スペックダウン問題に揺れる韓国携帯電話市場

LG電子の「PRADA Phone by LG(L852i)」の発売ニュースをきっかけに韓国端末メーカーの日本進出が話題になっているが、韓国内では海外市場ばかり大事にして韓国では値段は高く機能は少ない端末しか売ってくれないという不満の声も漏れている。サムスン電子やLG電子は欧米を中心に世界初という機能が付いた先端端末をよく発売している。新機種は欧米市場で先に発売するのはかまわない。韓国ユーザーが不満に思うのは世界で絶賛される端末が韓国市場で発売される際には大事な機能がかなり除かれ、平凡な端末になってしまう点だ。これは韓国の携帯電話キャリアの要請からというが、ユーザーの立場からは残念なことだ。

 例えば、LG電子の「Viewtyフォン」は、ヨーロッパではDiVXと呼ばれる圧縮映像コーデックを内蔵して動画再生機能を強化し、大型3インチ液晶で色々な映像を楽しめる機能が話題となった。現に、5週間で30万台以上が売れたヒット商品だ。しかし韓国では動画再生機能もなくなりFMラジオもなくなり地上波DMB(ワンセグ)も搭載されず、500万画素という高画素カメラだけが売りの端末になってしまった。


 2007年夏の戦略モデルだったサムスン電子の「ミニスカートフォン」もしかり。ヨーロッパではウルトラエディション?として320万画素カメラを内蔵し高級オーディオ機器メーカーのバング・アンド・オルフセンのアイスパワーアンプが搭載していた。それが、韓国で発売された時はカメラは200万画素、バング・アンド・オルフセンのアンプも使われていない平凡な端末になっていた。中には、海外向けは厚みが12.1mmなのに韓国では12.9mmと少し分厚くなったことを指摘するユーザーもいたほどだ。


 米モトローラの音楽携帯「Z6m」もUSBでつなげて音楽ファイルを端末に保存して再生できる機能を持っていたが、韓国ではモトローラはSKテレコムの加入者専用となっているため、SKテレコムの音楽サービス「Melon」に加入して専用ドライバーとプログラムをインストールしないと音楽再生機能が利用できないようにした。この対応は無料ファイルを利用されるよりコンテンツの売上を伸ばしたいからだろうから、キャリアの立場からすれば当然。かもしれないが、端末に元々付いていた機能までなくしてしまうことはないのにというのがユーザーの率直な感想だ。


 かといって、韓国での携帯電話端末の価格が安いかというとそうではない。韓国国内の新規端末の価格は60~80万ウォン(約6万2千~8万5千円)。先に紹介したViewtyフォンは韓国で73万ウォン前後で販売されたが、ヨーロッパでは550ユーロ(約76万ウォン)、ミニスカートフォンは韓国で55万ウォン前後、ヨーロッパでは400ユーロ(約51万ウォン)と、機能は韓国の方が断然少ないのに価格はヨーロッパとたいして変わらないか韓国の方が高いくらいだ。この状況をメーカーやキャリアはどう説明するのか。

機能が削られていることについて、メーカーはあくまでもスペックダウンではなくスペック変更であるとしている。その証拠に、Viewtyは動画再生機能の代わりに電子辞書を搭載、ミニスカートフォンはGPS機能とデータ速度をアップしたという。モバイル同好会の掲示板には「海外でヒットしたあのモデルが韓国でも販売されることになったと宣伝しておきながら、スペックダウンしたことを隠すことが何度もあった。他の機能に置き換えたというが2、3の機能が削除されて電子辞書ひとつ、GPSひとつが追加されただけで端末の価格は変わらないのは納得いかない。ユーザーが望む機能は何か考えて現地化してほしい」といった書き込みが後を絶たず、スペックダウンしておきながら端末価格はもっと高くするのはやめてほしいとネット署名運動も起こっている。

 韓国市場の内需より海外市場の方が断然マーケットが大きいので海外に力を入れるしかないのは分かるが、韓国の携帯電話市場はサムスン電子、LG電子、パンテックと韓国産端末ばかりで海外の端末はモトローラとカシオのCanUぐらいしか販売されていない。韓国の携帯ユーザーはいやでも国産端末を買うしかないのだ。


 海外にばかり目を取られ内需は後回しにされているという不満からか、同じスペックで値段は安い海外メーカーの端末を買いたがるユーザーも増えてきた。欧米の端末はキーパッドが使いづらいという不評からモトローラ以外は韓国市場に根付けなかったが、2008年夏には台湾HTCのスマートフォンがSKテレコムから発売される予定だ。iPhoneに匹敵するほど高性能なのに値段は安いということで発売前から期待を集めている。ブラックベリーやノキアも入ってくる予定だ。韓国メーカーも日本進出もいいが、お膝元の韓国市場にも少しは気を使ってほしいものだ。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年6月11日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080611/1004680/

韓国、低所得層だけの携帯通信費割引実現へ

韓国の通信政策を担当する省庁の放送通信員会は思い切った方針を発表した。韓国の家計消費に占める携帯電話料金の割合はOECD加盟国の中でもトップという調査結果と、低所得層の家計通信費のうち、携帯電話料金がもっとも大きな負担になっていることを鑑みて、政府から生活補助を受けている基礎生活受給者137万人全員とワンランク上の低所得層(1人あたり所得額が最低生計費の120%以下)236万人に対する携帯電話料金の割引幅を大きく増加させるというものだ。

 元々、基礎生活受給者は携帯電話の基本料と通話料を35%割引してもらっていたが、これからは基本料は全額免除、通話料は50% 割引される。ワンランク上の低所得層は特に割引が適用されなかったが、基本料と通話料が35%割引される。KTFとLGテレコムは3万ウォン(約3000円)、SKテレコムは5万ウォン(約5000円)かかる加入費はどちらも全額免除される。


 携帯電話だけでない。保健福祉部と放送通信委員会の協議で、基礎生活受給者と低所得層が全ての通信料を割引してもらうための手続きも大幅に簡素化される見通しだ。今も手続きが複雑で基礎生活受給者の中で7万3000人だけが割引を適用されているからだ。


 固定電話も基礎生活受給者に中で65歳以上、18歳未満人には提供される。加入費、基本料免除、市内通話225分、市外通話225分無料となっている。有線ブロードバンドは利用料の30%、

 この処置により携帯電話の割引金額は合計年間59億ウォン(約5億9000万円)から約5050億ウォン(約550億円)に大幅拡大されると放送通信員会は推定している。早ければ2008年10月から携帯電話事業者の約款改定を経て割引が適用される。

また中古携帯電話端末の売買も拡大していくという。現在、中古端末はオークションや一部代理店でしか手に入らず、そのほとんどが廃棄されている。韓国人が1台の携帯電話機を使い続ける期間は1年未満という調査結果もあるように、新製品と変わらない端末が捨てられているのだ。個人情報保護のためという名目もあるが、3G以降はチップを差し替えるだけでいいので、もっと中古端末の流通を増やして行くというのは、低所得者の経済負担を減らす以上に、環境問題への対処としても望ましい方策といえる。


 割引は、低所得者向けにとどまらない。冒頭に紹介した放送通信委員会の方針では、一般国民の通信負担を緩和するために、セット販売の割引幅をもっと大きく伸すよう求めている。政府はできれば1世帯当たり10万ウォン、約1万円の割引効果があるようにするという。


 通信費を割引してくれるのはいいことだ。しかしその財源は政府の懐からではなく、携帯電話会社の負担になっている。携帯電話会社は低所得層の料金を割引してデジタルデバイドをなくすという目的には共感しながらも、企業としては収益性の悪化につながるだけである点が懸念されている。


 競争の結果として、自律的に料金が下がるなら話は別だが、今回のケースは、政府の指示に沿って一斉に割引をしなくてはならない。しかも、割引額の5050億ウォンは全て携帯電話会社の負担。せめて、割引によって発生する負担を携帯電話会社が負担する代わりに、政府も携帯電話会社に納付を義務づけている情報通信振興基金(携帯電話事業者と通信社は売上の0.5~0.75%を基金として納付し、これを国家の通信R&D予算として使っている)への拠出額を減らすとか、何らかの処置が必要なのではないかという声もあがっている。


 実際には、負担を相殺するような措置はとられないので、携帯電話会社は5050億ウォンもの負担を抱えるしかない。その結果、当然一般加入者に対する割引幅を抑えて減収要因を減らそうとするだろう。こうなると、加入者全員へ行き渡るはずの李明博(イ・ミョンバク)大統領の通信費割引公約は、低所得層の機嫌を取るだけで終わってしまいそうだ。専門家らは、「これからどんどん物価は上昇する。その度に低所得層に割引してあげるつもりなのだろうか。交通費も割引して食費も割引して。このままでは色んなところから割引の要求が出てくる」と懸念している。


 米国からの牛肉輸入問題で支持率が落ちっぱなしの李大統領。これで支持率挽回になるといいが、「こんなことで国民の機嫌を取れると思うなよ~」と厳しい意見の方が多いのも事実だ。国民みんなにメリットが行き渡る通信費値下げが登場することを期待したい。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年7月3日 

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080703/1005728/

韓国の携帯電話はスリム化競争も激化

サムスン電子はマジックシルバーのほかにも、自慢の薄さ6.9mmで200万画素カメラ付き携帯ウルトラエディッション6.9(SPH-V9900)、1000万画素携帯(SCH-B600)、8GBハードディスク携帯(SCH-B570)を発表。世界をあっと驚かせる新技術の携帯を続々登場させる。サムスンとLG電子は「年間発売する新機種の数を減らし、その分じっくり開発したプレミアム携帯を披露したい」と話している。

 ウルトラエディッション6.9は海外で先に発売されたモデルで月100万台販売というすごい勢いで売れている。6.9のほかにマジックシルバー同様マグネシューム素材の9.9(SCH-V900)、300万画素カメラ付き、地上波DMBに対応した12.9(SCH-B630)も世界市場に続いてこの秋から韓国で発売された。12.9は地上波DMB番組時間アラーム、録画、キャプチャーなどモバイル放送を最大限楽しめる機能がついている。サムスンは薄さ5.0 mmまで既に開発したと発表しているので、紙切れのような携帯が出るかも、と期待してしまう。






サムスン電子のウルトラエディッション6.9



 ナンバーポータビリティーの影響から特定のキャリアでしか加入できない携帯も増えている。特に韓国のNTTドコモともいわれる最大手SKテレコムは「Tスタイル」というシリーズでSKテレコム加入者だけが購入できるデザイン携帯を発売している。モトローラの衛星DMB携帯モトビュー(MS800)とウルトラエディッション9.9(SCH-V900)の2種類が対象となり、ほかのキャリアからは販売されない。ウルトラエディッション6.9はKTF専用で(品番SCHはSKT、SPHはKTF)、SKテレコムからは衛星DMBが追加され8.4mmになったSCH-B510が発売された。


2007年は3.5G携帯が続々と登場する


 2007年の韓国携帯電話市場は依然とスリム競争が続き、3.5GのHSDPAやWCDMA、モバイルWiMAXであるWibro搭載で高速インターネットが使える端末が続々発売されそうだ。特にWCDMA専用携帯は20種類ほど発売される予定なので、今のWCDMA/CDMAデュアル方式に比べぐっと端末の値段が安くなりそう。


 HSDPA携帯は既にサムスンから世界初の2006年5月に発売されているが、加入者は11万人程度に過ぎない。値段の高さもあるが、携帯電話から高速インターネットを使わなくても街中にただで使えるパソコンが転がっていることも影響している。韓国では全国郵便局、市役所、区役所、地下鉄駅構内、ファーストフード店などに無料でネットが使えるパソコンがあり、誰でも自由に使える。そのため、携帯電話から高い料金を出してまでネットを使いたいと思う需要がまだ少ない。しかし、HSDPAの全国カバレッジが完了すれば、利用形態も変わるかもしれない。


 HSDPAはデジカメにも搭載されるらしく、来年からはデジカメで撮った高画質写真や動画をSNSや電子額縁に直送信、なんてこともできそう。電子額縁はSKテレコムやKTが提供しているサービスで、写真を電子額縁のアドレスに転送すると、部屋の中にある額縁に写真が登場するというものである。


 というわけで、来年の携帯電話はスリム、デザイン、DMBに速度の競争も加わることになりそうだ。値段の安さを競争してくれるといいんだけどな~


※写真の出典はサムスン電子のホームページ

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2006年12月19日

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20061211/256605/

この冬、韓国携帯電話は愛称と素材で勝負

「チョコレートはいかがですか?」「それよりは光り物でシャインがいいかな」…

 これはデパ地下ではなく、韓国携帯ショップでの会話。日本だと「903i出ました!」とかW43、W44など品番で紹介するのが当たり前だが、韓国の携帯は愛称で呼ばれるのが人気の証といわれている。


 去年までは広告モデルの名前をとって「ジョンジヒョンフォン」、「クォンサンウフォン」などとユーザーの間で自然に覚えやすい愛称がつけられたが、今年の春モトローラの「レイザーフォン」が大当たりしてからは、メーカー側が発売段階から「チョコレート」「マジックシルバー」「ウルトラエディッション」「シャイン」など端末の特徴をとった愛称を打ち出している。もちろんそれぞれ品番もあり、サムスン電子のマジックシルバーはSCH-B500、LG電子のチョコレートはKV-5900だが、誰も「KV-5900ください」とは言わない。


 業界では「愛称がある携帯ほどよく売れる」という説があり、何とか記憶に残る名前をつけなくてはと悩んでいる。それもそのはず。日本と違い韓国は年俸制が定着し、ボーナスという存在は記憶の彼方へ消えてしまったため、時期に関係なく年中新規端末が発売される。代理店で埃をかぶったまま消えていく端末も少なくない。


LGの携帯は「チョコレート」でブレイク


 愛称マーケティングで最も成功したのはLG電子の「チョコレートフォン」。板チョコのように薄くてかわいい、プレゼントしたい携帯と女性社員らが話しているのを偶然聞いた担当者がこのような名前をつけたそうだ。チョコといってもこげ茶色ではなく、ブラック、ショッキングピンク、ホワイト、ワインなど豊富なカラーバリエーション、アメリカ市場向けにグリーンやチェリーなどのカラーも発売している。キーパットの文字が赤なのがおしゃれ。チョコレートフォンは世界70ヶ国で販売されていて、海外でもマスコミが大絶賛、今年600万台販売を達成した。サムスン電子に押され気味だったLGの携帯は黒字転換、一気に世界の高級ブランドとして認知されるようになった。






LG電子のチョコレートフォン「KV-5900」



 1000台限定発売されたチョコレートフォン2限定版は14金で縁取られ、LCDの下にも14金のストライプがある豪華なモデルで話題になった。LGは後続モデルとして「シャイン」を発売し、サムスン電子のマジックシルバー、モトローラのクレイザーに対抗している。






LG電子のチョコレートフォンII「LG-SV600」


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2006年12月12日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20061211/256604/