1985年ソ連科学アカデミーでテトリスを開発したアレクセイ・パジノフさんが韓国を訪問した。テトリスといえばゲームボーイ。一度始めると悔しくて2~3時間は軽くやってしまった覚えはないだろうか。
韓国ではカジュアルオンラインゲームとしてテトリスが大人気。Hangameでは1日50万人ほどがテトリスを利用しているという。オンラインゲームとして正式にライセンスを取ってテトリスをサービスしているのは韓国が唯一なのだそうだ。韓国では人気歌手の男性6人組のグループShinhwaのメンバー、へソンがテトリスのテーマ曲「一緒に、テトリス」を歌い、テトリスOSTなるアルバムまである。(12曲も収録されてある)
Hangameのテトリスは新学期を向かえたこともあり、オンライン上で学校対抗戦イベントを開催中。ユーザーは自分の学校の選手として登録し、プレーヤーになる。プレーヤーの点数を合算して、最強テトリス名門校に選ばれると、Hangameより学校へ1000冊の図書がプレゼントされ、MVPにはiPodが贈られる。
オンラインゲーム業界の話を聞くと、景気が悪くなったせいか、最近は複雑で長い時間をかけて楽しむオンラインゲームより、テトリスのように小学生から会社員まで、誰でもすぐやり方を覚えられる手軽なゲームの方が人気なのだとか。
その影響を受けてかパジノフさんの記者懇談会も大盛況。単純なゲームともいえるテトリスが1985年から今までヒットし続けられる理由を聞かれたパジノフさんは、「それはミステリー」としながらも、「人間の脳はその時も今も同じ。数学的原理に基づいているので人間の根本的な要望を満たしているから」、「テトリスには文化的な背景がいらない」、「色んな形でアレンジできるから」といった話をしてくれた。
パジノフさんは「今までユニークなゲームをいくつも作ったけどテトリスほど成功したゲームはない。テトリスだけが成功した理由は分らない」、「ただ、ゲームにキャラクターや特殊な文化的背景があると、その背景知識を知っている人と知らない人に分かれて、知らない人はゲームをしなくなるかもしれない。テトリスは抽象的な規則だけでプレイするので、どんな人でも楽しめる中立性がある。暴力的でもないし」といった話もした。
テトリスの中毒性は論理的頭脳の使用と整理欲求を満足させるからだそうで、外傷ストレスもテトリスで緩和されるという実験結果があるのだとか。簡単そうに見えて手ごたえのあるゲームだからか、テトリスをしている間は他のことを忘れやすいのだという。テトリスは開発当時のままではなく、ライセンスを利用して新しいゲームのように色々アレンジされてきたのも成功の秘訣という説明もあった。携帯電話やゲーム機、パソコンからも利用できて、テトリスを応用したゲームもたくさん登場している。
ブロックのランダムルールのような規則は守りながら、もっと幅広くアレンジしてもらいたいという話もあった。韓国のオンラインゲームがeスポーツとしてリーグ戦を繰り広げているように、テトリスをもっと難しくして、テトリスカップや世界大会を開きたい、なんていう希望を語る場面もあった。
またゲーム開発者に必要なのは、「クリエイティブでユニークである必要はあるけど、ゲームが好きで好きでしょうがないという心を持っていることが基本。他人のアイデアを盗用するなんてことはしない」、という話もあった。
パジノフさんはテトリスのブロック(テトリミノ)の中でL字型がもっとも好きなのだとか。I字型は極端すぎてやっかい、T字型はブロックを組み合わせるのが難しい、四角ブロックは面白くないといっていた。ちなみにHangameのアンケート調査では、参加者1万2263人の内69%がI字型ブロックが好きと答えた。2位はTを逆さにした形のブロック。
「I字型って必要な時には絶対出てこない、人工知能でユーザーをからかっているんだ!」という話を25年間聞き続けたというパジノフさんは、テトリスは人工知能ではなくランダムだから13回に1回は出てくるようになっているのに、何でみんなそう思うのだろうか?なんて話もあって面白かった。
久々のテトリスで小学校の頃の思い出してしまった。昔の思い出を語りながらテトリス、いかがでしょう。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2009年4月8日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090408/1014014/