異色の韓国ドラマ『サイコだけど大丈夫』が韓国人を癒す理由

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韓国ドラマ『愛の不時着』が、コロナ禍の自粛生活を背景に、Netflixで一大ブームを巻き起こしたのは約半年前。人気は未だに衰えておらず、現在もNetflix「今日の総合TOP 10(日本)」では常にランクインし続けている。他にも、『梨泰院クラス』や『キム秘書はいったい、なぜ?』など数々のヒット作が配信されているが、その中でも韓国の人々を癒して止まないのが、既に日本でも大ヒットとなっている『サイコだけど大丈夫』だ。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 韓国では今、地上波だけでなくケーブルテレビやウェブなど、さまざまなプラットフォームから毎週のように新作・大作ドラマが登場している。年間110~130タイトルものドラマが放送されるため、ドラマ好きでも全てを見るのは不可能なほどだ。山のようにあるドラマの中でも、テレビ放送直後にNetflixで190か国に配信された『サイコだけど大丈夫』は、韓国だけでなく日本や東南アジアでも人気ランキング上位にランクイン。『愛の不時着』、『梨泰院クラス』に次ぐ大ヒット作となり大いに盛り上がりを見せた。

『サイコだけど大丈夫』は、2007年のデビュー以来数々のヒット作に出演し、作品選びに失敗したことがないと言われるキム・スヒョンの5年ぶりの主演ドラマ。彼の除隊後初のドラマということに加え、タイトルも中身もかなり変わったドラマとして、韓国では放送前から大きな注目を浴びていた。

 同作は、両親を失い、自閉スペクトラム症の兄・サンテ(オ・ジョンセ)を献身的に支えながらひっそりと暮らす主人公ムン・ガンテ(キム・スヒョン)が、人気童話作家のコ・ムニョン(ソ・イェジ)と出会うことで、それまで閉じ込めていた心の傷と向き合い成長し、心を癒していく過程を描いた物語。

 ガンテにとって兄は大切な存在である一方で、母の愛情を奪い自分を縛りつけてきた存在でもある。矛盾した思いを抑えながら耐え忍ぶ日々を送るガンテだったが、人の愛情を知らない冷淡なムニョンに「偽善者」と言われ、その言葉が彼を苦しめる。2人は過去にある事件でつながっており、家族の秘密が少しずつ明らかになっていく様子は背筋がぞくっとする不気味さもあり、単なるヒューマンドラマで終わらないサスペンス要素も含んだ魅力がある.

 キム・スヒョンは、除隊後の初主演作として同作を選んだ理由について「ヒューマンヒーリングドラマだから」、「ムン・ガンテが抱いていた心の傷を表現し、その傷を治癒していく過程を通じて共感を得たかった」と語った。実際に韓国では、「最高の癒しドラマ」と称賛され、ケーブルテレビでの放送だったにもかかわらず、放送期間中高い視聴率を維持し、韓国の幅広い年齢層の視聴者の心をくぎ付けにした。

 同作は、家族だから全てを許して仲良くすべき、親孝行すべきといった、韓国ドラマにありがちな展開やシーンがない。伝えているのは、「あなたはあなたのままで良い。人と違っていても、“サイコ”でも大丈夫」というメッセージだ。サイコと聞くと、日本ではサイコパスや精神疾患を持つ人という印象が強いが、韓国では個性が強い人、周りに流されない人、ちょっと変わった人を「あの人サイコみたい」と言うことがある。

 韓国では、家族というだけで多くを強いられる風潮や、周りと同じような水準の生活をし、流行の服を着て、空気を読んだ言動をして…といった同調圧力に疲れ、誰も自分を知らない海外に行きたいと願う若者が増えている。そうした鬱屈した社会の中で登場した同作は、視聴者がドラマを通して自分の傷を振り返り、主人公らと一緒に泣き、心を癒すきっかけとなった。見終わる頃には、自分もありのままの相手を受け入れよう、自分の物差しで人を判断しないように生きよう、という気持ちになれたドラマだった。

 同作のパク・シヌ監督は放送後のインタビューで、「私たちは誰もが少しは狂っています。だから皆サイコです。それでも大丈夫です。私たちはそれでも大丈夫な(良い)人たちです」と話した。これまでの王道的な韓国ドラマとは一味変わったストーリーに、主人公キム・スヒョンとソ・イェジのビジュアルが眩しい映像美も楽しめる『サイコだけど大丈夫』を、ぜひチェックしておきたい。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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2020. 10.

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J.Y.Park、金言つまった自伝が韓国でヒット お笑いの素質も

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 ソニーミュージックとJYPエンターテインメントとの共同オーディション番組『Nizi Project』での数々の名言が話題を呼び、結成した日本人ガールズグループ「NiziU」を成功へと導いたことで、大きな注目を浴びた韓国人プロデューサーのJ.Y. Park(パク・ジニョン)氏。8月12日、同氏の自伝『何のために生きますか?』(原題)が韓国で発売されると瞬く間にベストセラーとなり、韓国で再び脚光を浴びているという。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 韓国では今、J.Y.Park 氏の自伝『何のために生きますか?』が話題だ。発売されてから2か月近くが経つが、発売後すぐにエッセイ部門でベストセラー1位となり、その後も上位にランクインし続けている。著書では主に、同氏のこれまでの苦労の人生や現在の生き方、未来に対する考え方や哲学などが余すところなく語られている。前半は、23才でデビューするまでの道のりや、5年かけて準備した米国進出が2008年に起きた「リーマン・ショック」でとん挫し、挫折を味わったことなどが語られ、後半は、同氏が大きな影響を受けたという聖書によって自分がどう変わったかなどの宗教観が綴られている。

 これまで、ダンスやセクシーなパフォーマンスが得意なプロデューサー兼歌手というイメージが強かったため、「聖書の中に答えがある」と話す同氏の考え方を意外に感じた人は多かっただろう。この意外な一面を感じさせるところが、今回ベストセラーにつながった理由の一つかもしれない。もちろん、「人に見られる姿が自分の本当の姿であるべき」、「人に知られて問題になるようなことはしないのが人生の基準」、「健康に良いことを探すよりよくないことを避ける」、「ビジネスは経済共同体ではなく価値共同体」といった、同氏ならではの名言も豊富に掲載されている。

 J.Y.Park氏の有名な名言の一つに、「音楽はハートで考え頭で完成する」という言葉がある。同氏が韓国のオーディション番組の審査員だった頃、シンガーソングライターを目指す参加者らに何度も言っていた言葉だ。これは、感情に頼って曲を作ると似たり寄ったりの曲しか作れないし、頭だけを使っても大ヒットにはつながらない、という同氏の持論。音楽に情熱を傾けるのはもちろんだが、トレンドを把握して差別化できるポイントを作り出し、ディテールにこだわるなど頭で計算する必要もあることをかなり前から強調しており、こうした彼ならではの哲学が現在の成功につながったと言える。

自伝の出版と同時に、歌手活動も再開している。J.Y.Park氏による作詞・作曲で、同氏が育てたガールズグループ「Wonder Girls」出身のソンミとのデュエット曲『When We Disco Duet with sunmi』は、8月12日の公開と同時に韓国音楽チャート1位を獲得。歌番組やバラエティー番組にも2人で一緒に出演し、20代のアイドルにも勝るダンスパフォーマンスを披露した。韓国メディアは、「さすがJ.Y.Park」、「1994年のデビューとは思えない、今も全盛期のよう」、「J.Y.Parkのダンスパフォーマンスの底力を見せてくれた」と称賛した。

 自伝や新曲だけでなく、9月からは韓国のポータルサイト「NATE」のCMにも起用され、モデルとしても活躍している。NATEの新サービスキャンペーンに応募すると、SNSなどで使えるJ.Y.Park氏の「彼氏画像(ナムチンチャル)」がもらえる。今韓国では、彼女目線で撮影した写真のようなナムチンチャルが流行っており、よくアイドルがファンのためにSNSに投稿してくれるのだ。

 J.Y.Park氏のナムチンチャルは、シーツの中でこちらを見つめているものや、「一口食べる?」と言いたそうな顔をしているもの、手でハートマークを作ってこちらを見ているものなど、18種類もあってかなり笑える。エンターテインメントだけでなくお笑いにも素質があるようだ。J.Y.Park氏が育てたガールズグループ「TWICE」のモモとチェヨンが、ふざけて同氏のナムチンチャルを真似た写真を撮り、それをジョンヨン(TWICE)が本人に送るという微笑ましいエピソードもある。

 話題の尽きないJ.Y.Park氏。NiziUやTWICEなど、プロデューサーとしての活動だけでなく、本人の活躍にも目が離せない。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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2020. 10.

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韓国でも竹内さん訃報に衝撃 防止策行うも自殺者減らぬ現状

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 女優の竹内結子さんが9月27日、40才の若さで亡くなった。7月以降、三浦春馬さんに芦名星さん、藤木孝さんと、短い期間に有名芸能人が4人もこの世を去った。韓国では、昨年芸能人の自殺が相次いだこともあり、今回の悲報に大きな衝撃が広がっている。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 竹内結子さんの悲報は、韓国でも衝撃的なニュースとして受け止められた。彼女が主演を務め、韓国でも大ヒットした映画『いま、会いにゆきます』は、2018年にソン・イェジンとソ・ジソブ主演でリメイク版が製作されたほど韓国人が好きな日本映画。韓国のケーブルテレビでは竹内結子さん主演の映画も多く放送しており、再婚や出産など、彼女の近況も記事になっていたほど知名度が高い。SNSでは、「清純とは何かを見せてくれた女優だった」、「あんなに純粋で素敵な笑顔を見せてくれる女優は他にいない」、「結子オンニ(お姉さん)のドラマが大好きだった。新作を楽しみにしていたのに…」など、悲報から一週間以上経った今も、追悼の書き込みが後を絶たない。

 韓国でも、2017年にボーイズグループ「SHINee」のジョンヒョンが早すぎる死を選び、国内外で大きな衝撃が広がった。また、昨年にもガールズグループ「f(x)」のソルリと、元「KARA」のHARAが20代の若さで命を絶った。HARAは日本での活動を再開し、亡くなる前日まで自身のSNSでファンとコミュニケーションしていただけに、突然の訃報にファンの悲しみは大きかった。

 著名人の自殺は、社会的に大きな影響を及ぼす。2008年、トップスターのチェ・ジンシルが命を絶った後の2か月間の自殺者は、前年同期と比べて790人も増加。2009年に盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が自殺した後も、その後の2か月間は前年と比べて2倍近く自殺者が増え、2017年にジョンヒョンが亡くなった時も、2018年の自殺者は前年比9.7%増の1207人に増えた。

 韓国自殺予防協会によると、著名人の自殺が新たな自殺を誘発する「ウェルテル効果」が要因として大きいという。日本でも、今年の8月の1か月間に自殺した人は全国で1854人にのぼり、前年同月比16%も増加している。特に30代以下の比較的若い世代の女性の自殺が同74%増と突出して多く、時期的に見て主にコロナの影響と考えらえているとはいえ、著名人の自殺も重なったことで、今後のウェルテル効果の懸念が広がっている。

 韓国の自殺率は人口10万人当たり24.7人(2018年)と長年OECD加盟国で1位。OECD加盟国平均である11.5人の2倍を超える自殺率で、官民が協力し合って数々の対策を講じてきたが自殺率は減らない。韓国メディアは、ウェルテル効果の対策として、自殺報道の際は「自殺」と報じず「極端な選択」または「死亡」と表現し、どこでどのような方法で亡くなったかなどの詳細は記事にしなくなった。また、インターネットが普及した1990年代からの傾向として、ネットでの悪質な書き込み「悪プル(アクプル)」が原因で亡くなったとされる芸能人が増えているため、韓国のニュースサイトは2019年10月から順に、芸能とスポーツニュースのコメント欄の閉鎖を決めた。

韓国にはかつて、ニュースサイトを利用する際に実名を確認する「インターネット実名制度」があったが、表現の自由を侵害するとして2012年に廃止になった。ソルリとHARAが亡くなって以降、制度復活を望む声もあったが、賛否両論あり制度化まで至らず、各ニュースサイトは思い切ってコメント欄を閉鎖することにしたのだ。コメント欄が無くなってからは、悪プルはSNSなどに書き込まれるようになったが、コメント欄だと嫌でも目にしてしまうことが多かったため、閉鎖前に比べれば状況は少しずつ改善している。

 芸能事務所も、所属アーティストを守ろうと必死だ。韓国では、SNSで名誉棄損やセクハラをしたり、虚偽の事実を広めたり、悪意のある誹謗中傷などを行った場合、ファンがそれを見つけ次第画面をキャプチャーして、URLや投稿者のIDなどを芸能事務所にメール送信でき、芸能事務所の顧問弁護士がそれをまとめて検察に告訴している。また、大手芸能事務所では、所属俳優に定期的に心理相談を受けさせたり、不安な様子が見られた場合は心療内科を受診させるなど対策を講じており、最近ではうつ病を隠さず、治療を受けていることを告白する芸能人も増えている。

 ソウル市の真ん中を走る漢江(韓国北部を流れる河川)に掛かる20個の橋には、2011年から75台の公衆電話の形をした「SOSいのちの電話」が設置してある。「悩んだ時はまず電話して欲しい」というメッセージが書いてあり、電話を受けたカウンセラーが消防と警察に連絡し、すぐに救助できるよう連携している。2011~2019年の「SOSいのちの電話」にかかってきた相談は8113件で、10~20代が6割以上を占めた。投身直前に救助した件数も1595件にのぼる。

「SOSいのちの電話」によると、「自殺は個人的要因もあるが社会的・制度的要因が複合的に作用する社会問題である。最近コロナの拡散で経済的困窮、社会的距離を保つため人に会えないことから、不安とうつ、自殺衝動を訴える人が増えている」という。韓国の芸能界でも、子供の頃から合宿生活を送り、ダイエットのためだとして食事を制限し、過酷なトレーニングを積む厳しいマネージメントそのものが、うつ病の原因だと批判する意見も多い。こうしたシステムは近いうちに変わってくとみられるが、実効性のある対策が早く見つかってほしいものだ。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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2020. 10.

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全米1位のBTS「なぜ兵役免除されないのか」が国民最大の関心

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韓国の人気アイドルグループ「BTS(防弾少年団)」の新曲『Dynamite』が8月31日、米ビルボードのシングルチャート「Hot100」で初登場1位を獲得した。2週目に入っても首位をキープしており、韓国では国を挙げての騒ぎとなっている。人気の過熱とともに、韓国国民の関心を引いているのがその経済効果や徴兵制の問題だ。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 韓国人アーティストとして初めて、米ビルボードで2週連続1位の快挙を成し遂げたBTS。1位獲得のニュースが速報で伝えられるとTwitterでは瞬く間に拡散し、8月31日から9月2日までの3日間で関連ツイートは約4600万件に達した。新聞・テレビなどの韓国メディアやケーブルテレビもこぞってBTSの特集を組み、文在寅大統領も自らの公式Twitterで祝賀メッセージを投稿した。韓国政府は2018年、「世界の若者に韓流と韓国語を広げ大衆文化芸術の発展に寄与した」ことを評価し、BTSに「花冠文化勲章」を授与しており、今やBTSは、政府からも功績を認められた国を代表するスターなのだ。

 それだけに、韓国では今回の記録的ヒットで“どのくらい儲かったか”が話題になっている。韓国文化体育観光部(部は省に当たる)が9月7日公開した調査によると、今回、BTSが「Hot100」で1位を獲得したことで生み出される経済効果は約1兆7000億ウォン(約1520億円)にのぼる。これは、『Dynamite』のヒットによる所属事務所への直接的な売上のほか、BTSの人気に付随して輸出が増えた化粧品や食料品、衣類などの売上を合わせた金額だ。同部によると、この数字はコロナの影響で海外観光客の誘致やコンサートを開催できない状況を踏まえた試算であるため、今後のコロナの状況によってはさらにすごい経済波及効果を生み出す可能性があるという。

 また、BTSの所属事務所のビッグヒットエンターテインメントは、新規株式公開(IPO)を控えており、遅くとも2020年末までには上場を果たす計画だ。このタイミングの『Dynamite』のヒットで、上場後どこまで株価が上がるかが注目される。特に、同事務所の代表で最大株主のバン・シヒョク氏は、メンバー7人にそれぞれ6万8385株を贈与したため、メンバーが手にする具体的な金額にも関心が向けられている。株の公募価格は1株当たり10万5000ウォンを超える見込みとされており、一人当たりが保有する株の価値は、少なくとも71億ウォン(約6億円3000万円)を超える。

 過去には、大手韓国芸能事務所のSMエンターテインメントが所属アイドルに一定の株を相場より安く購入できる「ストックオプション」の権利をあげたことがあったが、贈与という形は異例のこと。ビッグヒットエンターテインメントは、ストックオプションではなく贈与の形を取ったことについて、「BTSメンバーとの長期的協力関係の強化及び士気を高めるため」と説明した。

 BTSは稼ぐだけでなく寄付も積極的に行っている。9月12日に誕生日を迎えたRMは、誕生日の記念として国立現代美術館文化財団に1億ウォン(約900万円)を寄付。昨年も、聴覚障害を持つ青少年の音楽教育を支援するため1億ウォンを寄付した。美術館やギャラリーでの目撃談が多いRMらしい活動だ。他にも、J-HOPEが今年の2月と8月、母校の子供たちやコロナの影響で経済的に苦しむ子供たちのために1億ウォンずつを寄付したり、SUGAも2月、コロナ感染者が急増した地元・大邱のために1億ウォンを寄付するなど、メンバー各々、稼いだお金を関心のある分野に尽くしている。

「兵役免除」求める声も

 もう一つ、今国民の最大の関心事とも言えるのが、韓国人男性なら避けられない「兵役義務」の問題だ。韓国では、満18才以上の男子は28才までに入隊し、1年半~2年間兵役に就かなければならない。国際大会で上位の成績を残したスポーツ選手や伝統芸術家は、才能を活かせるよう軍隊には入らず、役所や福祉施設などで代替勤務をする「代替服務制度」があるが、大衆文化には適用されないため人気絶頂のアイドルや俳優が兵役で活動休止せざるを得なくなる事例はよく見られる。入隊日や除隊日には、ファンが部隊の前まで見送りや出迎えに行くのは恒例行事だ。

 BTSでは、年長のJINから順に兵役義務を果たすことになる。JINは大学院に進学したこともあり2021年末まで入隊を延期できる見込みだが、いずれは兵役に就かなければならない。「ピアノコンクールで1位になると代替服務制度が適用になるのに、米ビルボードで1位になり、莫大な利益を国にもたらしたBTSが適用対象外になるのはおかしい」と憤慨するARMY(BTSのファンの呼称)は多く、「兵役免除」や「特例」を求める声も日に日に強まっている。

 少年だったK-POPアイドルたちが兵役に行くと、規則正しい生活の影響なのか、肌はさらにつるつるになり、筋肉も付いてたくましくなる。「自分を振り返る時間になった」と話すアイドルもいることを思うと、兵役を経験するのも悪くないのかも、と思ってしまうが、人気絶頂の20代の大事な時間を軍で過ごすとなると、人気に影響が出るのは必至だ。

 個人的には、BTS程のスターなら、兵役にはきちんと就いて、軍人として世界平和のために国連のような国際機関で奉仕活動をするとか、その手段として音楽活動を続けるのも悪くないと思う。今のところ、BTSメンバーが兵役を免除される可能性は低いものの、韓国の国会議員らもBTSの兵役に関心を持ち制度改善に動いているようだ。ファンの前から姿を消すことなく兵役の義務を果たせる日も来るかもしれない。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。


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2020. 9.

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「次はグラミー賞」の声 BTS快挙に沸く韓国、大統領も祝福

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 韓国の人気アイドルグループ「BTS(防弾少年団)」の勢いが止まらない。8月31日、新曲『Dynamite』が米ビルボードのシングルチャート「Hot100」で初登場1位を獲得し、2週連続で首位をキープしている。アジア歌手が米ビルボードで1位を獲得したのは、1963年の坂本九さんの『上を向いて歩こう』以来半世紀ぶりのこと。韓国では国を挙げての大騒ぎになっているという。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんがリポートする。

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 BTSの公式YouTubeチャンネルでは、新曲『Dynamite』のミュージックビデオが公開されると瞬く間にアクセスが集中し、24時間で過去最多の1億110万再生を突破。ダウンロード数も初週が26万5000件、2週目にはさらに18万2000件と驚異的なダウンロード数を打ち立てた。世界中の音楽チャートのなかでも最も権威あるチャートとして知られる米ビルボード。そのチャートでBTSの新曲『Dynamite』が初登場1位を獲得したとあって、ファンはもちろん、韓国メディアやSNSなどでは大きな盛り上がりを見せている。

 1位獲得の発表後すぐ、深夜に速報が流れると、ニュースサイトのコメント欄やSNSには喜びの書き込みで溢れた。韓国公営放送局KBSも、これまでBTSが樹立した数々の新記録を紹介しながら「防弾少年団は新記録少年団」、「21世紀のビートルズ」と称え、ケーブルテレビも1位を記念して、過去にBTSが出演したバラエティー番組を延々と流すチャンネルを新設するほど。さらには文在寅大統領まで自ら公式Twitterで祝賀メッセージを投稿するなど、韓国はまさにBTS一色のお祭り騒ぎだ。

 文在寅大統領はTwitterで、「BTSが韓国歌手として初めて米ビルボード『Hot100』で1位になり、K-POPの新しい歴史を描きました」、「『Dynamite』はコロナで苦しむ世界中の人のために癒しと希望のメッセージを込めて作った曲ということで、(1位獲得は)さらに意味があること」と祝った。BTSも公式Twitterで、「大変な時期ですが、我々の歌が少しでも癒しと肯定のエネルギーになると嬉しいです。我が国を始め全世界の都市がまた明るい光で活気を取り戻すことを信じ、我々が最も上手く表現できる音楽に邁進してまいります」と答えている。

 韓国公営放送KBSは9月10日、報道番組「KBSニュース9」のスタジオにBTSを招待しインタビューを行った。同時にKBSのYouTubeチャンネルでも、BTSメンバーが駐車場に到着してスタジオに入るところから、インタビューを終えて帰るところまで生中継し、インタビュー映像も公開した。Youtubeは約24万人が視聴し、「KBSニュース9」の視聴率は、平均15.6%だったのがBTSのインタビューが放映された時間は18.8%に上昇、同時間帯視聴率1位を記録した。

 1位獲得が報じられた9月1日は、BTSの“末っ子”ジョングクの誕生日でもあった。韓国や中国の「ARMY(BTSファンの呼称)」たちは、誕生日のお祝いと1位獲得を祝うため、1台に20両、388mもある釜山(ジョングクの故郷)行きの高速鉄道KTXの車両を丸ごとラッピングした応援広告を出したり、ソウルタワーと釜山広安大橋を紫色にライトアップしたり、釜山海雲台では超大型花火を打ち上げたりと、例年よりも豪華な桁違いのプレゼントも大きな話題になった。

アルバムチャートでは度々1位に

『Dynamite』は、マイケル・ジャクソンを彷彿とさせるダンスにアップテンポなディスコ調の曲。BTS初の全歌詞英語の曲ということも、チャート1位を獲得した大きな要因だろう。「Hot100」は、ストリーミングサイトの再生回数や音源販売、米ラジオでの放送回数などを総合して順位を決める。韓国よりも米メディアの方がBTSを高く評価し、『Dynamite』のリリース直後から「チャート1位になること間違いなし」と予測されていた。

 韓国のアーティストが「Hot100」でチャート1位を獲得したのはこれが初めてだが、BTSは、これまでにも米ビルボードのアルバムチャート「Hot200」で度々1位を獲得していた。2018年にリリースしたアルバム『LOVE YOURSELF 轉 ‘Tear’』、『LOVE YOURSELF 結 ‘Answer’』や、2019年の『MAP OF THE SOUL : PERSONA』、2020年の『MAP OF THE SOUL : 7』などだ。一方、シングルチャートでは『FAKE LOVE(2018年)』が10位、『Boy With Luv(2020年)』が8位、『ON(2020年)』が4位に留まっており、少しずつ上位にチャートインしていた。

 米ビルボード1位を記念して開かれたオンライン記者会見では、メンバー7人各々が異なる反応を見せた。1位になったというニュースを見て泣いてしまったというジミンは、「コロナ収束のために尽力されているかたがたを癒して気分転換できるようにするのがぼくたちのやるべきこと」と話し、Vは「(まだデビュー前に、)メンバーと合宿をしながら狭い地下室で練習していた頃を思い出す」とつらい時期を振り返った。ジョングクは、「チャートが本当なのか疑ってしまった」と信じられない様子で語り、J-Hopeも「デビューした頃は最善を尽くして生き残るのに全力だったが、今想像以上に愛されていることが光栄」と驚きを隠さなかった。JINは、「(今回の1位獲得は、)BTSとARMYが一緒に成し遂げたこと」と話し、RMも「いつも感謝し謙虚でいたい」とファンへの感謝を語り、SUGAは「グラミー賞を受賞し、BTS単独公演したい」と抱負を語った。7人の頑張りが報われた気持ちや、嬉しさや驚きが切実に伝わってきた会見だった。

 韓国では、この勢いだとグラミー賞受賞も十分狙えると見られている。BTSは今や、韓国のアイドルという枠を超えて世界で愛されるグループに成長した。米ビルボードも、グラミー賞候補としてBTSの名前を挙げているほどだ。さらなる新記録を打ち立て、今以上に世界で活躍する姿を期待したい。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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2020. 9.

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大型新人TREASUREが韓国で異例人気 BIGBANG超えるCD初動売上

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韓国大手芸能事務所YGエンターテインメントから8月7日、4年ぶりにデビューした12人組ボーイズグループ「TREASURE」。YGの肝入りで結成された同グループは、デビューから1か月も経たずして、新人とは思えない人気を博している。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 人気アイドルグループ「BIGBANG」や「BLACKPINK」の弟分として、YGエンターテインメントのサバイバルオーディション番組『YGの宝石箱』から誕生した大型新人「TREASURE」。YGが手塩にかけて育ててきたグループなだけに既に韓国では大きな注目を集めており、デビュー曲『BOY』のミュージックビデオ再生回数は3235万回を突破(8月31日時点)。YouTubeチャンネル登録者数も193万人を超えた。YG初の日本人メンバーが4人もいることや、YG歴代最多となるメンバー数という点も注目されている。

 TREASUREのデビュー後初の公式舞台は、8月9日に放送された地上波テレビ局SBS(ソウル放送)の歌番組『SBS人気歌謡』。『BOY』を歌いながら、どのグループよりも気合いが入った「カルグンム(カルはナイフ、グンムは群踊の意味で、脚や腕を上げる角度までぴったり揃うこと)」を披露した。花びらのように散ったりまとまったり、メンバーの背中を踏んで飛んだり、12人が数人単位のユニット別に登場したり、最後はビシッと一つにまとまったりと、視聴者を飽きさせないパフォーマンスは圧巻の一言。見終わった後も最後のサビが耳から離れず困ってしまったほどだ。

 韓国メディアもTREASUREのパフォーマンスを絶賛し、SNSでも「写真で見るより映像の方が断然魅力的」と好評。アイドルコミュニティでも、「TREASUREのことばかり検索してしまう!」、「いつの間にかTREASUREが生活の中にしみ込んでいた」、「2018年のサバイバル番組からデビューまで長かった」といった声が多く見られた。

『SBS人気歌謡』では、音楽配信サイトの再生回数やCDの売上などを総合的に評価し順位が発表される。新人はデビューしたその週、カムバックしたグループはカムバッグしたその週の歌番組でチャート1位になるのがもっとも華々しい登場であり、メディアにも注目される。TREASUREは、デビューを待ちわびていた世界中の「TREASURE MAKER(ファンの名称)」が熱心に応援していたこともあり、新人としては異例の2位に付けた。


 実際、CDの初動売上は絶好調だ。7月29日から予約販売を開始し、8月13日に正式に発売された『BOY』が収録されたファーストシングル『THE FIRST STEP : CHAPTER ONE』の初動売上は約16万枚、8月20日時点では約20万枚を超えた(韓国アルバム集計サイト「HANTEO CHART」)。ファーストシングルで16万枚の初動売上は、先輩のBIGBANG、BLACKPINKも成し遂げられなかった記録で、YG歴代新人最高記録である。

 発売から1週間の初動売上は、日本と同様韓国でもその後の人気に大きく左右する。そのためYGも、売上を伸ばそうとさまざまな特典や仕掛けを行った。ファーストシングルは、ホワイトとブラックの2つのバージョンを用意したり、CDに加えて150ページのフォトブックや、ランダムでフォトカードを入れたり、ポスターやスクラッチカードなども付けたりと特典満載だ。スクラッチカードは宝くじのようなもので、カードをこすって12個の宝石が出たら、メンバーと1対1でテレビ電話ができる特別なイベントに参加できる。コロナ対策でファンミーティングもコンサートもできない中、メンバー1人当たり1分ずつ合計12分テレビ電話で話せるとあって、ファンにとっては嬉しい仕掛けになったはずだ。

 ちなみに、K-POPの初動売上の歴代1位から4位までは、今世界的人気となっている人気ボーイズグループ「BTS」のアルバムが占めている。1位は2020年2月21日に発売した4thアルバム『MAP OF THE SOUL : 7』で約337万枚にのぼる。

 コロナさえなければファンミーティングに新曲発表会と、ファンと直接触れ合う場も多かったはずで、さらに売上も見込めたかもしれない。TREASUREは、メンバー自ら「グローバルアイドルになりたい」、「日韓両国で新人賞をとりたい」と話しているだけに、BTSのようなグローバルアイドルに成長する日が待ち遠しい。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

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2020. 9.

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韓国大型新人「TREASURE」 メンバーの“ケミ”が人気の秘訣

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韓国の人気アイドルグループ「BIGBANG」や「BLACKPINK」の弟分として以前から注目されていた12人組ボーイズグループ「TREASURE」が8月7日デビューを果たした。韓国大手芸能事務所YGエンターテインメントがボーイズグループを発表するのは5年ぶり。満を持してデビューした同グループは、韓国やアメリカなど世界中の音楽ファンの注目を集めている。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 SMエンターテインメント、JYPと並び韓国の三大芸能事務所の一つであるYGエンターテインメントからデビューしたボーイズグループ「TREASURE」。同事務所としては初の日本人メンバーの起用で、メンバーの年齢は15才から21才までと若く、メンバー数は12人と過去最多を誇る。メンバーの多様性や規模と言い、グローバルに活躍できるアイドルグループに育てようという事務所の意気込みが見える。

 TREASURE は、8月7日のデビューと同時にデビュー曲『BOY』のミュージックビデオを公開。記念イベントとして、K-POPアイドルを楽しめる動画アプリ「VLIVE」から約2時間に及ぶライブ配信『THE FIRST STEP : CHAPTER ONE’ DEBUT COUNTDOWN LIVE』も行った。VLIVEにあるTREASUREのチャンネルから事前に質問を募集し、メンバーが自己紹介からデビューまでの道のり、アルバムのことなどをファンに語るという内容だ。日本人メンバー4人は韓国語が堪能で、時々日本語訛りの韓国語になるところがとても可愛いかった。

 ライブ配信は、開始から30分で視聴者が100万人を超え、最終的には300万人以上が視聴した。それだけでなく、米国ビルボード「ソーシャル50」チャートでは19位にランクインし、K-POP新人グループとしては最短の記録を更新。「TREASURE」YouTubeチャンネル登録者数も既に193万人を突破するなど、世界中の音楽ファンが注目している。ライブ配信では、視聴者数の予想外の多さに、メンバー全員が驚きを隠せない表情で椅子から立ち上がる場面もあった。

 YGアイドルのイメージとしてよく言われるのは、「スタイリッシュでシック」、「清純派というよりは気だるい感じ」、「個性豊か」などだが、TREASUREはこれまでのイメージとは異なり、パワー溢れる爽やかな少年らしさが際立っている。デビューからそれほど日が経っていないが、韓国メディアは、「いつものYGとは少し違うが、トレンディなグループ」と評価した。

 ライブを視聴した韓国ファンの間では、12人のメンバーから数人を束ねて、「ギャグ組」、「末っ子組」、「紙人形組(痩せているから)」など色々なニックネームを付けるのが流行っている。それは当然、メンバーの“ケミ”が良いからだ。ケミは、「ケミストリー」の略語で、韓国では「ケミがいい=相性がいい」という意味で使われる。

“ケミ”が良いのも当然だ。TREASUREは2018年、YouTubeやVLIVE、ケーブル放送局JTBC2で放映されたサバイバルオーディション番組『YGの宝石箱』で選ばれたメンバー。実力だけでなくメンバーの相性の良さは既に証明済みである。練習生に選ばれると、基本的にYGが食事などの生活にかかる費用を提供し、メンバー全員で共同生活を送る。1日のスケジュールも超多忙で、歌やダンスだけでなく外国語やスピーチ、演技も学ばせ基礎体力を作るためのトレーニングやメンタルヘルスケアも行った。練習生一人当たり年間1億ウォンはかかるそうだが、これは投資のため練習生が費用を返済する必要はないという。

 YGの練習生であること自体、ビジュアルや歌唱力、ダンスが優れている証拠と言えるが、厳しい訓練をやり遂げ、メンバー同士競い合いながらも共に成長した彼らは、まさに宝石の中の宝石と言える。番組放映後、いつデビューするのかとファンは心待ちにし、デビュー日が決まった時は、韓国経済紙まで「ついにYGが宝石箱を開けた」、「宝石箱からTREASUREが飛び出た」と報道したほど。BLACKPINK とTREASUREの連続ヒットでYGの株価も上がり続けている。

 TREASUREの12人は、並々ならぬ注目と期待を集めているだけに、プレッシャーに耐えられるか心配になるほど。だが、デビュー記念記者懇談会では「BIGBANGの弟分と呼ばれるのはとても光栄でもっと頑張ろうというモチベーションになる」、「グローバルアイドルになって日韓両国で新人賞を獲りたい」、「歴史に名を残すグループになりたい」と意欲を見せ、「全くプレッシャーは感じていない」とも話していた。元気いっぱいの夢見る少年12人を、今後応援せずにはいられなくなるだろう。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。


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2020. 9.

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次の「NiziU」狙うK-POP業界 日本で日本人メンバーを発掘

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ソニーミュージックとJYPエンターテインメントとの共同オーディション番組『Nizi Project』からデビューした「NiziU」は、日韓で大きな反響を呼んでいる。韓国大手芸能事務所は「次のNiziU」を発掘しようと既に動き出しているようだ。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 今年のK-POPはガールズグループが大躍進している。この6月にIZ*ONEが4か月ぶりに新曲『幻想童話(Secret Story of the Swan)』を発売し、TWICEも療養のため活動を休止していたミナが戻り、9か月ぶりにメンバー9人揃って新曲『MORE & MORE』を発表し活動を再開した。BLACKPINKも1年2か月ぶりに新曲『How You Like That』でカムバックを果たし、特に人気のある3大ガールズグループが同時期に新曲を発表し注目を浴びている。また、6月最後の日にもNiziUがデジタルミニアルバム『Make you happy』をリリースし、韓国アイドル業界のニューフェイスとして華々しくプレデビューした。

 10~20代の間で最近ブームになっているのが、「ガールクラッシュ」と呼ばれる、「可愛いよりはかっこいい」、「女性に愛される強い女性」をコンセプトとしたBLACKPINK。だが、従来のガールズグループの王道とも言える、「元気いっぱいで可憐」なイメージのIZ*ONE、TWICE、NiziUは男女老若に根強い人気で、ガールズクラッシュとの差別化の意味でも、韓国内で改めて評価されている傾向がある。

 IZ*ONE、TWICE、NiziUの共通点は、オーディション番組から生まれたグループであること。デビュー前からオーディション番組を通して見守ってきたファンは、彼女らの人柄や才能、陰ながら努力する姿勢や成長する姿に感動し応援する。厳しい「K-POP式養成システム」で生き残った根性や、世界を舞台に活躍するための語学の勉強、ダンスの練習、作詞・作曲、プロデュースなどに励むメンバーの姿は、最初から完成されたアイドルよりも、より親しみを持って応援したくなるファン心理が働き、熱狂を呼んでいる。

 また、もう一つの重要な共通点が、この3つのガールズグループには日本人メンバーがいるという点。NiziUに至っては、日本人メンバーが中心だ。語学のハンデを超えて韓国ファンとのコミュニケーションを積極的に行う姿勢や、特に厳しい韓国のK-POP式養成システムを経験していることもあって、歌もダンスもずば抜けて上手いメンバーが揃っており、韓国人メンバーと変わらず愛されている。

 韓国の芸能事務所はIZ*ONE、TWICE、NiziUに続けと、積極的に日本人メンバーを起用しようとしている。今や世界的人気となったアイドルグループのBTS(防弾少年団)を育てた韓国の大手芸能事務所ビッグヒットエンターテインメントの日本法人は6月、日本に住む2001年以降に生まれた10代女性を対象にオーディションを実施すると発表した。歌やダンスが未経験でもオーディションに応募できることから、可能性を秘めた人材を一からアイドルとして育てたい意向があるようだ。

 これまで、ボーイズグループを中心に力を入れてきたビッグヒットエンターテインメントがガールズグループを育成するということで、韓国メディアは「ついにビッグヒットエンターテインメントが次世代のガールズグループを企画」「日本で日本人メンバーを発掘する」と大々的に報道し話題になった。

 ボーイズグループでも日本人メンバーが起用され始めている。現在放送中の、ビッグヒットエンターテインメントからデビューする「第2のBTS」を選ぶオーディション番組『I-LAND』でも日本人練習生が活躍しており、韓国大手芸能事務所YGエンターテインメントから8月7日にデビューしたばかりの12人組ボーイズグループTREASUREにも、日本人メンバーが4人含まれている。「I-LAND」は回を重ねるごとに反響が増しており、今後日本人練習生がデビュー組に入れるか、韓国ファンも大いに注目している。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。


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2020. 8.

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韓国アイドルの“人気の証”、地下鉄に急増する「応援広告」

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10~20代の若者を中心に大人気の韓国アイドルグループ。その人気は今やアジアを超えて欧米にも拡大している。韓国では、そんなアイドルを支える熱狂的なファンによる独特の応援方法があるようだ。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 ソウル地下鉄駅構内を歩くと、壁や柱に設置されている電子看板、大型ビジョンのほとんどがアイドルの広告で埋め尽くされている。日本でも駅に設置された企業の広告をよく見かけるが、実は韓国の場合、この多くは企業が出した広告ではなく、ファンが募金して設置したもの。ファンが自費でお金を出してアイドルの誕生日を祝ったり、兵役などからのカムバックを祝ったりして、“推し”の応援広告を出しているのだ。

 広告には、応援メッセージが書かれた付箋がたくさん貼られており、この付箋の多さが“人気の証”とも言われる。付箋の管理もファンクラブが行っていて、迷惑にならないよう定期的に回収していた。誰もが知る有名なアイドルだけでなく、自分で自分を売り込むために広告を出す芸能人や、一般人が友人の誕生日祝いに広告を出すケースもある。

 応援されたアイドル本人が広告の前で「認証写真」を撮り、SNSに投稿したりしてファンに感謝の気持ちを表したりもすることもあり、ファンとアイドルをつなぐコミュニケーションの場にもなっている。ファンにとっては、自らがお金を出して設置した広告に本人がレスポンスをしてくれる嬉しさもあり、韓国国内や海外のファンがわざわざソウルに来て好きなアイドルの広告を巡る「巡礼応援」も活発に行われているようだ。

 韓国の広告市場は、ウェブサイトや動画サイト向けのデジタル広告が急増する一方で、伝統的な地上波放送や新聞・雑誌、屋外広告は右肩下がりの状況だ。広告市場に占めるデジタル広告の割合は2020年に半分を占める見込みである。ひと昔前までは、地下鉄駅構内も広告がほとんどなく白いボードばかりが目立ったが、韓国のアイドル業界が過熱するのに伴い、熱心なアイドルファンの「自分の推しの魅力を皆に知ってもらいたい」という思いが広がり、地下鉄の空いた広告スペースがあっという間に応援広告でいっぱいになった。

ソウル地下鉄を管理するソウル交通公社によると、応援広告は「オーディション番組が人気を集め始めた2016年頃から急増した」という。当時の韓国オーディション番組が「視聴者の投票でデビューメンバーが決まる」と宣伝していたこともあり、推しに投票してもらおうと、ファンが競うように広告を出したようだ。また、1日に約750万人が利用するソウル地下鉄だけに広告費も高額と思われがちだが、実はそれほど高くなく、例えば大型の電子看板の場合、1件当たり月約8万~39万円と手頃だ。この費用の安さも、応援広告が急増した大きな要因だろう。

 ソウル市とソウル交通公社によると、2019年に地下鉄駅構内に掲載されたアイドル広告は2166件だった。最も広告件数が多かったのは人気アイドルグループの「BTS(防弾少年団)」の227件で、次に「EXO」の165件、現在は活動を終了した「Wanna One」の159件と続く。ガールズグループでは、日本でも大人気の「IZ*ONE」が40件と最も多く、「TWICE」「BLACKPINK」がそれぞれ22件だった。

 今年は、K-POPの中でもガールズグループが大躍進している。特に勢いのある3大ガールズグループが、オーディション出身で日韓合同メンバーの「IZ*ONE」と「TWICE」、人気急上昇中の「BLACKPINK」だ。特に「BLACKPINK」の人気は韓国では凄まじく、6月26日に公開した新曲『How You Like That』のMVはK-POP史上最速で再生回数3.8億回(8月4日時点)を突破した。YouTube公式チャンネルの登録者数も4320万人を超え、K-POPアーティストのチャンネルとしては最多を記録している。メンバーのJISOOはクリスチャン・ディオール、JENNIEはシャネル、ROSÉはイヴサンローラン、LISAはセリーヌのアンバサダーを務め、韓国だけでなく世界での知名度も急上昇中だ。

 ここに新たに加わったのが、ソニーミュージックと韓国のJYPエンターテインメントとの共同オーディション番組『Nizi Project』からデビューした日本人ガールズグループ「NiziU」だ。韓国では、まだ正式デビュー前にもかかわらず、7月15日に公開された韓国版『Make you happy』のMVは再生回数1300万回(8月4日時点)を超えた。早くも「NiziU」ファンによる地下鉄の応援広告募金も始まっている。応援広告の数が韓国アイドル人気のバロメーターとなる中、今後は「NiziU」も代表的なガールズグループの一つとして、ソウル地下鉄を賑わす日は近いだろう。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。


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2020. 8.

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「NiziU」手掛けたJ.Y.Park 日本で“イメチェン”成功か?

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今、日本で大きな反響を呼んでいる9人組ガールズグループ「NiziU」。ソニーミュージックと韓国のJYPエンターテインメントとの共同オーディション番組『Nizi Project』からデビューした同グループだが、成功に導いたプロデューサーのJ.Y.Parkにも注目が集まっている。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 今日本で大人気の「NiziU」は韓国でも大きな話題となっている。6月30日にリリースされたNiziUのデジタルミニアルバム『Make you happy』の韓国版MVが7月15日公開されると、たった半日で200万回再生を記録。6月29日に1万9150ウォンだったJYPエンターテインメントの株価は7月20日時点で3万2450ウォンと1.5倍以上上昇し、時価総額は約1兆1100億ウォンを突破した。

 今年1月から始まった『Nizi Project』は、日本だけでなくJYPエンターテインメントのYouTube公式チャンネルでも公開されており、NiziUを応援する多くの韓国ファンがデビューまで見守り続けた。韓国メディアもオーディションの一部始終を報道し、「日本人中心のメンバーがK-POP式トレーニングでデビューする」という初の試みに期待が寄せられていた。

 だが、韓国ファンの間では『Nizi Project』の番組編集に不満の声も上がった。「オーディション参加者よりJ.Y.Parkが主人公みたい」、「J.Y.Park本人が日本でデビューしたくてNizi Projectを企画したように見える」、「誠実さや人間力がクローズアップされすぎ」「 “J.Y.Park名言集”まで登場している」など。さまざまな反応があるなか、特に多かったのが「J.Y.Parkが日本でイメチェンに成功している」といった声だ。

 というのも、私立名門の延世大学出身のJ.Y.Parkは、今でこそ作曲家、振付師、プロデューサーと活躍の幅を広げているが、もともと韓国では有名な歌手である。1994年に発表したソロデビュー曲ですぐに一躍有名になったJ.Y.Parkだが、歌で魅了する“普通の”タイプの歌手ではなかった。デビュー当時は、常にセクシーであることを追求し続けた「型破りな歌手」というイメージで活動していたのだ。

インタビューでは下着と靴下が丸見えの透明ビニールパンツ姿で登場したり、雑誌の特集でもヌード写真を公開したり、奇抜なファッションで歌ったりと、ずば抜けた歌とダンスでファンを魅了しつつも、音楽活動以外の面も際立っていた。韓国ではその頃のイメージが強いだけに、今回の『Nizi Project』でのJ.Y.Parkに“イメチェン感”を覚え、面白く受け止められたのだろう。

 韓国では今、J.Y.Parkに関する記事が出る度にかつての「透明ビニールパンツ」写真が再掲載されている。あまりにインパクトが大きいため、J.Y.Parkの歌手時代を知らない10~20代の若年層の脳裏にも焼き付いてしまうほどである。J.Y.Parkは、2015年にバラエティー番組に出演した際、「インターネットからあの(透明ビニールパンツ)写真を削除したい…」と嘆いていた。

 今はすっかり落ち着いて、K-POP界をリードするプロデューサーであり、オーガニック野菜と大量のサプリメントを欠かさない健康オタクのJ.Y.Park。その人柄も評判通りで、2020年6月に放送されたテレビ番組では、自身がプロデュースしたガールズグループ「Wonder Girls」の元メンバーが、別の事務所に移籍した後もJ.Y.Parkに仕事の相談をする様子が放送された。本人も2人の娘を持つ父親だからか、自身がデビューさせたメンバーをいつまでも心配し見守る姿は、父親そのものだった。

 J.Y.Parkは歌手活動も続けている。デビュー当時から「60才になっても歌って踊りたい」と語っていた彼は、昨年12月、自身が作詞作曲した曲の中で韓国の音楽チャート1位になった曲が50曲(2019年末時点で55曲)を突破したことを記念し、「Park Jinyoung Concert No.1 X 50」を開催。3時間のステージを1人で歌って踊った。

 J.Y.Parkが手掛けたガールズグループは全て成功し、プロデューサーとしての夢も着実に実現させている。日韓で愛されるNiziUのグローバルな活躍に今後も期待したい。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。


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2020. 7.

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