SKテレコムはモバイルTVに集中――Mobile World Congress 2008より

韓国で最大手の通信キャリアであるSKテレコムは、バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2008」に参加し、主にモバイルTVにスポットを当てた技術を紹介した。この展示会でSKテレコムと米サンディスクは、携帯電話で放送を視聴する「モバイルTV」のコンテンツを保護できる、SKテレコムのモバイルDRMが適用されたメモリーカードを公開した。高いパケット代がかからずに楽しめるモバイルTVの人気は韓国で高く、1000万人以上の加入者を集めている。

 この事業のためにSKテレコムとサンディスクは2007年2月に覚書を締結。今後、サンディスクのメモリーカードにSKテレコムのDRM技術を搭載するための技術検証を完了した上で、DRM技術が適用されたメモリーカードを発売することになった。両社の契約によりサンディスクは、全世界で今後販売するモバイル向けメモリーカードに、このモバイルDRM技術を搭載できるようになる。


 今まで登場したモバイルDRMソリューションは、コンテンツの保存や再生機能が限定されおり、特にモバイルTVのようなストリーミングコンテンツの保護が難しかった。これに対し、SKテレコムのモバイルDRMは、モバイル通信の業界団体「Open Mobile Alliance」が策定した「OMA DRMバージョン2.0」に基づいた仕組みであり、モバイルTVサービスのようなストリーミングコンテンツをサンディスクのメモリーカードに安全に保存し、多様な電子機器から利用可能にできるとしている。同時に、コンテンツの不正送信や流布も防止できるという。


 この技術は、モバイルコンテンツをセキュアに保存したり配給したりする新たな標準になることが期待されている。この技術によって、モバイルTVユーザーはより自由にコンテンツを楽しめるようになり、モバイルTV事業者らは利用日数や利用機器に応じて多様な価格設定ができるので、ビジネスモデルの幅が広がるのではないかと展望しているからだ。


 SKテレコムとサンディスクは今後、ゲームや映画、電子ブック、動画、アニメーションなど多様なモバイルコンテンツに必要な技術開発と、韓国をはじめ全世界市場のモバイルTVと私的録画などDRM技術が活用可能な多様な市場を切り開くために協力する。


 SKテレコムは通信キャリアであるが、通信インフラだけでなくモバイルコンテンツも提供している。日本の通信キャリアと違ってSKテレコムは「プラットフォームだけ握っていてもしょうがない、どこよりもたくさんのコンテンツを確保しておく必要がある」としきりに自前コンテンツの重要性を力説しており、ここ数年は、映画会社や音楽会社を買収し、モバイルに限らずコンテンツ制作から流通まで仕切るようになった。ブロードバンド通信事業大手のHanaroを買収して有線・無線インフラのすべてを掌握し、IPテレビやモバイルIPテレビも開始した際に、売り場はたくさんあるのに売る物がないという悩みもあった。あるいは、携帯電話は売れているのにモバイルインターネットはなかなか普及しない中、SKテレコムらしいコンテンツがほしいという考えもあったのだろう。


 ほかにもSKテレコムは2008年上半期から「モバイルネットワークTV」を始めようとしている。モバイルネットワークTVはソニーが提供しているロケーションフリーの携帯電話版に近いもので、SKテレコムとCJケーブルネットが開発した。チャンネル数が100以上もあるケーブルテレビの番組を携帯電話で視聴できるサービスで、モバイルTVに比べてチャンネル数がはるかに多い。サービスを利用するためには家庭内ケーブルテレビの信号を外部に転送する「N-box」というデジタルメディアアダプターをケーブルテレビのセットトップボックスと家庭内ブロードバンドにつなげるだけ。N-boxがケーブル放送信号を携帯電話に送信する。携帯電話がつながる場所であればどこででもケーブルテレビを見られる。


 今は、携帯電話の外にはモバイルコンテンツを持ち出せないので安心という時代ではなくなった。このため、今回発表したようなコンテンツを保護しながらさまざまな機器で使えるようにする技術が必要なのだろう。韓国では「のどが乾いた人が井戸を掘る」ということわざがある。まさにその通りに、ベンダーやコンテンツプロバイダーに任せず、必要な技術やコンテンツはどんどん自分で作るというのが韓国キャリアの戦略でもある。ただ、ユーザーの利便性を高めるためのモバイルコンテンツの録画や著作権管理のあり方をどうしたらいいのかという技術だけではカバーしきれない部分の方が大きいのではないだろうか。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年2月20日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20080219/294205/