サムスン電子、今度はアプリストアで世界のモバイルコンテンツ市場に挑戦

「ハードウエアばかりではなく、サムスンらしいソフトウエアとアプリケーションも提供していきたい」。2009年7月、サムスン電子は世界市場向けに携帯電話向けのアプリケーション販売サイト(アプリストア)を充実させていく方針を発表した。

 2009年3月には携帯電話、MP3プレーヤー、ノートパソコンなど自社のモバイル端末サイトを「Samsung Mobile.com」として一つにまとめ、ショッピングモールやコンテンツダウンロードメニューを充実させた。いずれはコンテンツを1件ダウンロードすれば携帯電話、ノートパソコン、MP3プレーヤーで使えるようにして、他のコンテンツサイトと差別化を図りたいとしている(現在は携帯電話向け、ノートパソコン向けなどに分かれているコンテンツを一つのサイトに集めてダウンロード販売しているだけ)。




サムソン電子が展開するコンテンツ販売サイト「Samsung Mobile.com」

いつの時代にも言われ続けているが、携帯電話もハードウエア以上にソフトウエアが求められている。NOKIAやMotorolaのように携帯電話端末の製造技術だけでは収益を伸ばせないと言われている。Black BerryのRIMや、iPhoneのAppleの場合、端末販売の台数シェアが低くても、利益率ではサムスン電子やLG電子を勝っている。不況の中でも、AppleやGoogleのようにパソコンと変わらない使い方ができる携帯電話端末とソフトを熟知している会社は、このメリットを前面に打ち出してスマートフォン市場で成長し続けている。


 コンテンツの流通も大きく変化した。iPhoneが登場してから、ユーザーはキャリアよりも端末のメーカーと仲良くなり、コンテンツ流通もキャリア主導からメーカー主導のプラットフォームが勢力を拡大させている。これからのモバイル端末は、どんなコンテンツをどれだけ便利に利用させられるかで勝負がつくだろう。NOKIAやMotorola、サムスン電子がGoogleをパートナーにアンドロイド端末に積極的なのがその現れの一つ。端末そのものより端末からどんなコンテンツを利用できるのかを重視するユーザーを満足させるには、Googleを味方にするのがもっとも手っ取り早いからだ。


 韓国でモバイルコンテンツといえば、キャリアのプラットフォームを通じた公式サービスだけで、勝手サイトというものがない。iPhoneのような無線LAN機能を搭載したスマートフォンは、キャリアがデータ通信売上やコンテンツ販売に悪影響を与えるとして、嫌がられる。韓国メーカーが海外で発売している、どんなファイル形式の動画も自動変換して再生してくれる大画面携帯や大容量メモリーが使える携帯といった最新端末は、韓国国内ではスペックダウンして発売される。キャリアは長期割引、家族割引などの料金割引競争だけでも大変なのに、コンテンツ市場まで奪われてはたまらないのだろう。

サムスン電子のアプリストアも、まずはヨーロッパ向けのテストサービスとして始まった。2009年2月、まずはイギリス向けに「Samsung Applications Store」をオープンした。2009年8月末には正式サービスとする予定だが、対象地域はヨーロッパに限定される。アプリ開発者向けサイト「Samsung Mobile Innovator」と連携して、開発者個人が直にアプリを販売できるようにしている。


 サムスンのブランド認知度を利用して世界進出を狙う日本や韓国のコンテンツ会社の参加も続いている。サムスン電子の携帯電話端末の販売台数を考えると、iPhoneに負けない効果をあげられるかもしれない。それに携帯電話に限らず、サムスン電子の各種モバイル端末のユーザーにも販売できるので、マーケットは相当な規模になる。サムスンのアプリストアは韓国ではキャリアとの正面衝突を避け、今まで通り3月にオープンした「Samsung Mobile.com」にコンテンツを集める。韓国最大キャリアであるSKテレコムは2009年末APPLEのようなアプリストアをオープンする。キャリアの売上の8割が音声通話の現状からコンテンツや手数料売上を伸ばしていかないと、経営が成り立たないのだ。


 サムスン電子は「APPLEとは比べものにならないほど端末ラインアップが充実しているだけに、コンテンツを確保すればAPPLE以上に成功できるだろう」と胸を膨らませている。しかし、「コンテンツの確保」は携帯電話にインターネットがつながった10年前から言われ続けてきたこと。利用料が安くて、使い方が便利で、どんどん使ってみたくなるコンテンツを確保するのが端末製造より難しいからこそ、iPhoneの成功がニュースになるのではないだろうか。


 アプリストアを充実させたとしても、キャリアが無線LAN機能の搭載を断ったり、安いデータ通信定額制を始めてくれないと、モバイルコンテンツ市場の成長は難しい。もちろん、韓国の場合、Wibro(モバイルWiMAX)を使ったモバイルVoIP開始が予定されているため、キャリア抜きの携帯電話サービスが可能となる。しかし、ここでメーカー主導プラットフォームなのかキャリア主導なのかを争ってしまうと、コンテンツ流通の手数料の奪い合いになるだけで市場は育たない。「メーカーもキャリアも個人も共生できる『エコシステム』を作るためにアプリストアを始める」と語った初心を忘れないでほしいものだ。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年7月22日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090722/1017148/