韓国の通信政策を担当する省庁の放送通信員会は思い切った方針を発表した。韓国の家計消費に占める携帯電話料金の割合はOECD加盟国の中でもトップという調査結果と、低所得層の家計通信費のうち、携帯電話料金がもっとも大きな負担になっていることを鑑みて、政府から生活補助を受けている基礎生活受給者137万人全員とワンランク上の低所得層(1人あたり所得額が最低生計費の120%以下)236万人に対する携帯電話料金の割引幅を大きく増加させるというものだ。
元々、基礎生活受給者は携帯電話の基本料と通話料を35%割引してもらっていたが、これからは基本料は全額免除、通話料は50% 割引される。ワンランク上の低所得層は特に割引が適用されなかったが、基本料と通話料が35%割引される。KTFとLGテレコムは3万ウォン(約3000円)、SKテレコムは5万ウォン(約5000円)かかる加入費はどちらも全額免除される。
携帯電話だけでない。保健福祉部と放送通信委員会の協議で、基礎生活受給者と低所得層が全ての通信料を割引してもらうための手続きも大幅に簡素化される見通しだ。今も手続きが複雑で基礎生活受給者の中で7万3000人だけが割引を適用されているからだ。
固定電話も基礎生活受給者に中で65歳以上、18歳未満人には提供される。加入費、基本料免除、市内通話225分、市外通話225分無料となっている。有線ブロードバンドは利用料の30%、
この処置により携帯電話の割引金額は合計年間59億ウォン(約5億9000万円)から約5050億ウォン(約550億円)に大幅拡大されると放送通信員会は推定している。早ければ2008年10月から携帯電話事業者の約款改定を経て割引が適用される。
また中古携帯電話端末の売買も拡大していくという。現在、中古端末はオークションや一部代理店でしか手に入らず、そのほとんどが廃棄されている。韓国人が1台の携帯電話機を使い続ける期間は1年未満という調査結果もあるように、新製品と変わらない端末が捨てられているのだ。個人情報保護のためという名目もあるが、3G以降はチップを差し替えるだけでいいので、もっと中古端末の流通を増やして行くというのは、低所得者の経済負担を減らす以上に、環境問題への対処としても望ましい方策といえる。
割引は、低所得者向けにとどまらない。冒頭に紹介した放送通信委員会の方針では、一般国民の通信負担を緩和するために、セット販売の割引幅をもっと大きく伸すよう求めている。政府はできれば1世帯当たり10万ウォン、約1万円の割引効果があるようにするという。
通信費を割引してくれるのはいいことだ。しかしその財源は政府の懐からではなく、携帯電話会社の負担になっている。携帯電話会社は低所得層の料金を割引してデジタルデバイドをなくすという目的には共感しながらも、企業としては収益性の悪化につながるだけである点が懸念されている。
競争の結果として、自律的に料金が下がるなら話は別だが、今回のケースは、政府の指示に沿って一斉に割引をしなくてはならない。しかも、割引額の5050億ウォンは全て携帯電話会社の負担。せめて、割引によって発生する負担を携帯電話会社が負担する代わりに、政府も携帯電話会社に納付を義務づけている情報通信振興基金(携帯電話事業者と通信社は売上の0.5~0.75%を基金として納付し、これを国家の通信R&D予算として使っている)への拠出額を減らすとか、何らかの処置が必要なのではないかという声もあがっている。
実際には、負担を相殺するような措置はとられないので、携帯電話会社は5050億ウォンもの負担を抱えるしかない。その結果、当然一般加入者に対する割引幅を抑えて減収要因を減らそうとするだろう。こうなると、加入者全員へ行き渡るはずの李明博(イ・ミョンバク)大統領の通信費割引公約は、低所得層の機嫌を取るだけで終わってしまいそうだ。専門家らは、「これからどんどん物価は上昇する。その度に低所得層に割引してあげるつもりなのだろうか。交通費も割引して食費も割引して。このままでは色んなところから割引の要求が出てくる」と懸念している。
米国からの牛肉輸入問題で支持率が落ちっぱなしの李大統領。これで支持率挽回になるといいが、「こんなことで国民の機嫌を取れると思うなよ~」と厳しい意見の方が多いのも事実だ。国民みんなにメリットが行き渡る通信費値下げが登場することを期待したい。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2008年7月3日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080703/1005728/