韓国版ニンテンドーDSがいよいよ発売、懸念されるその行く末

「ニンテンドーDS Liteのようなゲーム機を、韓国はなぜ作れないのか?」

 李明博大統領の発言から始まった、「明テンドー(ミョンテンドー)」開発騒動から4カ月あまり。ついに、韓国では「DS Liteのようなゲーム機」が発売された。ゲームパークホールディングス社と政府系シンクタンクである韓国電子通信研究院(ETRI)が共同開発した「GP2X Wiz」がそれである。


 液晶より鮮明な有機ELを採用した2.8型のタッチスクリーン、533MHz動作のCPU、重さは約136g(バッテリー込み)、オープンソースによるプラットホームで価格は19万8000ウォン(約1万5000円)。バッテリーはゲームや動画再生を約7時間使用できる。



2.8型有機ELのタッチスクリーンを備えるゲーム機「GP2X Wiz」。値段は19万8000ウォン(約1万5000円)



発売イベントとして「彼女の騎士団」というゲームソフトを無料で添付している(このゲームのイラストを見た瞬間、私は暗いため息が出た…)。6月末時点でのゲームソフトは13種類。個人がゲームソフトを開発して販売できるアプリ販売サイトもオープンする。

このゲーム機は大統領の発言のおかげで注目されているが、実は2001年に発売された韓国初の携帯型ゲーム機「GP32」のアップグレード版で、元々2009年4月に発売が予定されていた製品である。決して、大統領の発言を意識して作られた代物ではないということ。「GP32」はヨーロッパにも輸出されている。


 だが、やはり予想していた通り、「GP32」が市場から消えた理由はゲームソフトの不在。発売から3年経過してもゲームソフトは20種類を超えられなかった。ゲーム機の性能がアップグレードされたというGP2X Wizも同じように、発売初日から「ゲームソフトがない!」「面白いゲームがない!!」と騒がれている。オープンソースにして、誰でもゲームソフトを開発して販売できるようにするというが、どうだろう。


 韓国の場合、携帯電話向けのモバイルゲーム市場が成長しているので、「いまさらゲーム機?」という印象がある。タッチスクリーンを備えた携帯電話に専用のペンを使って文字を書いたり、画面を動かしたり、端末を傾けたり、振ったりしてできるモバイルゲームもたくさんある。サムスン電子の場合、2009年の携帯電話端末の割合はフルタッチスクリーン式が53.8%、折りたたみ式が23.1%、スライド式が23.1%と発表されている。サムスン電子とLG電子の全世界でのフルタッチスクリーン式の携帯電話端末の販売も2009年5月で2000万台を超えた。


 韓国のモバイルゲーム開発会社がiPhoneのApp Storeにゲームを載せたところ数千万円の売上があったとか、韓国の個人が開発したモバイルゲームがあっという間に1000万円近く売れたとか、そういうニュースもあったせいか、モバイルゲーム市場が成長する可能性を見直す雰囲気すらある。これもまた「アプリ販売サイトに行けば儲かる!」という間違った幻想を植え付けそうで怖いが、サムスン電子もイギリスでアプリ販売サイトを始めているし、最大シェアを持つキャリアのSKTelecomもアプリ販売サイトの計画を発表しているので、モバイルコンテンツの売買は増えそうだ。


今さらニンテンドーDS Liteのようなゲーム機でなくても、携帯電話から色んなジャンルのゲームが無理なく具現できるほど発展している。「じゃ、GP2X Wizの役目は何?」


 ゲームパークホールディングス社は「ゲーム機を開発する会社というより、世界の人々に夢と幸せを感じさせられる会社になりたい」「生活を健康にする教育用ゲーム、実用ゲームを利用できる、健康なゲーム機に発展させたい」と話している。


 政府と自治体は教育や健康促進(脳トレや体を動かすゲームなど)につながる「機能性ゲーム」に注目している。ソウル市は観光関連ゲーム、機能性ゲームの開発に約12億ウォン(約9000万円)ほど投資している。やっぱり大事なのはどんなゲームソフトが使えるかにかかっている。


 ゲームはゲーム機、インターネットは携帯電話、という割り切った使い方をしなかった韓国では、一つのデバイスでゲームからネット、動画、音楽再生なんでも使えた方がお得で便利と考え、ゲーム機というデバイスにこだわらなかった。しかし、韓国の女子大生に「なんでニンテンドーDS Lite買ったの?」と聞いたら、「CMをたくさん流しているので持っていれば自慢になるし、小さくてかわいいから」と言われた。ゲームソフトの問題じゃないわけ?


 「GP2X Wizが市場から消えるのは時間の問題」、なんて言わせないためにも、早くソフトを充実させて、端末のカラーラインアップも揃えて、やるからには徹底して勝負してもらいたい。今までの地道な努力が「ミョンテンドー」の一言でかき消されるのは惜しいではないか。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年7月2日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090702/1016601/