2008年末から韓国のIT業界では「韓国版ニンテンドーDS Lite」が台風の目になっている。大統領が非常経済対策会議で「オンラインゲームは韓国がうまくやっているが、ソフトウエアやハードウエアが一緒に開発されたクリエイティブな製品はソニー、ニンテンドーが先を走っているのが現実だ。
ニンテンドーのゲーム機を小学生達がよく持っているが、我々は何でこういうのを開発できないのか」と話したことをきっかけに、韓国のゲーム、ソフトウエアをはじめ、IT業界が早速「ゲーム機開発」を目標に大騒ぎしている。ブロガーも巻き込んで「この際にオンラインゲームばかり開発しないでゲーム機にも力を入れてみてはどうか」という意見と、「韓国にニンテンドーDS Liteなんて作れるはずがない」という意見がぶつかり論争を巻き起こしている。
ニンテンドーDS Liteは2007年1月から韓国で正式に販売され、オンラインゲーム一色の韓国で200万台以上も売れた。韓国ではこの不景気の中、ゲーム機が好調で記録的な売上を達成したニンテンドーを見習えと、マスコミも政府も熱心に取材し、ニンテンドーの関係者を招いて講演会を開いたりもしている。
しかし、韓国の悪いくせは結果しか目に入らないこと。ニンテンドーがどうやってゲーム機を販売するようになったのか、DS Liteがヒットするまでどれだけ苦労したのかといった話には興味がない。韓国の企業だってニンテンドーのように売れるゲーム機を作れるはずという過剰な自信ばかり渦巻いている。
韓国のゲーム企業だってニンテンドーのように成功したい。でもなかなかできない。ゲーム機より大事なのはゲームソフトだからだ。韓国は日本より違法コピーの取り締まりに甘いし、ソフトウエア業界の給与水準は安すぎる。売れるゲームソフトの裏には漫画やアニメやキャラクターといった色んなコンテンツとそれを楽しむ文化、生活環境などが混ざり合っている。韓国のように表現の自由もなく、漫画・アニメ・ゲームは子供の敵と考える国で、アジアでヒットしたオンラインゲームが生まれたことだけでも奇跡に近い。ニンテンドーDS Liteのような世界で売れるゲーム機は作れるかもしれないが、売れるソフトを作るのは大変なことだ。そこへ大統領の「何で日本にはできて韓国にはできないの?」という発言は、IT業界を苛立たせた。
韓国政府は「韓国版ニンテンドーDS Lite」を作るための支援策をいくつか発表した。しかし韓国の問題は政府の支援が多すぎることかもしれない。ソフトやコンテンツをじっくり時間をかけて作り上げる会社は少なく、政府からお金がもらえそうなコンテンツばかり手を出し、支援が切れると廃業してしまう会社が目立つということが「韓国版ニンテンドーDS Lite」が生まれない原因ではないだろうか。
今回もご多分に漏れず、大統領の発言に対して、韓国のゲーム業界は「政府の支援がないからゲーム機が作れない」と反発した。おかしな話だ。日本のニンテンドーは日本の政府が支援したから成長したわけではない。なのに韓国のIT業界は新しいことをやるとなるとすぐ「政府の支援がないからできない」、「政府が投資してくれないから困る」と騒ぎ出す。自分の力でできることをこつこつやるという計画を持っている企業ならば、大統領の一言に過敏に反応して怒ったり、忠誠を示すために無理なことに手を出したりもしないだろう。
今回の騒動で気になったのは、韓国版ニンテンドーDS Liteを開発できる技術力のあるなしではなく、韓国企業の意気込みというか、情熱と信念を持って自分の力で突き進む企業は本当に少ないということ。今のところまだ競争力のあるオンラインゲームでさえ中国や台湾の追跡で危ないというのに、「韓国版ニンテンドーDS Lite」に気をとられてどっちも逃してしまわないといいのだが。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2009年2月25日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090225/1012592/