韓国政府は放送通信ネットワーク中長期計画として2013年までの5年間で34兆1000億ウォン(約2兆3000億円)を投資して、今より10倍早い有線1Gbps、無線100MbpsのALL-IP基盤超広帯域融合ネットワーク(UBcN : Ultra Broadband convergence Network)を構築すると発表した。
UBcNはより低い電力で通信、放送、インターネットなどを統合した大量のデジタルデータを安全に提供するネットワークである。これは日本の次世代ネットワークや新世代ネットワークと変わらない計画で、速度を高めるだけでなく、より安全なインターネットを使えるようにするためのインフラ高度化である。この計画は1995年から始まった超高速インターネット構築1段階、2004年から始まった広帯域通信ネットワーク構築2段階に続く3段階めの政策となる。
UBcNの構築によって放送ネットワークは2010年までにIPTVや地上波放送からも双方向ショッピングなどを利用できるインフラを構築し、2012年までで地上波デジタル放送のカバー率87%から96%へと高める。固定電話ネットワークも2012年までに60%をIP電話に切り替える。
これにより、2008年11月から商用化されたIPTVやインターネット電話のサービスを円滑にするだけでなく、多様な融合サービスで現在のHDTVより4~16倍鮮明なUDTV(Ultra high Definition TV)を提供できる。携帯電話やノートパソコンを利用して移動しながら高速無線LANにアクセスしてHDクラスの動画を受信できる。
この超広帯域融合ネットワークによって、5年間で17兆ウォンの付加価値と12万の新規雇用が生まれると見込まれている。韓国でも「派遣切り」が問題になっているだけに、政府の政策も雇用に焦点が当てられている。
しかし、そんなにうまくいくか疑問を呈する動きもある。まず、この予算の90%以上を民間から集めるという点だが、どれほどの企業が参加するか。さらに、ネットワークの高度化という事業で本当に雇用を生み出せるのかという点も不透明。
いまや高速道路があれば車は通るだろうという安易な考え方で投資を決める企業はない。政府の言うことにほいほいと企業が付いて来るような時代ではなくなっているので、無謀な投資ではないかという意見もある。インフラにばかり投資しないで、韓国が弱いソフトウエアやコンテンツの企画に投資をした方が付加価値をつけられるのではないかとも思える。
この不景気下、果たして、32兆ウォンもの金額を企業から集められるだろうか。インフラ高度化で新規サービスが活性化され、ユーザーの増加、収益の増加を見込めるといういうが、思うとおりになるとは限らない。李明博政府は通信費の家計負担20%節減を公約としているだけに、通信企業は嫌でも値下げをしなくてはならない。そこに政府のインフラ投資計画(実態はほぼ無理やり企業に投資を要求するような計画)まで登場すると、企業も耐えられないだろう。
それにユーザーは、現在のVDSLレベルの速度でも十分VODやネットワークオンラインゲーム、ショッピングを楽しんでいる。費用が高くなるよりは今の速度で十分満足というユーザーが大半だろう。100MbpsのFTTHですら、そこまでの速度はいらないと考えているのに1Gbpsに速度を早くするといわれてもピンとこない。そこでインフラを高度化させ政府施策を満足させながら顧客も満足させる妙案として、登場したのが新しいインターネット電話だ。
韓国の固定電話はKTが約92%のシェアを持っているが、加入件数は2008年には81万件減少した一方、インターネット電話は2009年には500万加入を突破すると見込まれている。KTは固定電話の加入者が他社のインターネット電話に流れるのを防止するため、VoIPより進化したSoIP(Service over IP)で対応している。
2009年3月より発売されるKTのSoIP電話「STYLE」はインターネット電話と7インチのタッチパネルのパソコンが一つになったようなデザインをしている。MP3プレーヤーで有名なレインコムが開発に参加し、電話+デジタルフォトフレーム、映像留守電、カードリーダー機付きホームバンキング、ネット検索、動画再生、FMラジオ、インターネットラジオ、リアルタイム交通情報、市内監視カメラ映像送信などを利用できる。情報を検索してタッチするだけで電話がつながる機能もついている。パソコンのように好きなメニューを待ち受け画面に使うウィジェット機能も使える。
KTの「STYLE」。操作はタッチパネルで行う |
端末価格は約2万円を予想しているが、約定契約とバンドル割引を利用すれば7000円ほどで購入できる。KTは固定電話契約数が2000万件を下回ると、費用の負担からサービスを維持できないとしている。そのため他社に顧客を奪われる前に自らより優れたインターネット電話を提供しようとしているわけだ。
KTは、今後電話を利用したインターネットショッピングを追加し、アップルのiPhoneのように中小企業のアプリを自由に購入して使えるようにプラットフォームをオープンするという。ネット電話1台あれば、プライベート用にパソコンはいらなくなるかもしれない。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2009年2月19日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090219/1012407/