韓国放送通信委員会のデータによると、飽和状態と言われ続けてきた韓国の携帯電話契約件数がここにきて伸びている。2009年12月に4794万件だったのが、2010年1月に4822万件、6月には4961万件になった。人口が約4890万人なので、単純に考えても人口より携帯電話契約数の方が多い。今でもなお携帯電話契約件数が増え続けている背景にはやはりスマートフォンがある。iPhoneに限らず、サムスンや海外勢のスマートフォンが毎日のように発売されているからだ。
スマートフォンに加入するためには携帯電話番号を変えないといけないので新たに契約して2台使う、約定期間が残っているので解約できない、スマートフォンはバッテリーの消耗がはやいので通話用とネット用に分けて持ち歩きたい、iPhoneとAndroid端末の両方を使ってみたい……などいくつか理由はある。iPhoneを発売するKTの調べでは、2010年1月時点で、既存のKT端末を解約しないで使い続けながらiPhoneに加入した人が、iPhone加入者全体の30万人のうち18%の5万4000人だったという。ほかのキャリアを利用しながらiPhoneに加入した人も多いことを考えれば、iPhoneユーザーの約半数は「ツーフォン族」とも考えられる。
韓国では何か一つでもブームになると世代や性別、職業に関係なくみんなで一気に盛り上がる。スマートフォンと通話用の携帯電話に分けて2台持つ「ツーフォン族」がマスコミに取り上げられかっこよく見える、ということで男性も女性も、ビジネスマンも学生も、「ツーフォン族」になり始めている。もちろんこれには端末購入補助金といって、新規加入またはキャリアを変えて新規加入するともらえる奨励金があるので安くスマートフォンを購入できるからでもある。一番安い料金制度を選択して通信料無料のWi-Fiだけ利用すれば、それほど大きな負担にはならない(韓国でスマートフォンは無料でそれぞれキャリアのWi-Fiを利用できる)。奨励金をずっと禁止していた韓国は日本と流れは逆で2008年から解禁したため、やっと0円端末が登場した。
KTから発売されたNexus Oneイベントの様子
もう一つ韓国独自の事情といえるのは、携帯電話の番号に執着するユーザーが多いことだ。日本の携帯電話局番は090か080だが、韓国ではキャリアによって011、017、018、016、019の局番が振られ、その後ろに3ケタ+4ケタの番号が続く。局番だけでどのキャリアかがすぐ分かる。
中でも韓国で初めて携帯電話サービスを始めたSKテレコムの011局番の携帯電話を持っている人はもう十数年も同じ番号を使っていることから愛着があり、携帯電話料金がものすごく高かった時代から使っていると自負しているため、番号を変えようとしない。2Gではキャリアに関係なく同じ番号で機種変更ができたが、韓国政府の3G戦略によって、2008年からはスマートフォンを含め3G端末へ機種変更する場合、010局番+4ケタ+4ケタに変えないといけない。それでわざわざ番号を維持するために解約せず「ツーフォン族」になる道を選ぶ。
実は携帯電話の2台使用、ヨーロッパや中近東、ベトナムあたりでは当たり前なことなのだとか。SIMロックが解除されているためカードさえ差し替えれば複数の端末を1台のように使える。韓国でもSIMロックが解除されたので、自分のスマートフォンを海外に持って行って現地キャリアのSIMカードに差し替えて使うこともできる。約定加入期間中に海外に行くことになって泣く泣く違約金を払うこともなくなりそうだ(iPhone 3GSは国別ロックがかかっているので使えないが、iPhone 4は韓国ではSIMロック解除される予定)。
「ツーフォン族」の中には、社外にいながらも書類決裁や業務を行えるモバイルオフィスが始まったので業務用として配られたスマートフォンと個人用に分けて2台持つようになった、という人もかなりいる。建設や流通など外回りの多い職場では、迅速な意思決定のため全社員にスマートフォンを配り始めている。
さらに韓国政府は2015年までに、労働人口の30%にあたる約800万人に対しスマートフォンやモバイル端末を使ってどこにいても仕事ができる環境を構築する「スマートワーク」を目指すとしている。そのためにもスマートフォンの普及には力を入れている。公共機関の中では気象庁が真っ先にスマートワークを導入している。
考えてみると、「ツーフォン族」になるというのはいろんな端末を使いこなすかっこいいユーザーというより、いつでもどこでも仕事をさせられる“奴隷”になることかも。会社の人にはスマートフォンを持っていることを秘密にしている、という友人の嘆きが理解できるような…
趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2010年7月22日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100722/1026309/