韓国デジタル教科書事情(3)~教科書だけではない、すでに仮想現実の授業も実施

「韓国デジタル教科書事情(2)」から続く)


 韓国の学校では、学校の告知事項も、先生からの宿題も、宿題を提出するのも、テストの成績を確認するのも、全部ネットで行われている。一部学校は保護者向けに教室の様子をネットで配信しているほどだ。透明で公平で「見える教育」にしないといけないという考えと、IT大国らしく、親も子どもも「ネットの方が何かと便利」という考えから生まれたものである。


 環境は整っている。子どもたちは、家に帰ったら自宅のパソコンからネットへアクセスして予習・復習をし、宿題はネット上にある先生のページに登録する。


 デジタル教科書実証実験学校の場合は、デジタル教科書でどんな勉強をして、学生ごとにどんな学習効果を得られたのか、学習過程をすべてネットで公開している。当初、デジタル教科書を使うと紙の教科書よりも目が悪くなるのではないか、電磁波の影響で背が伸びなくなるとか子どもの成長に悪影響を与えるのではないか、インターネットにつながっていないと不安になるネット中毒になってしまうのではないかなど、保護者はいろいろ心配した。しかし学校側が健康診断や心理検査も行い、学習効果を毎日測定して公開した結果、そのような悪影響はないことが判明し、保護者も安心して実証実験を楽しみにするようになった。


 韓国のデジタル教科書はどんな端末からも利用できるマルチメディア教材として開発されている。中身は日本の構想とあまり変わらない。基本的に紙の教科書をデジタル化して、重要なキーワードには動画や画像・アニメ、百科事典などがリンクされている。リンクをクリックするとそのキーワードを分かりやすく説明してくれる参考資料が登場するので、参考書を別途買わなくても教科書の中で全部解決できる。


 韓国では、デジタル教科書を2013年より全国で商用化することを目指している。その前の段階として、2011年から紙の教科書+CD-ROMが配られる。CD-ROMにはデジタル教科書が入っていて、学校の電子黒板や自宅のパソコンで利用できる。


 子ども一人にパソコン1台という状況ではまだないので、電子黒板にデジタル教科書を表示させ、マルチメディアを利用した授業を行う。今までは先生がデジタル教材サイトから動画を検索してオリジナル資料を作成して電子黒板に表示していた。デジタル教科書実証実験学校では、子ども達の理解を高めるためデジタル教科書に追加して、さらに先生と子どもたちが教材サイトで見つけた動画や写真を付け加えて発表したりして面白くインタラクティブに授業をしていた。先生と子どもたちが一緒になってマルチメディアを活用しさらにアレンジしている――。ここが韓国の教室で起こっている、面白いところではないだろうか。

日本では事業仕分けによって揺らいでいる「フューチャースクール」であるが、韓国では持続的に政府が投資している。デジタル教科書に限らず、教室を丸ごとアップグレードし、先端的な教育環境を実現するための投資である。その1つに、「U-class(ユビキタスクラス)」という名前で行われている実験がある。VR(仮想現実)を使う教室のことだ。


 RFIDによる出欠管理、マジックミラー、電子ペン(手書き内容をデータとして保存)、電子黒板、電子教卓、タブレットパソコン、個別学習管理システム、個別コンテンツ管理システム、酸素発生器(空気洗浄+集中力を高めてくれる酸素を供給)などの設備がそろう。


 例えばRFIDによる出欠管理では、子どもたちが机の上にあるカードリーダーに自分のICカードをかざす。それが出席チェックとなり、それぞれの場所が先生の電子教卓に表示される。出席チェックと同時に「今日の気分」も選択する。内気で先生にあまり話しかけることができない子どものために作られたもので、「今日は落ち込んでいる」、「今日は具合がよくない」といった項目もあった。これを見て先生が子どもの状態を把握して先に話しかけたりできるようにしている。授業中に発表する人を決めるときは、ICカードに登録された子どもたちのキャラクターを登場させ、抽選を行う。楽しくゲームのように授業に集中させる仕掛けの1つだ。




子どもたちが使うICカードとカードリーダー。出欠管理に使う。授業に参加できるようキャラクター情報も持つ

U-class実証実験を体験できるショールームで英語の授業を見せてもらった。


 クラスの壁一面がスクリーンになっていて、先生が教室の真ん中に立つとスクリーンの中に先生が入っているように立体的に映し出される。この日の授業は外国の友達を家に呼んでパーティーをするという内容で、先生の隣には外国人の子どものキャラクターが数人登場、一緒に英語でおしゃべりをしながら授業を進める。キャラクターの頭の上には「のどが渇いた」とか「おなかが減った」などのメッセージが表示され、教室の子どもたちはこれを見つけては素早く英語で話しかけて対応しないといけない。実際に外国人と会話をしているような仮想現実を体験することで、より英語を身近に感じさせるのが目的である。







先生がスクリーンの中に入り込んでいるようにみえる。仮想現実の登場人物と英語の授業を行っている最中だ


また電子黒板も2Dから3Dにアップグレードしていた。科学の授業では先生の心臓の位置に3D画像の心臓が映し出され、子どもたちの理解を高めていた。


 このVR教室は未来のものではない。政府のIT科学技術開発シンクタンクがある、ソウルから2時間ほど離れた大田(テジョン)市の小学校12校で既に導入済みだ。英語や科学などいくつかの科目の授業が行われているという。(次回に続く)





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月13日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101210/1029069/