SNS選挙運動効果なし? ネット世論と投票結果に差:大統領選 [2012年12月28日]

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2012年12月19日に行われた第18代目大統領選挙は、スマートフォンが普及してから初めて行われる大統領選挙でもあり、モバイル/SNSで燃えた選挙だった。

 ポータルサイトのNAVERによると、大統領選挙特集ページの1日平均ページビューは、パソコン向けページが6300万件、モバイルページはPCの3倍ほど多い2億件を突破した。モバイルページの1日当たりのページビューは4月の総選挙の時よりも多く、最高記録を更新した。


 ポータルサイトのDAUMもモバイルページの利用の方が多かった。選挙特集ページの選挙当日ページビューはPC向けページが1億3000万件、モバイルページが2億1300万件だった。モバイルページのアクセスは前月比3倍も伸びた。特に政治討論ができるネット掲示板は、スマートフォンモバイルからの書き込みと閲覧の方が多かったほどである。
 







NAVERのモバイル向け大統領選挙運動特集ページ。2012年の大統領選挙はPCよりモバイルページのページビューの方が圧倒的に多かった



 NAVERとDAUMは、大統領選挙はオフライン選挙運動からオンライン選挙運動へ、さらにモバイル選挙運動に変わったと評価した。その理由はやはりスマートフォンの普及と選挙法の改訂にある。SNS選挙運動が合法となり、誰でも自由にTwitterやFacebookから「私は○○の理由で○○候補を支持します。あなたも投票してね」と選挙運動ができるようになった。またネット上の掲示板に書き込む際には、国民IDである住民登録番号を入力して本人確認をするインターネット実名制度というのがあったが、それも廃止されたため、匿名でも自由に選挙や政治についてつぶやけるようになった。以前は選挙陣営の担当者、政党担当者、候補本人以外の一般人が選挙に関してネットに書き込むと、すぐ選挙法違反だとして本人を突き止めて捜査をするので、怖くて何も書けないというほどだった。今回の大統領選挙では表現の自由が最大限守られた。


 SNSで自由に発言してもよくなったことで、ポータルサイトのニュースをSNSにリンクして意見をつぶやいたり、自分が支持する候補の情報をRTしたり、友達に教えてあげたり、選挙に関して積極的に意見をいう20~30代がとても多かった。Twitterでも、韓国ではLINEよりユーザーが多いカカオトークでも、タイムラインから大統領選挙の話題が消えることがなかったほど盛り上がった。韓国のリサーチ会社DMCの調査によると、有権者の40.4%が「大統領選挙関連ニュースや公約などの情報をスマートフォンから得た」と答えた。


スマートフォンの普及がSNS選挙運動を後押し


 韓国のスマートフォン利用者動向を見ると、全体の普及率は約65%、50~60代のスマートフォン利用率も25%ほどある。スマートフォンは若い人の専有物とはいえないほど広く使われるようになった。スマートフォンの高い普及率は、SNS選挙運動、モバイル選挙運動が盛り上がった理由のひとつである。


 大統領候補はSNSの公式IDを通じて公約を発表し、その日のスケジュールを公開した。候補らは動画投稿も積極的で、街角演説をリアルタイムで中継したり、候補の1日のスケジュールをずっと追いかけるストリーミング放送を流したり、いつでもどこでも候補の情報をスマートフォンから手に入れられるようにした。SNSでは有権者からの質問や声援に答え、フレンドリーなイメージを作ろうとがんばった。


 各政党の選挙対策本部は、SNS専門チームを結成し、SNSでデマが広がらないよう対応した。SNS競争が激化しすぎて、与党のセヌリ党と野党の民主統合党は、違法なSNS選挙運動をしているとお互いを攻撃した。アルバイトを大量に雇い、Twitterやネットの掲示板にお互いの候補の悪口を書き込んで落選させようとしたというのだ。SNSの世論操作はなかなか証拠がつかめないため、うやむやになってしまったが、大統領候補らのSNSのフォロワー数やつぶやき内容をめぐる神経戦もすごかった。


 盛り上がったSNSだったが、選挙結果にどう反映したのか。米ツイッターが韓国の大統領選挙関連つぶやきを分析したところ、Twitterの中では改革勢力の候補が圧倒的に支持されていた。米の大統領選挙では、Twitterでオバマ大統領に関するつぶやきの方が多く人気で、実際にオバマ大統領は再選に成功した。


 ところが、韓国はTwitterで支持された候補は落選し、人口ボリュームの最も多い50代以上が支持する保守派候補が当選した。SNS選挙運動がどんなに盛り上がろうと、高齢化には勝てなかったようである。SNS選挙運動によって選挙への関心は高まり、投票率は伸びたものの、SNSで人気の候補が当選するには至らなかった。


 2002年と2012年を比べると、この10年で20~30代の有権者数は10%減り、50代以上の有権者数は10%以上増えた。SNSよりはテレビ討論、街角演説、紙の新聞記事を信頼する高齢者が選択した候補が大統領になったことで、SNS選挙運動は意味がないのではないかという分析まであった。しかし今は過渡期で、韓国のスマートフォン普及率が90%近くなる5年後の大統領選挙では、手軽で瞬時に情報が広がるSNS選挙運動が何よりも影響を与えるのではないか、という見方もある。


 今回の選挙結果はシニアの勝利に見えるが、スマートフォンに慣れている40代が50代になる5年後、10年後には、街角演説がなくなりSNS選挙運動が当たり前になるのではないだろうか。






趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20121228/1075422/

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