大手ポータルが注目するマッシュアップは大きなうねりを巻き起こすか

韓国で最王手のポータルサイトであるNAVERと、2位のDAUMがタッグを組んだ。Web開発の人材を確保するという共同の目的のためだ。そこでのキーワードは「マッシュアップ」である。

 NAVERとDAUMは、Web開発の人材確保、マッシュアップのベースとなるWeb APIの利用拡大、Web業界の発展などを目的に「2008大韓民国マッシュアップ競進大会」を2008年2月に共同で開催する。この大会には、Yahoo! Koreaや韓国マイクロソフトなどといった、韓国の名だたるインターネット企業も参加する。大会入賞者には賞金と商品はもちろん、NAVERやDAUM、韓国マイクロソフトなど大会をサポートする企業が採用する際に“優遇”されるという特典付き。就職難で就職環境が厳しい韓国では見逃せない大会でもある。


 マッシュアップとは、企業などが提供しているさまざまなサービスやコンテンツを組み合わせて、まったく新しいサービスやコンテンツを生み出すことだ。米国では、GoogleやYahoo!、MSN、Amazon、eBayといった代表的なサイトがマッシュアップを実現するために必要なWeb APIという仕組みを公開しており、個人や企業がそれを使ってマッシュアップサイトを作れるようにしている。Web APIとは、Webの技術を使って、サイトから必要な情報を簡単に取得する仕組みのことだ。すでに、Google Mapsを利用した不動産サイトや、UFOを見かけた地点をマーキングした地図サイトなど、数百を超えるマッシュアップサイトが生まれている。


 とまあ、これだけだと具体的にイメージしにくいかもしれないので、1回目の大韓民国マッシュアップ競進大会で大賞を受賞したマッシュアップサイトを簡単に紹介してみたい。それは、「英作文お助けサイト」。英作文をして「検査」ボタンをクリックすると、韓国グーグルが公開しているWeb APIを使って、その文章がどれほど頻繁に使われている表現なのかを判断し、英作文の妥当性を評価してくれる。また、NAVERとDAUMの辞書用のWeb APIを利用した、単語や慣用句の検索機能を備えている。英作文に必要な機能がすべて一つになった実用性の高いマッシュアップサイトである(詳しくはhttp://mashupkorea.com/gallery.htmlで見られます。ただし韓国語のみです!)。来年の第2回目では、韓国内だけでなく海外で公開されているWeb APIも利用できるように条件が緩和されたことから、参加者の増加はもちろん、より多様で創意的なマッシュアップが登場すると期待されている。

NAVERとDAUMのマッシュアップへの力の入れようは相当なもの。両社は11月29日に開催される「SOFTEXPO」でマッシュアップに関する相談受け付けや情報を提供するためのブースを運営するし、続く30日にはマッシュアップに関する講演を中心にした「マッシュアップコンファレンス」も開催する。年が明けて1月には「マッシュアップキャンプ」を実施し、実習の機会をユーザーに提供するという。NAVERは韓国で最初にWeb APIを提供した企業だし、DAUMは2007年10月にWeb APIを利用したマッシュアップサービスの企画を課題にアイデアを公募して、その結果を元にインターンとして採用する学生を選抜したこともある。


 NAVERはマッシュアップに力を入れる理由をこう話す。「Web APIの公開で得られる新たなビジネスモデルは限りなく多く、新しい市場を形成するようになるだろう。ユーザーがコンテンツとサービスを利用しながら製作にも参加する『参加と共有』の代表的な事例がマッシュアップではないだろうか。NAVERはオープンソースの活性化のために、国内外のオープンソースカンファレンスをサポートしている。マッシュアップ大会が韓国のWebを発展させる代表的なイベントになってくれることを望んでいる。」


 ただし、韓国内で圧倒的に多いのは、Web APIの公開によってシナジー効果を得られることを期待するサイトよりも、技術力と競争力を盗まれたり商業的に悪用されたりするだけなのではないかと心配し、Web APIの公開を拒んでいるサイトの方だ。公開はしていても、1日当たりの利用回数を制限したり、事前に登録した人だけが使えるようにしたり、有料で公開したりするところもある。Web APIの公開に積極的なNAVERでさえも、商用利用を許可していないし、非商用利用の場合も1日当たりのアクセス数を制限しているほか、NAVERのサービスを利用していることを明記しなければならないという条件もある。


 また、Web APIを利用するユーザーの立場から見ると、マッシュアップサイトを作るにはパソコンやWebの知識を持ち合わせていないといけない。それなりのスキルが必要なので、しきいが若干高いのは確かだ。


 このように、賛否両論あるし、使うにはまだ制約があるのも事実だが、ユーザーの立場から見て「これは使えるぞ!」というマッシュアップサイトが米国を始めとして世界中でどんどん生まれていることから、韓国でもユーザーが好きなように応用できる開放型ポータルサービスがどんどん広がっていくと予想されている。また、環境問題を改善するために資源のリサイクル運動が行われているように、開発されたままで埋もれてしまっているWebサイトの価値を再び掘り起こす“Webのリサイクル”にも使える。Webの再誕生とも言えるマッシュアップは、オープンソースと並んでWeb 2.0に新たな風を吹き込みそうだ。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2007年11月28日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20071127/288115/