「脱・家電」のサムスンとLG、Z世代向けライフスタイルを提案

 2023年4月19日から21日にかけて韓国最大規模のIT展示会「World IT Show 2023」(WIS 2023、ソウル市COEX展示場)が開催された。主催は韓国のICT政策を担当する科学技術情報通信部(「部」は日本の「省」に当たる)、後援は産業通商資源部である。同展示会は、韓国の大手企業からスタートアップに至るまでが自社の技術力を一般消費者やバイヤーにアピールする場となっている。

 2023年に15回目を迎えたWIS 2023は、「世界の日常を変えるKデジタル」をテーマに約460社が出展した。マスク着用の義務が解除されたこともあり、久々に新型コロナウイルス感染症パンデミック(世界的大流行)以前の活気を取り戻した。各国の駐韓大使や大使館職員向けの展示会ツアーが主催者の科学技術情報通信部によって行われるなど、輸出商談会にも力が入っていた。

 展示ブースで最も人を集めていたのが韓国を代表する2社のSamsung Electronics(サムスン電子)とLG Electronics(LGエレクトロニクス)である。いずれもモバイル端末やスマート家電を中心に、1990年代半ば以降に生まれたZ世代の新たなライフスタイルを提案するコンセプト展示が人目を引いた。

日常のイノベーションを強調したサムスン

 今年(2023年)のサムスンは例年と違って伝統的な家電を一切展示せず、韓国で最も人気の最新スマートフォン「Galaxy S23」による日常のイノベーションを強調した。展示会の同社ブースではキャンピングカー、大学の講義室、ワンルームマンションを再現したコーナーに、Galaxy S23やノートパソコン、タブレットPC、ワイヤレスイヤホンなどのモバイルデバイスを置いて、Z世代の日常生活を再現していた。Z世代の生活の中心にスマホを据えて、サムスンのデバイスがもたらす利便性をアピールした。テレビがなくてもGalaxy S23で十分に動画やゲームを楽しめることも強調した。

 Galaxy S23の各種機能を体験できるコーナーの一つに、ネオンサインが輝く夜の街をイメージした暗い一角があった。100倍ズームや暗闇の中でも明るく鮮明に撮影できる機能をアピールするためのコーナーだ。このほかサムスンは持続可能なライフスタイルとして環境問題を意識し、ブースを設置する際にリサイクル可能な木材を使ったり、廃プラスチックでキーリングを作る記念品コーナーを設けたりもした。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. .4

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00084/

ついにメモリー半導体の減産決めたサムスン電子、米国半導体補助金の申請やいかに

韓国Samsung Electronics(サムスン電子)が2023年4月7日に発表した2023年1~3月期連結決算(速報値)と合わせて、1998年以来となるメモリー半導体の減産を公表した。売上高は63兆ウォン、営業利益は6000億ウォンだった。営業利益が1兆ウォンを下回るのは2009年1~3月期以来の14年ぶりである。韓国の証券業界の分析によると、半導体部門の赤字が4兆ウォン前後あるものの、新型スマートフォン「Galaxy S23」が大ヒットしたおかげで赤字は免れたようだ。

 速報値が市場の期待を下回ったことから、サムスン電子は実績下落の要因と同社の対応についての説明文を別途公開した。それによると、メモリー半導体は多数の顧客企業の在庫調整が続いたことから需要減が続き、システム半導体も景気低迷やオフシーズンの影響などでいずれも営業利益が前期比で下落したため、「有意味な水準までメモリーの生産量を下方修正中」とした。ただし、短期生産計画は減産を決めたものの、中長期的には堅調な需要が見込まれることから、クリーンルーム確保のためのインフラ投資を続け、技術リーダーシップ強化に向けた研究開発投資も拡大するとした。サムスン電子は2023年2月に子会社のSamsung Display(サムスンディスプレイ)から20兆ウォンを借り入れ、施設投資と研究開発に使うと公示した。

 メモリー半導体の世界トップ3のうち、韓国SK Hynix(SKハイニックス)と米Micron Technology(マイクロンテクノロジー)は2022年秋ごろから減産に入っているものの、サムスン電子は人為的な減産はしないという立場だった。サムスン電子はこれまでメモリー半導体の需要が減少して価格が下落して営業利益が赤字になっても減産に踏み込まず、競合他社がメモリー市場から撤退するか破産するまでチキンゲームを続けることで成長してきた。もちろん、メモリー半導体は需要が伸びたからといってすぐ生産量を増やせるわけではないので、半導体サイクルのアップダウンを考えると減産を決めるのが難しいという事情もある。

 台湾の調査会社TrendForceによると、2022年10~12月期の世界DRAM市場シェアはサムスン電子が45.1%と前期の40.7%から4.4ポイント増、SKハイニックスは前期比1.1ポイント減の27.7%、マイクロンは同3.4ポイント減の23%と需要減の中でシェアを伸ばし競合と格差を広げた。

 サムスン電子は2022年から生産ライン再整備でメモリーの生産を10%減らしてはいたが、今回は20%ほど減産するものとみられる。決算報告などからサムスン電子の在庫資産は2022年末時点で52兆1879億ウォンと初めて50兆ウォンを超えた。DRAMの在庫は通常5週間分ぐらい確保するところを21週分に達したという噂もあった。今回も当初は減産せずに競争を続ける姿勢を見せたが、このままではメモリー半導体の価格が生産原価以下になる可能性があるほど需要と価格が下げ止まらず、期待した中国市場の需要がなかなか回復しないことも影響したようだ。サムスン電子の減産決定でメモリー半導体の在庫が減り価格の下落も止まると見込まれることから、韓国では早速サムスン電子の株価が上がり続けている。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

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2023. .4

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00083/

韓国勢が電池展示会で中国勢のお株を奪うLFPを初公開、EV需要の変化に対応

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2023年3月15日から同17日(現地時間)にかけて、韓国ソウルにある複合施設「COEX」にて、2次電池産業展示会「Inter Battery 2023」が開催された。主催は韓国産業通商資源部(「部」は日本の「省」に相当)である。「Battery Connecting To ALL」をテーマに、韓国政府の「K-バッテリー発展戦略」を担うLG Energy Solution(LGエナジーソリューション)、SK On(SKオン)、Samsung SDI(サムスンSDI)の大手3社(以下、Kバッテリー3社)をはじめ、バッテリー関連の素材・原料、EV(電気自動車)、電力貯蔵システム(Energy Storage System)、バッテリーリサイクルといった幅広い分野の477社が出展した。

 今年の展示会では韓国勢が得意とする3元系ニッケル・コバルト・マンガン(NCM)電池だけでなく、中国勢が得意とするリン酸鉄リチウム(LFP)電池を初公開し、中国勢の市場シェアを奪いにいくという姿勢に注目が集まった。全固体電池のプロトタイプやコバルトフリー電池の展示もあった。


 海外勢のトレンドとしては、韓国企業との取引を望む米国やオーストラリア、インドネシア、カナダなどの自治体や団体が出展し、鉱物採掘状況や税制優遇策などに関する説明会を開いたのも印象深かった。

 駐韓米国大使館はバッテリー電気自動車(BEV)関連のフォーラムを開催。インディアナ州、オハイオ州、ミシガン州、テネシー州、ケンタッキー州の幹部らが来韓して、EVバッテリー企業の米国進出を手助けすべく、税制優遇策などをアピールした。北米で最終組み立てとなるEVを対象に補助金(税額控除)を支給する米国の「インフレ抑制法」により、韓国バッテリー企業は北米に進出せざるを得ない状況だ。その工場を自分の州に誘致しようという各州の意気込みが見られたフォーラムだった。

 駐韓オーストラリア大使館はバッテリー鉱物関連のセミナーを開催し、ニューサウスウェールズ州、クイーンズランド州、中央政府のThe Critical Minerals Officeの担当者が自国の鉱物生産状況を説明した。韓国政府は鉱物の輸入を特定国に依存せず核心鉱物の再資源化を2022年の2%から2030年は20%に引き上げることを目標にした「核心鉱物確保戦略」を進めている。これを受けて韓国産業通商資源部はInter Battery 2023を、鉱物を⽣産する国と幅広く交流できる場にした。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. .3

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00082/

韓国通信大手3社がOpen RAN導入へ、ドコモや富士通など日本勢との連携も加速

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2023年2月27日から3月2日にかけてスペインのバルセロナで世界最大級のモバイル関連展示会「MWC Barcelona 2023」が開催された。韓国内では、中国の華為技術(ファーウェイ)が韓国Samsung Electronics(サムスン電子)より5倍以上も大きなブースを構えた点や、今年のMWCの主役の1つであった様々なベンダーの基地局製品を相互接続できるようにする技術「Open RAN」関連の展示が目立った点などが話題になっている。

 Open RAN は、5G(第5世代移動通信システム)から6Gに向けて進展するモバイルネットワーク市場で注目されている技術だ。Open RANを導入することで、通信事業者は適材適所で必要な製品を選べるようになる。既存の基地局は同じ会社の製品をそろえないと通信を確立できないという問題があった。通信キャリアはOpen RANによって特定のベンダーに依存せずに、最新の技術をいち早く導入できるほか、柔軟で効率のよい運用によって設備投資と運用コストを抑えられるという期待がある。

 韓国でも、韓国KTと韓国SK Telecom(SKテレコム)、韓国LG U+という通信大手3社がOpen RANに準拠した基地局のテストを進めている。ベンダー側もサムスン電子が、NTTドコモやKDDI、米Dish Network(DISH)、英Vodafone Group(ボーダフォン・グループ)などに対し、Open RAN対応の5G基地局や仮想化基地局(vRAN)製品を提供している。

 韓国科学技術情報通信部の調べによると、韓国の大手3社の全加入者に占める5G加入者の割合は、いずれも半数を超えた。

 加入者の増加に合わせて韓国通信大手は5G基地局数を増やす必要がある。韓国政府は電波が飛びにくいミリ波28GHz帯の基地局について、展開がなかなか進まなかったことでKTとLG U+の免許を取り消している。韓国ではより電波が飛びやすいSub6帯の5G基地局展開が中心だ。Open RANで5G基地局のマルチベンダー化や設備投資と運用コストの削減を見込めることは、5Gサービスの拡大において重要な要素となる。

韓国政府は中小ベンダー育成にも本腰

 韓国通信大手3社は、Open RAN導入に向けて活発的に動き出している。

 KTは今回のMWCに合わせて、NTTドコモと仮想化基地局を含めてOpen RANのエコシステムを世界に広げていくために協力関係を強化すると発表した。KTとNTTドコモは長く協力関係にある。2022年1月にはNTTドコモや富士通と共に、Open RANの技術仕様に準拠した5G基地局の動作確認を完了。2022年10月には、5Gスマホから発信した信号がOpen RAN対応5G基地局を経由し、コアネットワークに届くまでの相互接続試験に成功していた。

 KTは、Open RANの仕様を策定する業界団体「O-RAN ALLIANCE」にも積極的に仕様を提案している。2022年7月には、KTがO-RAN ALLIANCEに提案した仕様が標準として承認されている。

 ファーウェイ排除を世界で加速するためにOpen RANを後押しする米国政府も、KTのOpen RAN導入に期待する。米国のフェルナンデス国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)は2023年1月、訪韓した際にKTを訪問し、中国勢をけん制するためにもOpen RANの導入を広げてほしいと要請したという。

 SKテレコムも2023年1月、フィンランドの通信機器大手Nokia(ノキア)と協力し、韓国で初めてOpen RANに対応した仮想化基地局を商用ネットワーク内に設置し、安定した5Gサービスとカバレッジ性能を確認できたと発表した。同社は韓国ソウル市郊外にOpen RANテストラボをオープンし、国内外の企業の研究チームと幅広く協力を進めている。2022年12月にはSKテレコムとLG U+がO-RAN ALLIANCEが主催するOpen RAN対応機器の相互接続イベント「PlugFest」で基地局接続テストの結果を公開した。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

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2023. 3.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00080/

韓国大手2社の5Gミリ波を取り消し、政府は「第4の事業者」参入を画策

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韓国のICT政策を担当する科学技術情報通信部(部は日本の省に当たる)は2022年12月、韓国通信大手3社のうち韓国KTと韓国LG U+(LGユープラス)の5G(第5世代移動通信システム)向け28GHz帯(ミリ波)電波割り当てを取り消した。2社が電波割り当ての際の基地局設置条件を満たせなかったからだ。韓国通信最大手の韓国SK Telecom(SKテレコム)は、ミリ波電波の割り当て取り消しこそ免れたものの、基地局展開が遅れているとして、当初5年としていた同周波数帯の利用期間を半年短縮された。

 ミリ波の電波は、帯域を豊富に使えるために高速・大容量通信を実現できる。その一方で高い周波数帯であるため直進性が高く、電波が遠くまで飛ばない。ミリ波は多くの基地局を設置する必要があるため、韓国通信大手3社は展開に二の足を踏んでいる。

 実際、韓国通信大手3社は、一般消費者向け5Gサービスを、電波がより飛びやすいSub6帯と呼ばれる3.5GHz帯のみで提供している。ミリ波の28GHz帯の展開は、法人向けスマートファクトリーなど特定企業の敷地内などにとどまる。

 韓国通信大手3社は、ミリ波の展開が遅れている理由として、28GHz帯に対応したスマホが韓国内で販売されておらず、基地局に投資しても使う人がいないと弁明する。一方で端末メーカーの韓国Samsung Electronics(サムスン電子)は、韓国通信大手3社が一般消費者向けにミリ波5Gサービスを提供しないので、スマホにミリ波機能を搭載しなかったと説明する。「鶏が先か、卵が先か」という状況に陥っている。

 こうした事態から韓国では2021年、韓国通信大手3社の5Gプランに加入した利用者による集団訴訟も起きている。韓国通信大手3社はCMで、LTEよりも20倍速いミリ波の5Gを利用できるようになると宣伝したものの、実際には一般消費者向けには提供されておらず、大手3社は不当な利益を得ているという訴えだ。訴えを起こした原告は、5G契約を無効だとして、これまで支払った料金の払い戻しを求めている。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 


(NIKKEI TECH)

2023. 2.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00079/

サムスンが最新Galaxyに2億画素イメージセンサー、打倒ソニーへの試金石

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韓国で2023年2月7日から予約販売が始まった韓国Samsung Electronics(サムスン電子)の最新スマートフォン(スマホ)「Galaxy S23シリーズ」が好評だ。最上位モデルのGalaxy S23 Ultraは、同社が開発した最新の2億画素イメージセンサーを採用し、高品質なカメラ機能を最大の売りとする。サムスン電子にとって、イメージセンサー市場の絶対的王者であるソニーグループを追撃するための重要な製品でもある。打倒ソニーグループへ向けた弾みとなるか。

 同製品を販売する韓国の大手通信事業者3社の集計によると、Galaxy S23シリーズの予約数は前機種のS22シリーズを上回るなど好調な出足だ。予約販売のうち、6割が最上位モデルのGalaxy S23 Ultraを選択しているという。

 Galaxy S23 Ultraは、サムスン電子のスマホで初めて2億画素のイメージセンサーを採用した。2023年1月に発表したばかりの同社製イメージセンサー「ISOCELL HP2」である。0.6μm ピクセルの画素を2億個備えており、高画質で正確なフォーカスや、より素早い処理を実現した。

 Galaxy S23 Ultraは、2億画素のカメラに加えて、1200万画素のカメラ、2個の1000万画素のカメラを搭載する。動画は最大8K画質で撮影可能だ。夜景モードを使うことで、人工知能(AI)がノイズを取り除き夜間でも明るくきれいに撮影できる。新たに「アストロハイパーラプス(天体写真撮影)」を搭載し、同社は銀河(Galaxy)も撮影できると宣伝している。

 実際、Twitterでは、Galaxy S23 Ultraを使って100倍ズームで月の表面まで鮮明に撮影された写真が、驚きとともにシェアされている。

 Galaxyシリーズの手ぶれ補正100倍ズームの実力は、前機種のGalaxy S22 Ultraから定評がある。例えば韓国のアイドルファンは、普段は米Apple(アップル)の「iPhone」を使っていても、コンサートやイベント前にはGalaxy S22 Ultraをレンタルして100倍ズームで「推し」の写真を撮影するのが流行している。最新機種のGalaxy S23 Ultra は、100倍ズーム機能も向上したとして期待を集めている。

 サムスン電子は2023年2月1日に米国で開催した新機種公開イベントにおいて、「Galaxy S23シリーズは性能と品質全てにおいて過去最高だ」と強調した。イベントでは、Galaxy S23 Ultraで撮影したリドリー・スコット監督の短編映画『Behold』やナ・ホンジン監督の『Faith』も公開し、夜間でも高画質で安定した画面を撮影できる点をアピールした。

 韓国内では、風景写真こそGalaxyのほうが上だが、人物写真についてはiPhoneの方がきれいに撮れるという口コミも根強い。サムスン電子は、Galaxy S23シリーズではフロントカメラを使った自撮りでも画質を強化したと説明している。世界的な景気低迷によってスマホの販売台数が低下する中、同社はカメラ機能の強化でスマホ市場の世界シェア首位を守る考えだ。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 2.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00078/

半導体支援巡り二転三転、韓国政府が税額控除率25%の大型支援に踏み切る

半導体産業への支援を巡って与野党の対立が続いている韓国政府の方針が二転三転している。2022年12月末の韓国国会において可決された、半導体などの設備投資を行った大企業に対し投資額の8%を税額控除するという方針をわずか11日で撤回。2023年1月、追加控除を加えると最大25%を税額控除するという新たな方針を発表したからだ。韓国政府は当初、大幅な税額控除は難しいという立場だった。産業界の猛反発を受けて方針転換を余儀なくされた格好だ。

 韓国政府は2023年1月3日、半導体を含む国家戦略技術の設備投資を行った大手企業や中堅企業に対し投資額の15%を税額控除するという新たな税制支援強化策を発表した。中小企業の場合、25%を税額控除する。さらに2023年の期間限定で、直近3年間の年平均投資額を超えて設備投資した場合、追加で投資額の最大10%を控除する。追加控除を含めると、税額控除率は大手企業・中堅企業の場合が最大25%、中小企業の場合に最大35%となる。現在の韓国の税額控除率は大手企業の場合6%、中堅企業が8%、中小企業が16%である。そのため大幅な支援拡大となる。

 日本の財務省に相当する韓国・企画財政部は「半導体設備投資の税額控除率は米国が25%、台湾が5%であり、韓国政府は世界最高水準の税制支援をする」と強調した。支援対象となる国家戦略技術には、ファウンドリー向けの設計IP(Intellectual Property)検証技術や非メモリー半導体のテスト技術などが含まれる。加えて過去最高額である50兆ウォン(約5兆3000億円)規模の政府融資枠も用意した。

 半導体は韓国の主力産業であり同国の経済成長をけん引してきた。しかし2022年から続く景気悪化により韓国経済は大きな打撃を受けている。韓国の経済団体である大韓商工会議所は半導体産業の景気低迷は2023年末まで続く可能性があると指摘。半導体産業に対する政府支援が必要だとして、半導体設備投資の税額控除の大幅拡大や規制緩和などを求めていた。

 最大25%の税額控除率という大きな支援策を打ち出した韓国政府であるが、実はここに至るまで方針が二転三転している。

 韓国与党の「国民の力」は2022年8月当初、大手企業20%、中堅企業25%、中小企業30%という税額控除率を求めていた。しかし野党は、この方針について大手財閥優遇だと反発。大手企業10%、中堅企業15%、中小企業30%の税額控除率にするよう主張していた。

 与野党の対立が続いて硬直状態に陥る中、韓国・企画財政部は、大手企業の場合、8%以上の税額控除率は難しいという主張を始める。法人税収入の減少の懸念からだ。

 最終的にはこの企画財政部の主張が通り、韓国国会は2022年12月23日、法人税の税額控除率を大手企業の場合、8%にする方針を可決した。

 だが議論はここで終わらなかった。現状の6%よりは引き上げられるものの、8%という税額控除率は米国や台湾と比べても少なすぎると韓国産業界が猛反発。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領も税制支援を拡大するように指示し、韓国政府は一旦可決した方針の見直しを迫られたからだ。

 結局、冒頭の通り、韓国政府はわずか11日で方針転換。大幅な税制支援策を打ち出すことになった。新たな方針には国会同意が必要だ。韓国国会は2023年1月末現在、改正したばかりの法案を再び改正するための議論が続いている。


趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 1.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00077/

CES 2023の展示から見えた韓国サムスンとLGの変化、ハードからソフトへシフト

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 2023年1月5日から8日(現地時間)にかけて、米国ラスベガスで世界最大級のテクノロジーイベント「CES 2023」が開催された。直近2回のCESは新型コロナウイルスの感染拡大の影響で規模縮小が続いていたが、今回のCES 2023は出展企業も拡大し、活気が戻ってきたという。中国勢の出展が減る中、大きな存在感を見せたのが韓国勢だ。韓国Samsung Electronics(サムスン電子)、韓国LG Electronics(LG電子)という大手に加えて、スタートアップなど韓国企業500社以上が出展した。韓国メディアが報じた、CES 2023の見逃せないポイントについて紹介しよう。

 韓国メディアは今回のCES 2023について、「韓国勢を含め、アッと驚くイノベーション製品は見当たらず、よりスマートで環境にやさしいライフスタイルを提案する目立たないイノベーションの展示が主流だった」「モビリティーやメタバース、ヘルスケア、スマート金融など産業と産業の境界がなくなる動きが加速した」などと指摘する声が多かった。例年ハードウエアの展示が目立つCESであるが、今回はソフトウエアが中心になったと評価する意見も目立つ。

 ソフトウエア重視の展示は、サムスン電子とLG電子という韓国の大手2社も同様だ。両社は例年CESの展示において、「世界初」「世界最高」をうたうテレビやスマート家電を競い合うのが名物だ。世界的な景気後退によって家電の売り上げが減速する中、両社がどんな展示をするのか注目を集めていた。蓋を開けてみると両社共にハードウエアの新製品よりも、「環境」や「利便性」を強調する展示となった。

 サムスン電子は2022年からキャッチフレーズとして掲げる「Calm Technology」を前面に打ち出した発表だった。Calm Technologyとは、人が意識することなく日常に浸透した静かなテクノロジーといった意味だ。

 同社は、ネットワーク接続された家電をスマホのアプリケーションから制御できる「SmartThings」を活用した、環境にやさしい製品群などをアピールした。例えばSmartThingsを使って省エネを実現できるサービス「SmartThings Energy」については、米国コロラド州の1万2000世帯を対象に実証実験を進めている様子などを紹介した。

 充電器サイズの小型スマートハブ「SmartThings Station」も初めて披露した。パートナー会社の家電も含めて複数のデバイスと接続できる互換性を持ち、様々なデバイスを簡単にコントロールできるようになるという。

 サムスン電子独自の省エネ技術によって、利用者は同社の製品を使うだけで環境保護に寄与することになるという点も強調した。米環境保護庁をはじめとした多様なパートナーと協力し、家電使用による温暖化ガス排出量を削減していくための業界標準づくりにも力を入れているという。同社の家電部門は2027年までに100%再生エネルギーを導入し、2030年には同部門でカーボンニュートラルを達成するという発表もあった。

 ソフトウエア重視の姿勢は、サムスン電子のあらゆる家電分野に見られる。例えばロボット掃除機において、家の構造や利用者の位置など空間を認知し、よりスマートな動作を可能にするようなAI(人工知能)の開発を進めているという。ブロックチェーン技術にも力を入れており、ネットワーク接続された家電のハッキングを防止し、一人ひとりに合わせた機能を提供するために活用する方針も明らかにした。

 サムスン電子はこれまでのCESにおける主役だった大型テレビ製品について、別会場で限定公開したという。これは中国勢による技術コピーを防ぐためというのが、韓国メディアのもっぱらの見方だ。

 サムスン電子副会長のハン・ジョンヒ氏は2023年1月6日(現地時間)、CES会場で行われた記者説明会で、「(業績の悪化により)期待に応えられず残念だが、投資減縮計画はない。技術イノベーションで顧客価値を創出し続ける。新たな成長分野としてロボットやメタバースなどに期待している」「M&A(合併・買収)の計画は、ロシアによるウクライナ侵攻や米中貿易摩擦などの影響で遅れているが、良い知らせを期待できるだろう」などと説明したという。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 1.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00076/

米インフレ抑制法対応で揺れる現代自動車、米工場投資見直しも示唆

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米国で2022年8月に成立した、再生可能エネルギーを推進する「歳出・歳入法(インフレ抑制法)」への対応を巡り、韓国Hyundai Motor Group(現代自動車グループ)幹部の発言が注目を集めている。インフレ抑制法は、北米で最終組み立てした電気自動車(EV)を対象に、補助金(税額控除)を支給する法律である。韓国で車両を生産して北米に輸出している現代自動車グループのEVは補助金対象外となり、北米での販売が不利になる。同社幹部は2025年に稼働開始予定の米ジョージア州工場への投資見直しもちらつかせる。


 公正競争を確保できなければ、米ジョージア州の工場投資を見直す可能性もある――。現代自動車北米法人の幹部が米インフレ抑制法の対応を巡って、このような発言をしたと韓国メディアが報じたことから注目を集めている。

 インフレ抑制法は、北米で最終組み立てしたEVを対象に、補助金を支給する法律だ。韓国で車両を生産して北米に輸出している現代自動車グループや、韓国Kia Motors(起亜自動車)などは補助金の対象外となる。このままでは現代自動車らのEVは2023年から補助金対象外になるため、他のメーカーより価格が高くなる恐れがある。

 現代自動車や起亜自動車のEVは北米のEV販売台数でトップ3に入るなど好調だ。しかし株式市場は、インフレ抑制法によって両社の販売台数が落ちると見ており、株価は下落を続けている。

 インフレ抑制法が現代自動車の成長を阻害するのであれば、同社も黙っていないというメッセージとして打ち出したのが、米ジョージア州に建設中のEV専用工場「Hyundai Motor Group Metaplant America(HMGMA)」の投資見直しの可能性である。

2025年までの猶予を求める

 現代自動車は2022年10月に、米ジョージア州新工場の起工式を開催した。同社は同工場に55億4000万ドル(約7360億円)を投資し、2025年上半期からEVの量産を開始する計画だ。年間30万台規模の生産を見込む。

 米ジョージア州の新工場には、AIベースの制御システムやロボティクス、環境にやさしい低炭素工法、安全で効率的な作業などを取り入れる予定だ。未来型のモビリティー工場を目指し、多品種のEVを需要に応じて柔軟に生産できるようにする。

 現代自動車は、米ジョージア州の新工場でEV生産が始まる2025年まで、インフレ抑制法の適用の猶予を求めている。この北米新工場で主力EVの量産を始める2025年以降、同社のEVはインフレ抑制法による補助金の支給対象になる。問題はそれまでの期間だ。現代自動車のEVは補助金対象外となり、その分高くなる。だからこそ同社幹部は米ジョージア州の新工場の投資見直しをちらつかせながら、インフレ抑制法の見直しを求めているわけだ。

 現代自動車は2022年5月、EVのラインアップ拡充に向けて2030年までに21兆ウォン(約2兆2000億円)を投資し、2030年にEV販売を323万台まで伸ばす。これにより、グローバルのEVシェアで12%確保するという目標を発表した。2030年までに高級車「Genesis」を含めて18車種以上のEVをそろえるとした。2022年に販売開始した同社の新型セダンEV「IONIQ 6」は好評で、2024年に後継の「IONIQ 7」を公開する予定である。ただインフレ抑制法の補助金対象外のままだと北米での販売が不利となり、これらの目標も見直しを余儀なくされる。


趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 1.

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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00075/


半導体産業支援を巡って与野党対立の韓国、世界の主導権を守れるのか

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米国など各国政府が半導体を戦略物資として重点施策を打ち出す中、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)と韓国SK Hynix(SKハイニックス)という半導体世界大手を抱える韓国内が揺れている。韓国政府が打ち出す半導体産業への支援金が他国と比べて少なすぎるという声が日に日に増しているほか、半導体産業への法人税控除額を巡って与野党の対立が続いているからだ。半導体強国である韓国はどこへ向かうのか。

「海外に比べて韓国政府の支援が少なすぎる」

 米国や欧州連合(EU)、日本、中国、台湾などが半導体を戦略物資として捉え、次世代半導体の技術力と生産力を確保するために、各国の政府が多額の支援を惜しまないようになっている。

 例えば米国は2022年8月、半導体産業の技術的優位を維持するため、バイデン米大統領が半導体産業を支援する「CHIPS・科学法」(CHIPS and Science Act)に署名した。同法に基づく予算は5年間で総額2800億米ドル規模(約38兆3400億円)だ。このうち527億米ドル(約7兆2200億円)が米国内で半導体を生産する企業への支援金となる。

 EUの欧州委員会も2022年2月、域内の半導体生産拡大に向け2030年までに官民で430億ユーロ(約6兆1900億円)を投じる「欧州半導体イニシアチブ」(Chips for Europe Initiative)に合意した。EUの半導体生産シェアを、現在の10%から2030年には20%へと拡大する目標を掲げる。

 中国も半導体自立のエコシステムを目指す。台湾は早期に政府が半導体産業支援を始めた。台湾には世界最大のファウンドリー企業である台湾積体電路製造(TSMC)を中心に技術力のある半導体企業がある。

 日本も次世代半導体の国内生産を目指す新会社「Rapidus(ラピダス)」が2022年11月に発足した。ラピダスについては韓国メディアも注目している。「半導体再建、日本のドリームチーム集結」「日本半導体同盟設立、過去の栄光を取り戻せるか」「日本、先端半導体国産化始動」など詳細な報道が連日のようになされている。

 こうした中で韓国内は、半導体産業に対する韓国政府の支援が海外に比べて少なすぎると懸念する声が日に日に大きくなっている。韓国政府が2022年7月に発表した「半導体超強大国達成戦略」の主な内容は、半導体工場の容積率を現状の350%から490%へと高めるほか、半導体産業団地の造成に関する認許可は重大な公益の侵害がない限り迅速に手続きするとなっている。

 実はこれまで韓国内の半導体工場建設を巡って自治体とのトラブルが発生し、建設が思うように進まないケースがあった。SKハイニックスが2019年2月に発表した、約120兆ウォン(約12兆円)を投資する韓国・龍仁(ヨンイン)半導体クラスター計画だ。工場用水の影響で農業用水が不足して、住民の利益が侵害されると懸念した隣接自治体が許可を出さず難航していた。2022年7月の半導体超強大国達成戦略の発表後、政府が積極的に仲裁に入り、2022年11月に自治体が許可を出し、2027年4月の稼働に向け再び動き出した。

 この他、半導体超強大国達成戦略では、2031年まで大学の定員を増員し、半導体専門人材15万人以上を養成する計画や、半導体特性化大学院を新設した大学の教授の人件費と研究用機材費、研究費を政府が支援するといった内容が含まれている。

 韓国内における2023年の半導体支援予算額は、韓国産業通商資源部(部は省に当たる)が前年比13.6%増の2507.7憶ウォン(約260億円)、韓国・科学技術情報通信部が前年比28.7%増の2440.3憶ウォン(約254億円)といずれも大幅に増額した。しかしそれでも産業界や学界からは、「海外に比べて物足りない」「政府と国会がもっと大胆に支援すべきだ」という声が相次いでいる。



趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. .12

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00074/