韓国ではこの頃「アルファーガール」という言葉が流行っている。小さい頃から男女区別なくたくましく育てられ、リーダーシップ旺盛で意欲的で社会でも大活躍している女性のことだ。司法試験、国家公務員試験、教員試験といった成績順で決まる職種は男性より女性が多く、鉄鋼・造船など伝統的に男性の仕事と思われていた業種でも女性が進出し、管理職へも昇進している。
21世紀を生きる強い女性と「お母さん」なしでは何もできない男性、ここまで差が出てしまった最も大きな理由は「両親の変化」であると言われている。父親たちは「女の子だから生徒会長になれないなんて誰が作ったルールだ。立候補しなさい!」と娘の選挙運動を手伝い、積極的にリーダーになるよう育てる。男の子には「そんなかつかつする必要はない。男だから、という考えを捨てなさい」と教える。
先日もある大手企業の課長が、「新卒採用面接で圧迫面接をしたら、その男の子の母親がうちの息子をいじめたのは誰だって殴りこみにきた。さらに入社して1年もならない男性社員が突然辞めるというので理由を聞いたら、「お母さんが○○社に転職した方がいいと言ったから」と平然と言うのであきれてしまった。よくグループのCEOが新入社員の母親たちに花束やワインを贈り点数を稼ぐというが、その理由が分かるような気がする」と嘆いていた。
一方、母親たちの間では強い女性、弱い男性が生まれてしまった理由は「オンラインゲーム」にあるという説が有力だ。男の子たちがオンラインゲームに夢中になっている間、女の子たちは勉強に読書にめきめきと実力を磨き、社会の主役として成長しているというのが男の子を持つ母親たちの嘆きだ。
今年は6月から過去最高の暑さを更新しているが、夏になると男の子を持つ母親たちはますます不安になる。夏休みの間、塾に行く以外は一日中部屋に閉じこもりオンラインゲームばかりする子どもたちをどうしたらいいのか、今から頭を抱えるお母さんが少なくない。韓国は子供の教育費のために共働きをする家庭が多い。だが、教育のために両親が働いている夏、子どもたちだけが家に残り、どんどんゲームに溺れていく。
98年、99年のオンラインゲームブームの時は友達と一緒にPCバン(インターネット喫茶のような場所)に行ってわいわい楽しく騒ぎながらゲームをしたが、この頃の小中高校生は特に親しい友達もなく、外で遊ぶこともないままオンラインゲームのキャラクターを育てランキングを上げることが自分の全てになってしまっているようだ。オンラインゲームに夢中になりすぎて現実とゲームの世界を区分できず、すぐカッとなり殺人、傷害事件を起こす中学生が増えているのも問題だ。
韓国インターネット振興院によると、韓国小中学生の半分以上がインターネット中毒症状を見せているそうだ。インターネットやオンラインゲーム中毒になると鬱になったり情緒不安定になったり自殺率も高くなるという。情報通信部傘下機関の韓国情報文化振興院では一日4時間以上業務以外の目的でゲームをする人を高危険ゲーム中毒者と分類している。2時間以上の場合は潜在的中毒危険者となる。
警察庁サイバー捜査隊の発表ではサイバー犯罪の45%がオンラインゲームによるアイテム売買詐欺、ハッキング、個人情報侵害で、青少年のサイバー犯罪のほとんどがオンラインゲームと関連があるという。現に、青少年のオンラインゲーム中毒が問題になっているのと同時にサイバー犯罪も5年間12倍以上増えている。また、オンラインゲーム上のチャットでの言い争いが集団暴行事件へと発展するケースもある。
大韓青少年医学会は「オンラインゲーム中毒も立派な病気。学校を休んでゲームに没頭する、ゲームがしたくて家出をする、そのうち殺人や暴力に鈍感になるといった極端な症状も出てくる。治療失敗率も高い中毒なので早めに病院に来て相談した方がいい」とアドバイスする。
韓国政府は国家青少年委員会、情報通信部が主導して病院やカウンセラーと連携し、オンラインゲーム中毒予防・治療のため毎年夏休みには無料で参加できるキャンプを開催している。
米バージニア工科大学での銃乱射事件以来、韓国でも「引きこもり」が重大な社会問題になった。もしかしてうちの子も、と心配する親が病院や心理相談所に駆け込んでいる。病院の薦めで青少年委員会のキャンプに参加した親子のほとんどが純粋でやさしい子だと思っていた自分の子供が、オンラインゲームをできないようにしただけで親に殴りかかり罵倒したりするのを聞いてショックをうけた経験の持ち主。
ここまで深刻な症状に陥ってしまった子どもたちをどうしたらいいのか。次回は韓国のオンラインゲーム中毒キャンプ事情を紹介する。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070620/275297/