今回は、今週と来週の2回にわたり、韓国のノートパソコン事情をご紹介しよう。
韓国では首都圏に人口の2分の1が住んでいるが、一戸建てよりも4人家族を基準に平均42坪4LDKほどの高層マンションを好む傾向が強い。この広々とした住居環境のおかげで置く場所に困らないことや、オンラインゲームやEラーニングを使う子供のために高性能なパソコンが必要になることから、小さいノートパソコンよりは22~24型の大型LCDモニターが付いたデスクトップパソコンを購入する人が圧倒的に多かった。しかも、全国郵便局や市役所、区役所など街中に無料でインターネットを使えるパソコンがある。日本のように、ノートパソコンを持ち歩きながら無線LANを使ってインターネットにアクセスする、なんて光景にはあまり目にかかることがなかった。
韓国でノートパソコンは高級品で、経済的にゆとりがある人でないと手が出せなかった。同じ仕様のノートパソコンなら日本で買ったほうが3~4割ほど安いため、安いパックツアーで福岡や大阪、東京へノートパソコンを買いに行く人も少なくない。日本で買ってきたノートパソコンのOSを韓国語のものに入れ替え、電気街の竜山で流通されている。例えば日本でヒューレット・パッカード(HP)が発売している約7万5000円のモデルとほぼ同じ仕様で、しかも同じメーカーのHPから発売されているノートパソコンなのに、韓国では1万5000円ほど高く販売されていた。
それが2006年あたりから、デスクトップとノートパソコンの販売割合の差がだいぶ縮まってきた。ウォン高の影響で日本製ノートパソコンの値段が安くなり、それに伴い韓国メーカーも値下げを行っていることや、デスクトップと比べてそん色ない機能、性能向上などが影響したことが背景にある。2006年からは100万ウォン(約13万円)以下でも買えるノートパソコンが登場。今なら、15型液晶、Core Duo T2350、メモリー512MB、HDD 80GBという程度の仕様の韓国の中小メーカーが発売するノートパソコンなら8万円以下で買えてしまう。しかし、それでもまだデスクトップとの価格差は3~4倍もある。
ただし、ノートパソコンが売れるようになったのは、安価になってきたからというだけではなく、ユーザーの使い方が変わってきたからかもしれないと考えている。
韓国のネットユーザーはオンラインゲームばかりしているようなイメージが強いが、近ごろはそうでもない。各種アンケート調査によると、大学生や一人暮らしのサラリーマンの間では、テレビ、DVDプレーヤー、オーディオ、固定電話などは一切買わず、代わりに小型ノートパソコンを1台購入するだけで済ませているという人が多くなっているという。PDAやPMP(Portable Multimedia Player)、携帯型ゲーム機の代わりに、その小型ノートパソコンに、動画やFlashで作られたゲームをダウンロードしておいて、出勤時間に電車の中で利用する人が増えているというのだ。
大学でもそうだ。Eラーニングを受講するという目的もあるが、紙のノートではなくノートパソコンに講義内容を筆記したり、教授の授業内容をデジカメで画撮影してノートパソコンに保存し、何度も繰り返し見ながら試験勉強をしたりと、就職難により大学での成績が書類選考の重要な判断材料となっている競争社会で生き残るための道具としてうまく活用されている。
調査会社の韓国IDCの資料によると、韓国内でのノートパソコンの販売量は2006年末時点で116万8000台(デスクトップは313万9000台)。2005年の89万7000台より29.9%も増加し、初めて100万台を突破した。2006年10~12月のノートパソコン販売量は28万台で、個人向けパソコン販売量105万3000台のうち、26.6%を占めた。2006年の年間パソコン販売量から見ると、ノートパソコンのシェアは27.1%で、2005年の23.9%より3.2%増加した数字となっている。2011年にはノートパソコンが194万台、デスクトップが331万台販売され、ノートパソコンがパソコン販売全体の37%を占めると予想されている。売り上げベースではデスクトップ本体2兆3000億ウォンにせまる2兆2000億ウォンに成長すると見込まれている。
一方、同じIDCの資料でメーカー別のシェアを見ると、人気があるのは12型液晶を備える小型のノートパソコン。中国産や東芝など安さを武器にしているメーカーもよく売れてはいるが、アフターサービスやパッケージ販売による効果の大きさから、三星電子の「SENSE」シリーズとLG電子の「Xノート」シリーズの占める割合が大きく、2社のシェアは2007年1~3月が46.3%、4~6月が60.6%と大幅に増えている。(「パッケージ販売」については次回紹介)
7型ディスプレイ以下のUMPC(Ultra Mobile PC)も徐々に売れてきている。三星電子のWindows Vista搭載、最大8時間30分まで連続使用できる「Q1ウルトラ」は、月に2000台ほど売れるベストセラーになった。これは予想をはるかに超える売れ行きだという。「Q1ウルトラ」は、CPUの動作クロックが800MHz、液晶の解像度が1024×600、メモリー1GB、HDD 60GBなどの性能を誇っており“第2世代のUMPC”と宣伝している。
三星電子の「Q1ウルトラ」 |
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パソコンメーカーはそれぞれ2007年下半期からは高級仕様のノートパソコンをより安く販売するという戦略を打ち出している。プラットフォームにCentrino Duo(開発コード名Santa Rosa)を搭載し、液晶は横長12型。それに、既存DVDの2倍ほど鮮明に再生できるHD-DVD、地上波DMB(韓国式ワンセグ)受信機能、重さ1Kg程度、バッテリー駆動時間が12時間以上といった、AV機能が強化され、携帯性に優れた機種が、17万円前後で販売されている。
とまあ、韓国ではノートパソコンが絶好調なわけだが、次回は、三星電子とLG電子が12型ノートで大きくシェアを稼いだ仕掛けである「パッケージ販売」を紹介する。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2007年10月17日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20071016/284735/