韓国の地上波テレビの一つであるMBCが2月13日、オンラインゲームをすると暴力的になるというニュースを報道し、波紋が広がっている。その報道の根拠がむちゃくちゃだったからだ。
MBCはあるPCバン(ネットカフェ)に隠しカメラを設置し、子どもたちがオンラインゲームに没頭している最中にPCバンの電源を切断した。当然、PCバンにあった全部のパソコンの電源が落ちた。突然の出来事にPCバンにいた子どもたちは怒り出した。隠しカメラに映った「ちょうど勝っていたところなのに!」と苛立つ姿を見せてから、暴力的なゲームをした子どもたちは暴力的な反応を見せた、オンラインゲームユーザーはゲームをしない人より暴力的である、と締めくくった内容だったのだ。
突然パソコンの電源が落ちて今までやっていた作業が無駄になれば、誰だってムカッとして苛立ってしまうのではないだろうか。それを、オンラインゲームをすると性格が暴力的になると解釈するのは無理がある。
韓国言論財団の調査によると、地上波テレビは韓国人が最も長時間利用し、信頼する情報源である。ものすごい波及力のあるテレビニュースが、客観的で深層的な調査や実験データもなく、パソコンの電源を突然落としてその反応を見る隠しカメラでオンラインゲームを悪者に仕立てる報道をするとは。
ニュース直後から視聴者はもちろん、ゲーム専門誌の記者らはMBCの根も葉もないニュースに「あり得ない!」、「これはニュースではなくお笑い」、「MBC記者の暴力性を確かめるため、締め切りが迫った記者室のパソコンの電源を予告なく落としてみましょう」、などと反論を始めた。ゲーム業界によると、オンラインゲームがユーザーを暴力的にするとよく言われるが、因果関係を立証する研究はまだないという。
人を残忍に殺す内容のオンラインゲームが増えていることや、オンラインゲームのしすぎで現実と仮想の世界を区別できなくなり殺人をしたという事件が毎年発生しているなど、もちろん問題もある。より健全なオンラインゲーム利用というメッセージを伝えたかったようだが、MBCの報道は納得のいく内容ではなかった。
韓国コンテンツ振興院のデータによると、文化コンテンツ輸出額の5割がオンラインゲームであるほど、韓国のオンラインゲームは重要な産業の一つである。2009年の韓国オンラインゲーム輸出額は12億4000万ドル、世界オンラインゲーム市場の約23%を占めている。これは自動車10万5000台、携帯電話端末924万台を輸出したのと同じ規模だという。特にネット利用率が急激に伸びている中国と東南アジア向け輸出が増えた。しかし2009年あたりから、中国が国をあげてオンラインゲームを育成し始めていて輸出も伸びているため、韓国の独走は難しくなりそうだ。
輸出に依存する韓国経済において、オンラインゲームは重要な産業の一つであることは間違いない。それにもかかわらず、オンラインゲームの悪い面ばかり強調されている。今回のMBCニュースも、ここまでしてオンラインゲームを攻撃するのはなぜ? 裏に何かあるのか? と疑いたくなる。
何事もいい面もあれば悪い面もある。オンラインゲームは子どもの集中力を高めるという主張もある。オンラインゲーム会社は「ゲーム=悪」というイメージを払拭するため、プロ野球チームも創設しようしとし(前回のコラム参考)、子ども向けネチケット(ネット上のエチケット)アプリケーションや公益キャンペーンにも積極的に参加している。オンラインゲームが韓流ドラマや映画のように韓国経済に貢献するコンテンツ産業として認められる日は来るのだろうか。
趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2011年2月17日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110217/1030283/