韓国の放送広告、国の独占にようやく終止符

韓国では今年、地上波テレビ・ラジオ放送向け広告を30年近く独占してきた国営広告代理店制度が改定され、競争制度が導入される。地上波テレビ放送をIPネットワーク経由でリアルタイム配信するIPTVを皮切りに始まった韓国の「通信と放送の融合」は、放送産業にも大きな変革をもたらそうとしている。

 韓国では、地上波放送39社(テレビ14社、ラジオ25社)、地上波DMB(韓国版ワンセグ)16チャンネルの広告営業のすべてを、1981年に設立された国営の韓国放送広告公社が独占してきた。民間の広告代理店は主に広告制作代理店であり、韓国放送広告公社を経由してしか広告営業をすることができない。


 そのせいで、韓国の大手広告代理店はサムスン、SK、ロッテなど大手企業のいわゆるインハウスが多く、グループ会社の広告を制作してそれを元に韓国放送広告公社と交渉する。韓国放送広告公社は放送局の広告営業代理、民間の広告代理店は広告主の代理、という関係になる。



■「言論統廃合」の産物









韓国放送広告公社のホームページ


 韓国放送広告公社の2008年の売上高は前年比8.7%減の2兆1855億ウォン(テレビ86.9%、ラジオ12.7%、地上波DMB0.4%)。放送局別のシェアはMBC(文化放送)が40.8%、KBS(韓国放送公社、KBS1とKBS2の計)が5.6%、SBS(ソウル放送)が22.0%で、地域民放は7.8%、宗教放送は3.8%となっている。


 韓国放送広告公社はもともと「国家財産である電波を使う放送が広告主の影響を受けてはならない」という建前から設立された。しかし、実際には80年に発足した全斗煥政権による「言論統廃合」の産物であり、国が放送を掌握するために作られた制度と批判されてきた。そのため、08年11月に憲法裁判所が放送広告営業の独占は違憲であるとの判断を下し、2009年末までに関連法が改正されることになった。




 その背景には、放送業界を取り巻く環境の変化もあっただろう。80年の言論統廃合により新聞と放送局の兼営が禁止されたが、08年には一連のメディア関連法改正により新聞・放送の兼営が解禁された。IPTVやモバイル放送などの新技術媒体の広告に対応するためにも、国が広告を握り分配するような制度を見直し、メディアの競争力を高める必要があるという判断が働いたのである。



■公営放送も広告収入モデル


 現時点ではまだ参入方法を検討中の段階だが、「公営1社、民間1社」もしくは「公営1社、民間複数」にして、公営放送は公営の広告代理店が、民放は民間の広告代理店が担当することになりそうだ。広告市場の全面開放は、メディアを変えるに等しい影響を放送産業に及ぼすのは間違いなく、業界内に賛否両論がうず巻いているためだ。


 放送局は一般に、受信料を徴収する国営・公営放送と、広告収入で運営する民放に大別できるが、韓国では公営放送でも広告を流す。首都圏の場合、SBSは民放、EBS(韓国教育放送公社)は公営放送と区分が明確だが、MBCとKBSは公営ながら広告収入を得ている。


 MBCの株式は、政府機関である放送文化振興会が70%、朴正煕(パク・ジョンヒ)元大統領が設立した正修奨学会が30%を保有するため公営放送に分類されるが、広告が収益源の民放である。KBSもKBS1は94年に受信料を電気料金と併せて徴収する方式を導入する代わりに広告をなくしたが、KBS2は民放と同じである。







 地上波放送の広告営業が競争体制になれば、広告料もその分値上がりするだろう。韓国放送広告公社の報告書によると、放送広告市場の競争体制により放送局の広告収入は4年間で70%増加すると予測している。しかし、広告が増えるチャンネルもあれば、減ってしまうチャンネルも出てくる。


 業界内では、MBCやSBSの寡占が強まるとの懸念が出ている。一方、これまで韓国放送広告公社が広告を回すよう誘導していた宗教放送や地域放送は収入減に陥る可能性がある。KBSは月2500ウォンの受信料を月6060ウォンに引き上げる一方で、KBS2の広告を廃止するとしているが、視聴者の理解を得られるかどうかは疑問だ。放送・通信産業を所管する政府の放送通信委員会は10年に新規放送事業者を認可する予定で、放送局はますます視聴率競争に駆り立てられることになる。





■ソフトパワー強化に期待


 広告制度の見直しに対しては、「広告主に気を使って公正な報道ができなくなる」と反対する国会議員もいたが、韓国が他の国と同じように普通になっていく一つの段階に過ぎない。放送局がこれを前向きに生かすには、視聴率至上主義に走ることなく、コンテンツの制作力を地道に強化していく努力が欠かせない。


 韓国のドラマは「韓流」としてアジアと中東にブームを巻き起こした。ドラマが放映された地域では韓国に対するイメージがよくなり、韓国製品の売れ行きが大幅に伸びているという。ハードウエアの組み立て製造には強くてもソフトパワーがないと指摘され続けた韓国がこれを契機にさらにコンテンツの制作力を高め、韓国産コンテンツの輸出が増えることに期待したい。


– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
[2010年1月4日]
Original Source (NIKKEI NET)
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000004012010