合併KTが営業開始、韓国通信業界はFMC競争に突入

韓国の通信業界では、固定通信最大手のKTが携帯2位のKTフリーテル(KTF)を合併し、「新KT」として6月1日に営業を開始した。いよいよSKテレコムグループとの2強対決が本格化する。その主戦場はVoIP(IP電話)を含む固定と携帯の融合(FMC)サービスだ。(趙章恩)

 KTは営業開始に合わせ、2012年までのグループの中期目標となる「337ビジョン」を発表した。売上高は3兆ウォン増の27兆ウォン(約2兆1000億円)、営業利益率は3ポイント高い11.4%、FMC加入者は7倍の210万件確保を掲げる。




営業を開始した「新KT」

FMCを強化して、インターネット、IPTV、SoIP(Service over IP)を基盤とする家庭内ITハブを提供しながら、3G携帯のWCDMA、高速データ通信のモバイルWiMAX(韓国の名称は「Wibro」)、無線LANのWi-Fiスポットによるパーソナルハブも展開する。まず「基幹通信事業者」という硬いイメージを捨て、通信を軸にした多様なサービスに手を広げようとしているところは、英BTのビジネスモデルにも似ている。


 KTは合併のシナジーを極大化するため、FMCをはじめ融合サービス分野に5年間で2兆4000億ウォンを投資する。研究開発(R&D)もFMC関連のサービスや設備、端末、プラットフォームに集中させる。具体的には、ユビキタス健康管理やユビキタスラーニングといった「ライフコンバージェンス」分野、企業向けの「Bizコンバージェンス」分野の強化を掲げている。携帯事業では11年に3.9世代の「LTE」にアップグレードし、13年には4Gに転換するとしている。





■第一幕は「バンドル割引競争」


 KTが攻勢をかけるFMC競争の第一幕は予想通り、バンドル販売と料金割引競争で始まった。複数のサービスをまとめて契約すると基本料金などを割り引くバンドル割引競争は一気に過熱し、早くも競合会社を中傷するかのようなテレビCMまで登場している。


 KTの最大のライバルは、携帯トップのSKテレコムとブロードバンド通信2位のSKブロードバンドによる連合だ。KTとSKテレコムは競うように、携帯電話とブロードバンド、IPTV、固定電話、VoIPなどを組み合わせて基本料を割り引きし、顧客を奪い合っている。今のところ、「携帯電話+ブロードバンド」または「ブロードバンド+VoIP+IPTV」で基本料を最大50%まで割り引くというプランが目玉だ。






KTFの看板からは「F」の文字が取り外された

「集まると安くなる」というバンドル商品の特徴を活かしたブランド戦略も競争が激しい。KTは「QOOK&SHOW」、SKテレコムは「T Band」というサブブランドでキャンペーンを展開中。KTは毎月3万ウォン以上の通信費を支払うバンドル商品加入世帯に、有料コンテンツを無料で利用できるクーポンや映画チケットなどをプレゼントする作戦にも乗り出した。


 こうした割引競争の結果、09年5月に携帯電話の番号ポータビリティー(MNP)で他キャリアに移動した件数は過去最多の120万人に膨れ上がった。家族4人の平均的世帯の1カ月の通信費は13万~14万ウォン程度だが、バンドル商品をうまく使えば月3万~4万ウォンの節約になる。一方、通信各社はマーケティング費がかさんで収益を圧迫されている。それでも、KTに飲み込まれないためには一か八かの割引競争に出るしかないのだ。





■KTはVoIPの進化形で勝負


 これからの焦点となるのは、携帯電話とVoIPのバンドルサービスだろう。いまのところ、シェア最下位のLGグループしか提供していない。VoIPにもっとも積極的なのも、3大ブロードバンド事業者の中でもっともシェアが少ないLG DACOMで、市場シェアの半数を占めている。


 韓国のVoIPは、08年10月に固定電話の番号のままVoIPに転換できる番号ポータビリティー制度が始まってから、一気に伸びた。09年5月末の加入件数は約400万で、固定電話加入2147万件の23%を占める。事業者もCATVや新規参入組を含めて11社を超えている。


 固定電話で90%以上のシェアを握るKTは当初、VoIPに消極的だった。しかし、このままでは固定の加入者を奪われるだけという危機感から、現在はVoIPを進化させたSoIPで勝負している。これは、音声通話にとどまらないマルチメディアサービスなどをIPベースで提供するというものだ。





多彩なサービスが売り物の「QOOK インターネット電話」

例えば「QOOK インターネット電話」というサービスは、7インチの大型スクリーン端末と子機の組み合わせで、WCDMAの6分の1の通話料金で3G携帯電話とのテレビ電話を利用できる。1.7GHzの周波数帯を利用し、通話品質も良好。地域情報などの各種データサービスやライブカメラによる交通情報、インターネットバンキング、ホームモニタリングなども利用できる。


 家庭内ではテレビとネット、ホームネットワークなどが1つになったIPTV、外では携帯電話がプラットフォームとして定着しつつあるが、KTのSoIPはIPTVのサブ端末として、パソコンや携帯電話の操作を難しく感じる主婦に人気が高いという。通信市場の主導権が有線ブロードバンドから移動通信へと傾いているなかで、KTはSoIPがFMCサービスのプラットフォームになりうるとみているようだ。Wibroが今後普及すれば、料金の安いSoIPと機能豊富な携帯電話の競争になるともいわれている。





■法人市場でも競争激化


 FMCを巡る競争は、法人市場でも激しい。KTと合併したKTFは、外では携帯電話、屋内では内線電話として使えるデュアルモード端末の基盤サービスに以前から力を入れていた。09年5月には、サムスン電子向けにFMCサービスを構築している。


 一方、SKテレコムは「エンタープライズモビリティ」というキャッチコピーで企業向けFMCを展開する。スマートフォンのラインアップにも力を入れており、ソニー・エリクソンの「エクスペリアX1」や台湾HTCの「TOUCH DIAMOND」、サムスン電子の「OMNIA」など、KTよりも豊富にそろえている。


 6月10日にソウル市内で開催されたFMCセミナーで、KT企業顧客戦略本部のイ・ジェマン次長は、「今後FMCは法人から家庭・個人向けへ、Wi-FiからWiMAXへ、携帯電話とパソコン、IPTVによるリアルタイムコミュニケーションへと発展するだろう。KTはFMCをネットワークの区分なくコミュニケーションできるサービスとして強化していく」と述べた。端末も年内に韓国メーカー4機種、海外メーカー2機種を追加するという。



■キラーアプリでメリットを


 イ次長は、「FMCは企業のインフラに合わせて段階的に導入するのが望ましい。社員が必ずメリットを感じられるキラーアプリはなにかという方向で検討する必要があるだろう」とも述べた。キラーアプリが重要だというのは、法人に限らず個人にも通じるもっともな話だ。


 通信代の節約以上にメリットがなければ、ただの価格競争に終わる。まだ始まったばかりのFMC競争が、ブロードバンド革命に続くIT革命を韓国に巻き起こすことを期待したい。



– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
[2009年6月11日]
Original Source (NIKKEI NET)

http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000010062009