9割引きも当たり前のソーシャルコマース、人気もすごいが被害も拡大

毎年20%近く物価が上昇している韓国。天候や原油価格高騰によるもので仕方ないというが、インフレは止まらない。そこで脚光を浴びているのが、50%値引きは当たり前というソーシャルコマースである。決まった人数が集まれば50~90%値引きされた値段で商品を購入できるというもの。

 韓国にもグルーポンが進出し、ソーシャルコマースサイトは雨後の筍のように急増している。携帯電話やスマートフォンの位置情報を利用して、近くで使えるソーシャルコマース商品券を案内している。中でも人気の商品は地元レストランのセットメニュー商品券。美容院、化粧品、不動産、会員権などありとあらゆるジャンルへソーシャルコマースが広がり、人気を集めている。ソウルから2時間ほど南に離れた天安市では、526世帯集まれば相場より500万円ほど安くマンションを分譲するというソーシャルコマースも登場して話題をさらった。


 ソウルの隣にある京畿道では、自治体がインフレ対策としてソーシャルコマースを積極的に利用するという「物価安定化支援政策」を発表した。6月より、自治体が運営する農産物オンラインショッピングモールをソーシャルコマースにして、売り手が直接商品を登録し、買い手が一定人数集まればスーパーで買うより30~50%値引きして販売するという。


 携帯電話加入者の3分の1がスマートフォンを使っている中、モバイル通信事業者3社もスマートフォンの機能をフルに生かせるソーシャルコマースに力を入れている。


 スマートフォンに出遅れてシェアが最も少ないLGU+は、4月25日より位置情報「+NFC」を利用したモバイル決済とソーシャルネットワーク、そしてゲームを合わせたショッピングを提供している。専用アプリをインストールしてからマップに表示される加盟店を訪問してショッピングすると自動的に位置情報を確認してポイントが積み立てられ、それをコンビニやファストフード店などで商品に変えられるというサービスだ。加盟店はまだ1000店ほどだが、年内に10万店突破を目指す。SKテレコムは会員登録をすると、ブランド物を50%以上割引して販売するソーシャルコマースを利用できるサービスを始めた。







LGU+が提供する「位置情報+SNS+ゲーム」を組み合わせたソーシャルコマース「Dingdong」。スマートフォンやタブレットPCから利用できる


閉店に追いやられる店も



 加熱する一方に見えるソーシャルコマースだが、ソーシャルコマースによって閉店を余儀なくされたというレストラン経営者のネット上への書き込みが話題になった。ソーシャルコマースで半額チケットを購入する人が予想をはるかに超えたため、最初は売り上げが伸びてよかったもの、割り引きで利益は少ないのに客が増えるので人件費が増える。すぐ赤字になり経営難に陥るレストランもあるという。ソーシャルコマース会社に取られる手数料も高く、店の意向とは関係なく数千枚の商品券を販売したため、殺到する客を対応しきれず不満ばかりネットに書き込まれ、結局店を閉めるしかなかったというところもあった。


 ソウル市電子商取引センターの調査によると、ソーシャルコマースサイトはこの1年間新しくオープンしたのが100サイトを超え、20代の60%が利用したことがあると答えたそうだ。ソーシャルコマースで購入したことがある商品はレストラン商品券、映画・エンタメチケット、ファッション雑貨、食料品・健康食品、美容の順だった。


 しかし購入経験者の26%は被害にあったことがあると答えた。広告と実際の商品が違う、ソーシャルコマースで購入した商品券を使う人だけ食事の量が少なく不親切にされた、払い戻しや返品を受け付けない、という不満が圧倒的に多かった。


 ブログやTwitterにはソーシャルコマース失敗談がよく登場するようになった。「ネイルケアの商品券を購入したところ、商品券を持っていることを伝えた途端に予約でいっぱいといわれた。有効期限が切れる前に予約できるだろうか」、「セットメニュー半額の商品券を購入したが、写真とは全然違うメニューで量も少なすぎ。これじゃ割引でもなんでもない」などなど。「ソーシャルコマースがっかり事例」を集めて紹介するサイトまで登場したほどである。


 韓国のソーシャルコマース市場規模は2010年に約400億円、2011年には600億円を超えると推定されている。海外勢のグルーポンよりも韓国ベンチャーが立ち上げたサイトの方が商品数が多く人気を集めている。このごろはソーシャルコマース業者があまりにも多いせいか、人気芸能人を起用したテレビCM競争が始まっている。商品よりも広告宣伝競争になってしまった。


 ネットでは既に「ソーシャルコマースに飽きた」、「グルメサイトのクーポンを利用して割引してもらう方が安心でお得」、「ソーシャルコマースと既存の共同購入ショッピングモールとの違いが分からない」といった声も多く客離れも始まっている。商品券を購入した後で問題が生じても、ソーシャルコマースサイトは「通信販売」ではなく「仲介」なので責任がないと言い逃れできるからだ。


 韓国の消費者権利保護団体は、「ソーシャルコマースはこの1年で急激に市場が成長したため、標準約款もなく業者の勝手に運営されている。商品券を販売してからサイトを閉鎖するところも多い。払い戻しやアフターサービスに関する約款を導入するべき」、「70%割引、90%割引という文字につられて注意事項を読まずに衝動買いしてしまうのも問題」だという。消費者がもっと賢くソーシャルネットワークを使って悪い業者に引っかからないよう注意すべきともしている。


 公正取引委員会は、米国のように韓国のソーシャルコマースサイトも電子商取引法を守るべきとして実態調査に着手したという。インフレ対策で家計にやさしいはずのソーシャルコマースが無駄遣いの元になっているとは。安くて便利で信用できるショッピングサイトに巡り合える日は果たして来るだろうか。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年4月28日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110428/1031571/