例えば日本のiモードの公式サイトになった場合、キャリアとコンテンツプロバイダー(CP)との利用料配分はキャリアが9%でCPが91%と配分率が公開されている。携帯電話キャリアはヒットコンテンツを見つけて利用させて通信費で儲ける(今はそうもいかなくなったが)というのが基本的なビジネスの仕組みだった。韓国ではCPとの契約なんてキャリアの勝手。利用料の60%をキャリアが持っていくなんていう契約もあれば、30%しか持っていかない契約もある。どことどのような契約をするかは、キャリアの勝手なのだ。韓国の放送通信委員会はこれは不公正取引行為として、キャリアとCPとの契約関係を改善すべく制度改善のために調査に着手した。
韓国ではほとんどのコンテンツ契約がCPや製作した人は4割未満の配分となっている。キャリアやポータルサイトはいつも「本の印税は10%。それに比べたら40%ももらえるなんてステキな契約じゃないですか」という。日本のキャリアは手数料として9%ほどしか取らないと聞いてびっくりしてしまった。アップルのApp Storeだって手数料は30%だというのに。当然のことだが、iPhoneが韓国に入ってきたらCPはみんなApp Storeを狙うだろう。
今はまだ端末に韓国標準プラットフォームWIPIを搭載しない限りiPhoneは韓国で販売できないと止めてはいるものの、端末ラインアップを豊富にして顧客の離脱を防止したいキャリアの要請から、WIPI搭載義務の廃止は時間の問題といわれるようになった。iPhoneとApp Storeが押し寄せてきたとき、韓国のキャリアは今のままで大丈夫なのだろうか。
韓国は日本と違ったビジネス環境でもある。韓国のモバイルコンテンツはマスターCP(キャリアの子会社になっている場合が多い)と呼ばれる大型CP経由で納品される。キャリアとの直接交渉ではなくマスターCPと交渉しなければならないし、経由点が多いから手数料として取られるのも大きいかもしれない。また日本ではキャリアは場所を提供し、コンテンツはCPが担当するという立場だが、韓国はキャリアがコンテンツ開発に積極的で、映画会社やレコード会社を買収してコンテンツ勢力を拡大させている。
放送通信委員会の通信利用制度課は、モバイルインターネット・コンテンツの活性化と有望新規事業者発掘のための公正競争環境を作ろうとしている。キャリアとCPの契約から端末会社とCPの契約へ変わっていこうとしている中、新しいモバイルコンテンツ事業者がどんどん市場に出てくるようにするためには、キャリアとCPとの取引や契約関係が明確でないといけないという考えからだ。
それに今までの政府の支援策といえば、海外展示会に参加する費用を補助するとか、コンテンツ開発費を補助するとか、お金をあげて生き延びられるようにする支援が多かった。それを市場の中で生きていけるように、公正な環境を作り、国内市場で積極的にコンテンツサービスを展開して競争できるようにすることで、海外でも通用するコンテンツにさせていくということ。Wibro(モバイルWiMAX)普及により、モバイルコンテンツの需要増加が見込まれているため、今のうちに明朗会計な市場に整えておきたいということなのかもしれない。
韓国は日本より携帯電話、モバイルでは遅れを取っているようにみえる。確かに利用率の面では携帯電話からネットにアクセスすることはあまりしない(高校生や大学生の利用率はぐんぐん伸びているが)。それでも、韓国が発祥の世界的モバイルコンテンツだってある。韓国ではカラリング、日本ではメロディコールや街うたといわれる、電話がつながるときになる信号音の代わりに音楽が流れるというあれだ。
ゲーム好きの韓国だけに、パケット通信費が高いといってもモバイルゲームは好調で海外へもわんさか輸出されている。キャリアに利用料の50から70%を持っていかれながらも、次々に新しいアイデアでコンテンツを披露している。キャリアの取り分が10%でCPが90%もらえるようになったら、もっと意欲的になってすごいことになるのではないかと期待してしまう。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2008年9月3日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080903/1007634/