アメリカやヨーロッパで問題になった「i-doser」と呼ばれるMP3ファイルが韓国の青少年の間で流行し、政府機関がファイルの削除や検索禁止など、取り締まりを始めた。どこまで本当か知らないが、このi-doserは脳波を調節するという周波数を繰り返し、麻薬を服用したのと同じ効果があるとネット上では喧伝されている。
あまりの噂の広がりに、テレビ番組ではi-doserは本当に覚醒効果があるのかという実験まで行った。1時間ほどi-doserファイルを聴かせた後の感想は、何の効果もないという人もいれば、熟睡できた、気持ちよかったという人もいた。一方で、翌日になっても頭痛と吐き気がしたという人もいたため、有害性があるのではないかと一部では問題になっている。リアルの麻薬を取り締まる食品医薬安全庁をはじめ、放送通信審議委員会、保健福祉家族部が集まり、i-doserの有害性を研究し、安全性が判明するまでインターネットで流通できないようにした。
i-doserはコミュニティサイトを中心に2009年2月ごろからファイルが掲載されるようになり、ポータルサイトの人気検索キーワードとして登場したのをきっかけに一気に広まった。「i-doser」、「耳で聞く麻薬」、「サイバー麻薬」など、関連性のあるキーワードでは検索できないようにし、MP3ファイルは削除している。政府機関はi-doserに有害性があると判明された場合、医薬品管理法と青少年保護法、電気通信法を改定してでも、取り締まりを強化するとしている。
好奇心旺盛な青少年だけに、脳波を調節して麻薬を服用したのと同じ効果があるファイルがあると聞けば試してみたくなるのだろう。ネットのブログやコミュニティの掲示板には数千件のi-doser体験談が投稿され、どこどこのサイトにいけばまだファイルをダウンロードできるといった情報までやりとりされている。アメリカの動画投稿サイトにはi-doserを聴きながら発作を起こす人の動画が投稿され、これがまた韓国のポータルサイトなどにコピーされて出回り、さらに好奇心を刺激することになった。
「脳波調節」はすでに経験済みの韓国の若者
i-doserの仕組みは、心を平穏にするα波、知覚と夢の境界状態にさせるというΘ波、身体的活動を高めるβ波で脳を刺激して、興奮させたり沈静させたりと心理状態を調節する点にあるのだそうだ。確かに、このような脳波調節グッズは既に韓国で商品化されている。それは「集中力を高める」、「頭をよくする」として、韓国の受験生なら一度は使ったことのある機械だ。もちろん脳波を調節するとしてもi-doserとは違って、人体に害を与えないことが立証された教育用製品である。i-doserは販売元が自ら麻薬効果のある音だと主張しているため問題になった。
韓国でi-doserがあっという間に広まったのは、脳波を調節して集中力を高めるという機械が既に広く認知されていたため、本当に麻薬効果があるかもしれないと信じるようになったせいかもしれない。面白半分で聴いてみたという程度ではなく、本当に幻覚状態を体験したという書き込みや、こうすればもっと幻覚を体験できるといったアドバイスまで書き込まれているため、サイバー麻薬の誘惑は広がるばかりである。
MP3ファイルを医薬品管理法で取り締まるという発想もすごいが、医薬品関係者らは「詐欺罪」で取り締まったほうがいいのではないかと提案している。これはファイルそのものには何の効果もなく、このようなファイルを有料で販売するのは詐欺罪に当たるのではないかという意見だ。ユーザーに何らかの症状が起きるとすれば、麻薬と宣伝されているファイルを聴いているという興奮や期待、自己暗示によって反応するプラシーボ効果に過ぎないという主張を展開している。
本当に人体に有害な影響を与えると立証されたファイルの流通は止めるべきだろうが、政府が過剰対応すると、さらにi-doserが注目を集め、「アングラ」でもっと高い値段で取引されるものになるかもしれない。これではこのファイルをインターネットの世界へ投げ込んだ当事者が儲けるだけだ。ネットで起きていることをどこまで規制するべきなのか。この「ファイル」にどれだけまともに対応すべきなのか、はたまた、これも表現の自由と見るべきなのか、難しいところだ。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2009年3月19日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090319/1013358/