタジオに呼び、CG用の画像や動画を撮影して、海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』や映画『ロッキー』、人気アニメの『ポケモン』などを真似たパロディ映像を作成した。

 特に『ゲーム・オブ・スローンズ』のパロディでは、西洋風の甲冑に身を包み、剣や盾を携えた候補者たちがドラゴンや白馬に乗り選挙戦を進めていくという凝った映像が話題になった。もちろん、著作権を侵害しないよう実際のドラマやゲームの映像は使わず、テレビ局が新たにCGを制作している。地域別の開票状況を伝える際も、その地域の特産品や歴史などの映像も流し、地元民を喜ばせた。

テレビ局の中で特に高評価を得たのは、民放のSBSだ。「2017国民の選択」という番組で、開票中継を面白おかしく報じたことでSNSで大きな話題になり、政治に関心が無い人も一度は中継を見てみよう、という気持ちにさせる効果があったとして高く評価されたのだ。SBSは、2018年や2020年に行われた地方選挙でも開票中継に力を入れた。「政治は感動である」というキャッチフレーズのもと、韓国のアイドルオーディション番組「Produce 101」のパロディ映像を制作。アイドルさながら候補者らにダンスをさせるなどして選挙戦を盛り上げた。

 米大統領選は、選挙人制度という特殊な事情もあるが、それでも開票中継が面白くないので、韓国ネットユーザーは「AI観相(人相)占い」アプリを使ってトランプ氏とバイデン氏のどちらが“王”になる観相かを点数にして比べたり(AI観相占いはトランプ氏の方が点数が高かった)、2人の生年月日から2021年の運勢を占ったりして勝手に楽しんでいた。

 米メディアは、2017年の韓国大統領選の開票中継について「The Crazy Ways South Koreans Watched the Election(クレイジーなほど面白い)」と紹介したほど。今回の大統領選でも、韓国ケーブルテレビのニュース専門チャンネル「YTN」のアナウンサーが中継中、「(米大統領選が“地味”)ゆくゆくは韓国流の開票中継が、K-選挙(K-POPのK)として海外に広がっていくのではないでしょうか」と話していたのが印象的だった。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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2020. 11.

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死んだ恋愛細胞が蘇る?韓国ドラマ『キム秘書』ヒットの理由

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コロナ禍の巣ごもり需要を背景に一大ブームを巻き起こした韓国ドラマ。『愛の不時着』などに続き今日本で話題となっているのが『キム秘書はいったい、なぜ?』だ。配信からわずか数日でNetflixの人気ランキング(日本)1位を獲得し、現在も常に上位にランクインし続けている。韓国では2018年に放送され、社会現象となるほどの人気ぶりというが、その人気の理由とは。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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『キム秘書はいったい、なぜ?』は、2018年のGoogle検索ワードランキング(韓国)で、韓国テレビ番組部門1位を獲得したほど大人気となったドラマ。遂に日本でも配信され、人気上昇中というから嬉しい限りだ。本作は、2013年に発表された同名のウェブ小説が原作。2016年には韓国のウェブコミック配信サイト「kakaopage」で漫画になって登場し、2018年に韓国でドラマ化された。WEBTOONの同名漫画は韓国コンテンツ大賞のマンガ部門で文化体育観光部長官賞を受賞し、ドラマもケーブルテレビでの放送だったにも関わらず、地上波放送込みの同時間帯視聴率1位をキープしたほど、2018年を代表する作品になった。

 物語は、大企業の副会長・ヨンジュン(パク・ソジュン)と、ヨンジュンを9年間支えてきた秘書・ミソ(パク・ミニョン)のラブストーリー。ドラマ化が決まり、主人公のパク・ソジュンとヒロインのパク・ミニョンのキャスティングが発表されると、原作ファンは「最高!この上ない組み合わせ」「待ちきれない」と盛り上がった。パク・ソジュンは役作りのため発声を変えてみたそうで、パク・ミニョンは役作りのため体重を4kgも絞り、体にぴったりフィットする衣装にチャレンジした。

 そしてドラマが始まると、初回から最終回まで、韓国のSNSではドラマの話題が絶えず、公式YouTubeで公開されたパク・ソジュンとパク・ミニョンのキスシーン動画は、ドラマが終わって2年経った今も再生回数が伸び続け、遂に2億回を越えた。2人のキスシーンやプロポーズシーンは「死んだ恋愛細胞も生き返る」と絶賛され社会現象になり、2人の熱愛説まで報じられる騒ぎとなった。

本作の最大の見所は2人のラブシーンであることは言うまでもないが、終始SNSをざわつかせていたのが、パク・ソジュン演じる主人公ヨンジュンのキャラクターとセリフだ。ヨンジュンは、ハンサムで仕事もできるが、完璧主義者で何よりも自分が一番好きという究極のナルシスト。第1話の冒頭から、自己愛が強いあまり「眩しくないか?ぼくからにじみ出るオーラが!」と両手を広げるシーンなどナルシスト全開で、「ヨンジュン、こいつ~」と自分のことを名前で呼び自分の美貌にツッコミを入れるというシーンは、いまや名ゼリフとして語り継がれている。

 SNSでは、「副会長が登場すると歯茎が乾燥する(ずっと笑っているため)」「副会長から目が離せない」といったコメントで溢れ、回を重ねるごとに「このドラマ、タイトルを『副会長はいったい、なぜ?』に変えるべきでは?」といったコメントも多く書き込まれるほど、パク・ソジュンの演技が評判になった。パク・ソジュンのインタビューによると、「ナルシスト全開のセリフを言うのは最初は恥ずかしかったが、スタッフが笑っているのを見ると自信が付いた」と話している。

『キム秘書はいったい、なぜ?』は、ジャンルで分けるとロマンティック・コメディだが、会社での社員らの駆け引きや女性たちのファッション、ヨンジュンとミソの自宅インテリアを見る楽しみもある。また、ヨンジュンとミソのデートシーンには、韓国を代表する名所が多く登場するため、コロナで海外旅行が出来ないなかでも、韓国を旅する気分を味わえる。

 一度見始めたら最終話まで止まらないと評判の本作。秋の夜長にお供に、恋愛細胞を呼び起こしてみてはどうだろうか。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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2020. 10.

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