原発の情報が欲しい! 韓国語への同時翻訳サイトで情報入手

東日本大震災後、原発事故と放射性物質が連日話題になっている。健康に影響はないという日本のメディアと、まだまだ危険で安心できないと疑う海外メディア。

 一時期、韓国や中国、米国のメディアは騒ぎすぎではないかといった批判もあったが、欧米各国の政府が自国の日本在住者に対し、国外へ避難するよう勧告してから、東日本に住んでいる韓国人の間でもじわじわと不安が広がっていった。韓国政府は避難勧告を出していない。日本は高い安全基準を適用している国であるとして、日本産食品の輸入を規制するような動きもしていない。それでも日本のメディアで「外国人の帰国ラッシュ」といったニュースを目にすると、どうしたらいいのか悩んでしまう。


 韓国のポータルサイトは東日本に住んでいる韓国人向けに、より正確な状況を把握できるようにサポートするため、NHK、AP通信、CNNといった主なメディアによる福島第1原子力発電所と震災関連ニュースを韓国語にまとめて2時間ごとに更新している。


 ネットユーザーはそれに満足せず、Google翻訳を使って日本、フランス、ドイツ、中国のメディアまで情報源を拡大。Twitterやブログ、掲示板を通じてこの媒体はこういう話をしているようだとつぶやくと、外国語が堪能な人や専門家も参加して、より正確な翻訳が付け加えられ、こっちではこういう話もあると情報が集まる。


 これはネットの無料翻訳サービスが脚光を浴びるきっかけにもなった。日韓の翻訳以外の翻訳精度はまだ高くないため、サイトごとに翻訳された内容が違っていて逆にわけ分からなくなることもあるが、自動翻訳を使って外国語の新聞や本、動画も自由自在に楽しめる時代が近くなったと実感した。


 中でも注目を集めたのが、NHKニュースを同時翻訳で字幕を付けてくれるサービスだった(現在は終了)。3月18日から23日まで提供したもので、機械翻訳ではなく6人の同時通訳専門家がNHKのニュースをリアルタイムで、アナウンサーが話す内容を翻訳して韓国語で入力した。ネットユーザーはUstreamやニコニコ生放送を利用してNHKの日本語ニュースを見ながら、NAVERの字幕を利用して韓国語で日本の原発や震災後の状況を把握することができた。








NHKニュースの同時翻訳を付けたNAVERのWebサイト

日本に住んでいて日本語をあまり話せない韓国人もいる。情報不足でパニックになったり不安になったりしないように、韓国のメディアによってろ過されていない生のままの日本のニュースが知りたい人のために提供されたものである。震災後、韓国のポータルサイトでは「NHK」というキーワードが検索ランキング上位に登場したほど。日本ではどのように報道されているのかを知りたがった韓国人が多かったわけだ。

 ネットでは原発や放射性物質に関してデマも広がっているだけに、できるだけ科学的根拠のある信頼できる情報をたくさん集めて、自分で判断したいという人も増えている。出所の分からない情報に惑わされないよう、韓国の外交通商部(外務省)、気象庁、消防防災庁の公式ミニブログ「me2day」 (NAVERが提供する韓国のTwitter)も忙しくなった。


 宮城・岩手などに派遣された救助隊や仙台領事館から送られてきた現地の写真が公開され、東日本の地震速報、日本と韓国の放射線量の数値、放射性物質に関する説明、日本での緊急連絡先などを随時更新している。


 駐日韓国大使館では、日本政府が発表した東京の放射線量数値を韓国原子力安全技術院に依頼して、人体に影響があるかどうか分析して毎日ホームページで告知している。


 東日本大震災は、韓国から最も近く、韓国人が最も多く住んでいる日本で起きた震災だけに、韓国内の事件と同じ扱いで連日トップニュースとして報道されている。「Pray For Japan」の熱気(前回記事参照)もまだまだ続いている。韓国の大学では、日本から来た留学生が被災して帰国が難しくなった場合、無料で大学の寮を提供して生活を支援するといった案を発表したところもある。韓国内の在庫が足りなくても、日本にミネラルウォーターや非常食品を優先的に提供するという食品会社も増えている。震災の不安と影響、そして痛みを韓国も共有している。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年3月25日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110325/1030911/