ゲーム審議巡りGoogleとつばぜり合い、暗雲漂う韓国Android Market

2009年11月に発売されたiPhoneをきっかけに、韓国では、ネット利用がパソコンからスマートフォンへ、有線ブロードバンドからモバイルブロードバンドへ一気に移行している。キャリアも端末ベンダーもアプリケーション販売サイト(アプリストア)をオープンし、面白いアプリケーションを確保するため、個人デベロッパーの囲い込みに精を出している。

 韓国の人気モバイルコンテンツはなんといってもゲーム。音楽ダウンロードや映像コンテンツも人気を集めているが、いつでもどこでも楽しめる手軽な暇つぶしとして、スマートフォンでもキラーアプリはゲームになると見られている。


 ところが、韓国のiPhone App Storeには「ゲーム」カテゴリーがない。


 韓国では「ゲーム物等級委員会(Game Rating Board、以下「委員会」)」の事前審議を受けていないゲームコンテンツは販売できない。審議により青少年への有害性、射幸性を判断し、すべてのゲームを「全体利用可」・「12歳利用可」・「15歳利用可」・「青少年利用不可」にレーティングする。


 App Storeは韓国だけのためにゲームの事前審議を受ける面倒なことを避けるため、ゲームカテゴリーそのものを削除した。その代わり、エンターテインメントカテゴリーの中に、いくつか事前審議を受けたゲームを提供している。


 最近発売されたAndroid端末向けAndroid Market(Android向け専用アプリ配布サービス)には事前審議を受けていない“ゲーム”が約4400件提供されていることから、委員会と衝突している。Googleがゲームの事前審議を受けないままゲームアプリを流通し続ける場合、委員会は、Android Marketを韓国では利用できないように閉鎖することもできるとして騒ぎになった。


 Googleは米本社の確認を取っているとして、委員会の要請に応えないままゲームの提供を続けている。ゲーム類の事前審議を受けるのか、それともiPhoneのように「ゲーム」カテゴリーのないAndroid Marketを提供するか。


 世界最大マーケットと言われる中国から検閲や規制に反発して撤退したGoogleである。韓国向けAndroid Marketを別途つくるようなことはしないだろう。表現の自由を守り開放・共有という企業理念を守るため、事前審議に反対し、韓国でAndroid Marketそのものを提供しないことも考えられる。

韓国企業が制作した韓国市場向けゲームならまだしも、世界中のデベロッパーがAndroid向けに開発し続けているゲームすべて事前審議を受けるとなると、それは大変な作業になる。それにAndroid Marketではなく、キャリアのアプリストアを経由していくつかの機能を提供するという方法もある。しかしこれでは、ユーザーにとってAndroid搭載スマートフォンを購入する魅力が減ってしまう。


 しかも有料アプリケーションも韓国独自の個人認証を利用しないと決済できないため、Android Marketの有料アプリは利用できないままである。


 ゲームやコンテンツ政策を担当する省庁の文化観光体育部は、「韓国でサービスしたければ韓国のルールを守れ」という委員会と、「コンテンツの選択幅を狭める時代遅れの規制」と反発するユーザーの板挟み状態。事前審議を経ないゲームが流通する現状下では、Android Marketからのゲーム利用は違法行為になる。


 文化観光体育部も規制による市場萎縮よりは流通促進、という姿勢を見せている。同組織はゲーム産業振興に関する法律を改定し、アプリストアのように個人も売り手として参加できる「オープンマーケット」は例外とし、「事前審議」ではなく「自律審議」にする方案を検討するとした。ゲーム物等級委員会のガイドラインに沿って年齢レイティングを自己登録する方法である。従業員300人以上、年間売上300億ウォン以上、自律審議担当者2人以上のオープンマーケット事業者が対象となる。法律が改定されれば、アプリストアに世界中のデベロッパーが開発したゲームがリアルタイムで流通される。委員会はオープンマーケット事業者がガイドラインを守っているかどうかを事後規制することになる。


 韓国の新聞記事によると、iPhoneを販売する94カ国の中でゲーム事前審議をしているのは韓国が唯一という。ほとんどの国は事業者に任せ、問題があれば事後審議してフィルタリングしていく。


 一方、韓国にしか存在しない規制の影響でいいこともあった。国内企業は規制の少ない、より自由な市場を求めて海外を目指すことになった。韓国のモバイルゲームはApp Storeに登録されるや否や有料ダウンロード上位を占め、「アプリケーションで一攫千金」という神話まで生み出した。どんなことにも一長一短はある。


 今後、ゲームの行方に大きな注目が集まるだろう。政策決定者は、スマートフォン向けだけを特別扱いせず、他業界から恨まれることのないよう、流通活性化に向けた公平な規制緩和をしてもらいたいものである。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年4月1日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100331/1023976/