[日本と韓国の交差点] 朝鮮半島の統一はありえるのか? (2)

韓国が抱える統一の障害は「情報」(2)



第1回から続く


 韓国内では北朝鮮の情報が錯綜している。このため、韓国人が肌で感じる北朝鮮は宇宙のように遠くなるしかない。


 韓国銀行によると、北朝鮮と韓国の国民所得の格差は18倍、経済規模の差は38倍もあるという。(驚いたことに、1960年代まで、北朝鮮の方が韓国より経済的に発展していたという)しかし数字だけでは北朝鮮がどのような状態にあるのか、よく分からない。



北朝鮮がどういう状態にあるのか、韓国は分っているのだろうか

 北朝鮮に関するニュースを読んでも聞いても、やっぱりよく分からない。韓国のマスコミは、ある日は「北朝鮮は政権崩壊直前。飢餓で死者が続出した」といい、また、ある日は「闇市は活気があふれ、経済が活性化している」という。「韓国の大衆文化が北朝鮮にも伝わり歌謡曲がよく歌われるようになった」。「韓国のドラマをDVDで見ている」。「幹部奥さんの間では韓国産シャンプーを使わないと仲間外れになる」などなど。ニュースがないわけではないが、やっぱりよく分からない。IT強国の韓国であるが、北朝鮮関連サイトはアクセス禁止になっていて韓国政府が監視している。気にはなるが見ようとは思わない。スパイと勘違いされては大変だからだ。


 韓国政府の行動や発表も一貫してはいない。政府はかつて太陽政策を取り、北朝鮮を援助していた。しかし、李明博大統領に変わるプチッと中断した。「北朝鮮への援助物資が北朝鮮軍に流れている」というのが理由だった。哨戒船が沈没し多くの犠牲者が出た事件でも、「北朝鮮の仕業」と言ったり違うと言ったり、よく分からない状況が続いている。


 今までも、北朝鮮の仕業として知られていた事件が、実は違っていたことがいくつかあった。映画化された「シルミド」もその一例だ。韓国政府は、数人の人たちを書類上は死んだものとし、北朝鮮に送り込むために訓練していた。その彼らが反発。しかし軍は、彼らが、訓練地の島を脱出してバスを乗っ取りソウルへ向う中に射殺した。この事件も、韓国政府は長い間北朝鮮の仕業としていた。


 私が小学生のころに見た韓国の本に登場する北朝鮮は許されない敵であり倒すべき敵と書いてあったほどだ。中には軍服を着た狼の挿絵が描かれており、とても恐ろしかった。


 北朝鮮にどんな人が住んでいてどんな状態なのか、韓国人は日本の報道や衛星写真などを見てパズルを合わせるように想像するしかないのだ。だから怖い。南だけでも所得の格差による問題が絶えない。「働いても働いても貧乏を抜け出せない」と悲観して20代の女性が自殺した事件が起きたばかりである。北朝鮮から南へ流れてくる人々をどう助けたらいいのか。その費用は税金だけでまかなえるのか。


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By 趙 章恩

2010年9月1日



-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20100827/215997/

[日本と韓国の交差点] 朝鮮半島の統一はありえるのか?

韓国が抱える統一の障害は「情報」(1)

韓国にはこんなことわざがある――「もう遅い」と思った時がいちばん早い時。日本の「思い立ったが吉日」と同じ意味を持つ。その言葉を信じて私は、社会人になって10年目で日本への留学を決意した。私は小さいころから高校を卒業するまで東京に住んでいたが、歳をとってもう一度日本に来てみると、子供のころには気づかなかったいろんな日本が見えてくる。

 特に驚いたのは、朝鮮半島――韓国では「韓半島」と呼ぶ――を取り巻くニュースがとても豊富なこと。特に北朝鮮関連ニュースは、韓国でよりも早く詳しく報道される点である(韓国の芸能人情報も日本の週刊誌の方が詳しく報道しているのでびっくり!)。北朝鮮の街並みや生活を隠し撮りした映像は韓国ではなかなか見られない。後継者問題や金正日総書記の健康状態など、韓国ではどのマスコミも似たり寄ったりの報道しかしない。それに対して日本は、自由にモノが言えるせいか、中身が濃くて面白い。いろんな専門家がいろいろな意見を言っている。


 逆に韓国が、日本の報道を引用して報道しているほどだ。日本のマスコミの方が韓国以上に北朝鮮に敏感になっているのではないかと感じる。もちろん韓国でも、毎週北朝鮮の動向を報道するテレビ番組がある。北朝鮮研究も盛んだ。しかし、一般市民が肌で感じる北朝鮮はとても遠い。


 韓国にとって北朝鮮の動きは国家の国防・政治だけでなく株価や為替レート、企業の長期戦略など経済的にも多大な影響を及ぼす。しかし、休戦状態が60年も続いているせいか、もう北朝鮮は遠いどこかにある未知の国のような存在になってしまっている。鈍感になってしまった面もある。



2010年は朝鮮戦争の勃発から60年~いまだに続く休戦リスク


 韓国人と北朝鮮人――韓国では「北韓」(ブッハン)という――は同じ民族でありながら、 1950年6月25日に勃発した戦争のため、まだ休戦状態である。韓国にとって北朝鮮は、どの国よりも対立している敵であると同時に、助けるべき同胞なのだ。2010年は戦争開始から60年、「あの日のことを忘れてはならない」と朝鮮戦争――韓国では「韓国戦争」と呼ぶ――をテーマにした特別ドラマや映画が制作され、人気の韓流スターが大挙出演している。


 各種の国際イベントも続いている。例えば、朝鮮戦争に参戦した国連軍所属のアメリカ、フランス、カナダ、ギリシャ、オランダ、ニュージーランド、トルコ、南アフリカ、エチオピア、タイ、フィリピンなど16カ国の参戦兵士や青少年、記者などを韓国に招待し、世界でもっとも貧乏だった韓国の生まれ変わった姿を見せる恩返しイベントがあった。特に参戦国の中でも最近注目されているアフリカの新興国との関係は緊密だ。「兄弟の国」として大手企業のCSRやソーシャルビジネスの対象になっている。


 日本の友達によく言われるのは、「韓国はいつ行っても活気があって、人々は元気で、全然不景気に見えない」という感想である。軍事政権が終わった90年代以降かなり緩和されているが、韓国はまだ休戦というリスクを背負っている(軍事政権時代には、韓国人は海外旅行に行く自由はなかった。国外に行く際には北朝鮮の人と接触してはならないという教育もあったという)。


 外国人に人気の観光コースの一つが南北休戦線の上にある板門店の見学だ。しかしここは、韓国人にとっては気軽に足を運べる場所ではない。ハリーポッターの世界に「魔法省」があるように韓国には「統一部」――(韓国では「部」が「省」にあたる――がある。統一部が身分照会をして「問題ない」と判定された人だけで構成された団体でないと板門店は観光できない。


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By 趙 章恩

2010年8月25日

-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20100823/215914/