韓国アナログ放送終了まで22カ月、地デジ移行が進まない

2010年末からやたらと耳にするスマートTV。放送と通信の融合が急速に進む中、放送産業の発展のため中央省庁である放送通信委員会の主導で「次世代放送発展協議会」が発足した。地上波放送局、ケーブルテレビ局、衛星放送、通信事業者、サムスン、LGなど放送サービスに関連ある企業の担当者と専門家20人が参加している。3D放送やスマートTV向け次世代放送関連研究開発と政策方向について議論する。

 スマートTV、ウルトラハイビジョン放送といった次世代放送のR&D投資に1984億ウォン(約140億円)が新たに決まった。メガネなしで今より16倍鮮明に見える3DTVや音声・動作で操作できてARも利用できる次世代スマートTVをはじめ、4G以降のモバイルマルチメディア放送標準化や5メートル範囲内で測定できる高精密位置情報を活用した放送プラットフォーム標準化、M2M知能通信のためのインタフェース標準化も始める。


 無線電力送信も2013年までに商用化し、電池を気にすることなくいくらでもモバイル端末を使ってテレビが観られるようにするという。韓国では地下鉄の中でも携帯電話を使ってDMB(ワンセグ)が見られるので便利だが、電池の消耗が激しくて長時間は見られないのがネックだった。次世代放送技術の専門家養成にも力を入れる。この予算は通信事業者の売り上げから徴収している放送通信発展基金がベースとなっている。


 とは言っても、韓国でも地デジ乗り換えへの道はまだまだ遠い。アナログ放送が中断される2012年末まで残り22カ月ちょっととなった。テレビでは連日、地デジを受信できるIPTVやデジタルケーブルテレビ加入のキャンペーン広告が流れている。それでも不景気で日々の生活が大変なだけに、「地デジなんて、何とかなるでしょう」とテレビの買い替えもIPTVにも興味を持たない人がまだまだたくさんいる。






サムスンのスマートTV。IPTVのようにVODやネットを利用できるだけでなく、ビデオ・ゲーム・スポーツ・ライフスタイル・インフォメーションのカテゴリー別にアプリケーションも利用できる


韓国は電気料金にテレビ受信料が含まれるので、税金のように受信料を取られる。2009年末時点で、韓国内で受信料徴収対象となっているテレビは約1900万台あるが(全テレビ台数は約2100万で、低所得層の約200万台は受信料を免除されている)、地上波デジタル放送受信テレビの普及率は5割に満たない。低所得層の場合は地デジを見られるテレビを持っている人が8%ほどしかいなかった。

 2010年12月に発表された「2011年度デジタル放送転換活性化基本計画」では、デジタルテレビ普及率80%、デジタルテレビ放送カバレッジ94%、アナログ放送終了に対する認知率90%を目標として掲げる。ネットでしか申し込めないデジタルコンバーターを大手量販店やディスカウントショップでも販売する、デジタルテレビ受信環境改善として農漁村や学校のテレビ受信施設を無料で点検するなどしている。デジタル放送向け番組制作のため、放送局への融資や税制優遇も続ける。


 韓国政府は2013年から2014年にかけて次世代放送を商用化するのを目標としているが、地デジという目の前の壁を越えられなければ次世代放送も意味がない。


 一部地域で2011年6月にアナログ放送が終了するのを受け、地デジ対応テレビの価格競争が始まった。ついこの間は大手ディスカウントショップのロッテマートが、TV受信機能があるLEDモニターを「激安LEDテレビ」として販売したことがあり、家電業界が反発したこともあった。価格競争といってもまだまだテレビは高い。昨日ソウル市内の量販店に行ったら20万円以下で買えるテレビは置いていなかった。46型が基本で、それより小さいのは取り寄せなのだとか。テレビの値段を見た途端、アナログ放送が終了してもなんとかなる、そう信じたくなった。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年2月24日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110224/1030437/