韓国のポータルサイトはNaver、Daum、Nateなど国内勢が圧倒的に強く、米国のGoogleやYahoo!のシェアが極端に少ないという特徴を持っている。しかし黄金時代もそろそろ終わりかもしれない。政府の規制強化でユーザー離れの懸念が強まっているうえ、景気悪化で広告も減り始めたのだ。
韓国の通信政策を担当する省庁である「放送通信委員会」は、サイバー侮辱罪の新設、実名制度の拡大、ポータルサイトのモニタリング義務化、企業の個人情報保護強化などを含む「情報通信利用促進と個人情報保護などに関する法律」、いわゆる情報通信網法を改正する方針を決めた。12月には国会に提出する方針である。
情報通信網法の改正案について説明する放送通信委員会のホームページ
■モニタリング義務化に不満
ネット規制強化の動きは今年起きた反政府デモをきっかけに進みだしたが、10月に人気女優の崔真実(チェ・ジンシル)さんがネットの書き込みを苦に自殺した問題で議論に拍車がかかった(詳しくは「韓国有名女優の自殺ショック・なぜ悪質書き込みは止まないのか」)。そして、いよいよ法改正である。
韓国では情報通信網法だけでなく、KoreaCIAと呼ばれた国家情報院の業務範囲を拡大させる法改正も合わせて予定されている。このため野党の民主党は、「人権を守るどころか軍事政権の時代に逆戻りする国民過剰監視、政権を保護するための悪法である」と断固戦う姿勢を示している。
情報通信網法の改正案のうち、サイバー侮辱罪についてはまだ刑法で扱うかどうかで議論が続いているが、実名制度拡大、ポータルサイトのモニタリング義務化、企業の個人情報保護強化の3つはすでに固まった。
このうち実名制度の適用拡大に対しては、市民団体などから「実名制度を導入しても悪質な書き込みは2%ほどしか減らなかったという研究結果もある。ネットの浄化にはつながらず、自由なコミュニケーションを阻害する結果しか生まない」といった反発が根強い。ただ、現実問題としては、すでに多くのサイトで氏名と住民登録を確認する実名認証が導入されているので、実生活に大きな変化はないだろう。
懇談会に参加した放送通信委員会のチェ・シジュン委員長とポータルサイト代表ら
個人情報保護強化では、企業が顧客情報を本人の同意なく第三者に提供できないようにする。ここ数年、顧客データが盗まれたり売買されたりして保険の勧誘などに使われるといったトラブルが多発していただけに、これにはネットユーザーの間でも賛成する声が多い。
問題はポータルのモニタリング義務化の部分だ。ポータル事業者に自社のサイトをモニタリングさせ、問題の余地がある書き込みがあればブラインド処理をして他のユーザーがクリックできないようにすることを義務付ける。これを守らないと3000万ウォン(約230万円)以下の過怠料を科せられる。
ユーザー側からみれば、自分たちの書き込みがすべて監視されることになる。しかも、ポータル事業者は業界として悪質なコメントや誹謗中傷、不法コピーファイルの流通遮断に積極的に取り組むと協力姿勢を示し、放送通信委員会の委員長と懇談会を開いたりしている。このため、ネットユーザーは、「ポータルが自社に火の粉がかからないように、政府の気に召さないような書き込みをブラインド処理することは事前検閲に他ならない」と不満を強めている。
放送通信委員会に対する国政監査のもよう
■コミュニティー系のPV減少
このような逆風のなかで、ユーザーのポータル離れの動きが数字になって表れ始めた。DAUMのコミュニティーサイトのページビュー(PV)は6月1週目で5億PVに達していたが、9月1週目には9963万PVに激減した。Naver、Daum、Paran、Nate、Yahookoreaの5サイトの10月の合計数字をみても、ブログなどのPVが23.26%減、コミュニティー系が8.29%減と目に見えて減っている。
さらに、米金融危機に端を発する景気悪化で、広告収入にも陰りが出てきた。
韓国ネットユーザーの7割がブラウザーの初期画面にしているとも言われる最大手のNaverは、2002年10―12月期から23四半期連続で右肩上がりの成長を謳歌してきたが、2008年7―9月期はついに記録が途切れた。運営会社NHNの売上高は4―6月期比3.9%減、営業利益は13.4%減、当期純利益は10.7%減少している。シェア2位のDaum、3位のNateも営業利益が13%以上減少している。Daumは当期純利益が63.5%も落ち込んだ。
ポータル3社はそれぞれ、サイトリニューアルによる一時的な利用者離れ、景気の悪化など外部要因によるものと説明している。しかし、これといってすぐに回復しそうな気配もない状態だ。
株価も大幅下落している。韓国のインターネット広告は新聞、雑誌を上回りテレビに続く規模に育ったが、株式市場では政府の規制がさらに厳しくなり、ポータルの広告収入は今以上に落ち込むと予測している。ユーザーからも広告主からも遠ざけられ、政府に立ち向かうこともできないポータルは苦境をどう乗り越えるか。
■モバイルと地理情報に期待するが・・・
Naverは日本で検索サービスの再参入を狙っている。日本では現在、Hangameだけを残して検索サービスからは撤退しているが、再起をかけるようだ。新規採用を減らすなど緊縮経営も進めている。Daumは広告単価の引き下げ、新しいゲームサービスの追加などによるコンテンツのてこ入れに力を入れる。
面白いことに、ポータル3社が共通して新しい収益モデルとして挙げるサービスがある。それはモバイルポータルと地理情報サービスである。スマートフォンの普及に対応して小さい液晶からも見やすいようにしたモバイルポータルと、付加価値をつけやすいマップサービスで広告需要を生み出したいということだろう。
ユーザーが投稿する写真や動画と位置情報を組み合わせて、ユーザー同士でテーマ別マップを作るコーナーや、実際には存在しないがネットで衛星写真を検索すると見える屋外広告が注目を浴びている。
情報通信網法の改正は、政府の「ポータル馴らし」とも言われる。それだけに、ユーザーや広告主が戻ってくるか永遠に離れていくかは、今後のポータルの出方によって決まるだろう。今のところ、ポータル各社は政府への忠誠心を見せているようだ。メディアとして「わが道を行く」サイトが一つぐらいはあってもおかしくないと思うのだが。
– 趙 章恩
NIKKEI NET
インターネット:連載・コラム
2008年11月11日