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ソーシャルメディアに限らず、ネットを使い、デジタルデバイスを使っている限り、記録は残る。韓国ではこのような記録を物証とするデジタルフォレンジック(Digital Forensics)による捜査が年々増えている。
削除したEメールやショートメッセージ、デジカメの写真、検索したキーワード、チャット内容、訪問したホームページなどから探し出した決定的な証拠が犯人逮捕につながることが何度もあったからだ。携帯電話を使った位置追跡、サイトにログインしたIPアドレスから場所を割り出すのは基本中の基本である。YouTubeや動画投稿サイトにあった何気ない動画が証拠や事件解決の糸口になることもあった。目撃者がこんなことがあったと動画を載せる場合もあるが、犯罪を自慢するため犯人が自ら写真や動画を投稿することもあるそうだ。
また、メッセンジャーを使ったなりすまし詐欺は韓国でなくならない犯罪の一つである。メッセンジャーのIDをハッキングして、その人の友人にチャットで母の急病だとか、交通事故で加害者になってしまってお金が必要だとか、嘘のメッセージを送って振り込んでもらう手法である。こういった事件もデジタルフォレンジックによる捜査で解決していく。
韓国検察庁デジタルフォレンジックセンターのデジタル証拠分析件数は、2008年の916件から2009年には1546件に急増し、2010年は8月時点で1774件を突破している。これに対抗して、自分の記録をきれいに削除できる、ファイルを復元できないよう完全に削除するプログラムもどんどん普及しているから怖い。
ただしプライバシー侵害、人権侵害という批判もあるためデジタルフォレンジックによる捜査は慎重に行われる。そのせいで思うように捜査できないこともあるという。
検察はデジタル捜査を担当する専門家を増やすため、検察内部で実施していたデジタル捜査資格認定試験を韓国刑事訴訟法学会に移管して一般人も試験を受けられるようにする方針だという。警察庁のサイバー捜査隊も警察内部から専門知識のある人を採用していたが、民間からの特別採用を実施している。ハッキング担当、データベース担当、ネットワーク担当、ワイヤレス担当、プログラミング担当、デジタルフォレンジック担当に分けて採用する。情報処理関連資格を持ち、民間企業で電算管理業務3年以上経験のある人、またはコンピューター工学、ソフトウエア工学、情報保護を専攻した修士以上が対象となる。
アメリカでは、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアとインターネット電話を対象に司法当局が監視できるようにする技術導入を義務化する話が出ているというからすごい。監視できないシステムではサービスを提供できなくする強引なもので、政府がソーシャルメディアをずっとモニタリングしていられる技術を導入するという話である。まだ検討中とのことだが、アメリカがやれば世界で広まることは間違いない。
アメリカでは麻薬犯罪にP2Pやソーシャルメディアが使われることが多いということで、監視体制を持つことが大事だという意見もあれば、大量に確保した個人情報が悪用される可能性、監視システムそのものがハッキングされる可能性を指摘する意見もあり、議論は続きそうだ。
ソーシャルメディアを使うことで口コミを広げ、自殺を食い止めたり、急患を助けたり、いいこともたくさんある。韓国の警察はTwitterも運営していて、一般人は、ここに110番(韓国では112番)するのは怖いけど、自分が目撃したことがもしかして捜査のためになるかもしれない、という情報を寄せられる。そのため、警察はTwitterを使った迅速な通報システムを構築するかどうか悩んでいるという。
ネットなしの生活はもう考えられない。一方でネットに書き込んだ一言で会社をクビになったり、訴訟されたり、命取りになってしまった人がどんどん増えている。ソーシャルメディアを使った詐欺もどんどん増えている。デジタル捜査官やサイバー捜査隊を増やすとしても、犯罪が発生してから動くしかないので、予防のためにはユーザー個人がしっかりしていないといけない。Twitterに気ままにつぶやき続けるべきか、他人を意識して当たり障りのないことだけつぶやくべきか、悩む日々だ。疲れる~。
趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2010年10月21日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101021/1028095/