いまだ根強いIE6利用の韓国で「もう止めよう!」キャンペーンの嵐

韓国のポータルサイト「DAUM」にアクセスすると、メイン画面の右に「少女時代の特命、私のPCを守って!」というバナーが登場する。これは何だ? とクリックしてみると、この夏より全世界で巻き起こっているWebブラウザーアップグレードキャンペーンだった。

 「少女時代と一緒に新しくて安全なインターネットの世界へ! IE6はもう止めよう!」という特設コーナーまで登場し、このページからIE(Internet Explorer)8にアップグレードすると、毎日抽選で50人に映画チケットをプレゼントするという大々的なキャンペーンである。








ポータルサイト「DAUM」トップページ。右上のバナーがキャンペーンサイト。クリックすると…







少女時代を起用した「IE6はもう止めよう!」の特設コーナー


この少女時代キャンペーンでは、IE8ではインターネットバンキングが使えないといった問題もWeb標準化問題も解決されたから安心して使いましょう、という二つをキャンペーン理由として挙げている。IE6のままのPCが多いため、DDoS攻撃のゾンビーPCにされたり、悪性コードに感染したりする危険度も高いという。

 IE6はWeb標準をサポートしていないため、Webサイトで文字化けやカラーの表示が違うようになってしまう「標準化問題」があり、Webアプリケーション開発に多大な時間がかかる、そのためインターネットの発展を阻害する障害であること。IE8が登場して間もないころは互換性に問題があるとされたが、今では韓国のほとんどのサイトがIE8に最適化されていること。なのでこれからは自分のPCを守り、より便利にDAUMを利用するためにもIE8にアップグレードしましょう、というのが趣旨である。


 セキュリティ脆弱点があるIE6の利用を止めてアップグレードするよう、韓国マイクロソフトも、ほかのポータルサイトも、IT業界も8月から呼びかけてきたが、全くといっていいほど効果がなかった。マイクロソフトの調査によると、韓国で使われているWebブラウザーの98%がIE、しかもその内39.1%がいまだにIE6だという。日本のIE6利用率は14.4%、OECD国家の IE6利用率平均は6%だというから、韓国がどれほど古いままなのかが分かる。そういえば韓国はまだWindows XPを使う人が圧倒的に多かったような…


 韓国人はパソコンの買い替えをしないのか? なぜ9年も前に登場したIE6をいまだに使っているのか? 少女時代の力まで借りないと解決できない問題なのか?…といろいろ疑問がわく。

実は韓国では、IE6でないと動かない社内システム、行政・校務情報化サイトが依然あって、PCを最新版に買い換えても、わざわざブラウザーをIE6にダウングレードしていたというのだ。新しい物好きの韓国人のはずが、ブラウザーだけは仕方なく古いのを使っていたという面もあるのだ。今はだいぶ改善されているものの、一度でもブラウザーをアップグレードして痛い目に合った人はもう二度とIE6から抜け出せなくなる。


 ガートナーの調査でも似たようなものを見た。全世界でIE6だけで動くアプリケーションはまだ多く、IE6向けアプリケーションの4割はIE8では動かない。企業がアプリケーションをIE8向けにアップグレードするためかなりの費用をかけることになるので躊躇するしかない。IE6利用を止めさせるためにマイクロソフトはもっと時間をかけなくてはならないだろう。どうやったらアップグレードしてもらえるか支援する方法を工夫しなくてはならない…といった内容の調査レポートもあった。


 一昔前のActiveX騒動のつながりで、Web標準化とは関係なく古い体制を崩さない開発環境にも問題があるのではないだろうか。でもプログラマーの間では、Web標準で作って、もう一度IE6に合わせてテストしないといけないので時間もかかるし大変だと愚痴っているのだ。韓国がいまだにIE6から逃れられないのは結局ユーザーのせいなのか? とも思ってしまう。


 2年ほど前までもIE6でないと利用できないサイトがかなりあったが、2010年の今となってはIE8が標準ブラウザーのようになっている。IE6に脆弱点があるとマスコミが騒いでも、まさか自分がハッキングされることはないだろうとか、使い慣れたブラウザーなのにアップグレードしてメニューの位置が変わると面倒だからこのままでいいとか、そういう理由でずるずると使ってしまっているのかも。


 少女時代が登場する前もいろんなキャンペーンがあった。韓国マイクロソフトは慈善団体と一緒に、キャンペーンサイト経由でIE8にアップグレードした1件ごとに500ウォン、台風で家を失った姉妹のために寄付をしたこともある。最大手ポータルのNAVERも6月より「Goodbye IE6」キャンペーンを実施した。ショッピング大手のGマーケットもIE8を使ってより安全なショッピングを楽しもうとキャンペーンを行った。


 それまでのWebブラウザーアップグレードを呼びかけるキャンペーンには面倒というだけでびくともしなかったネットユーザーらが、少女時代のパワーには負けたようだ。Twitterでは「とにかく少女時代が言ってるんだからIE8に変えなくては」、「みんな少女時代の言うことは聞きましょう」とやっと聞く耳を持つようになった様子。


 韓国ではIE6からIE8にするだけでなく、FirefoxやGoogle Chromeにも興味を持ってみようというユーザー同士の呼びかけも活発になっている。2010年7月時点での世界のブラウザーシェアはIEが60.7%、Firefoxが22.9%、Chrome 7.2%、Safari 5.1%だというのに、先述したように韓国はIEが98%。これはすごすぎると思いません?


 スマートフォンとか、タブレットPCとか、3DTVとか、そういうのは新製品が飛ぶように売れるのに、ブラウザーはどうして新しいものに興味がないんだろう。ユーザーが興味を持たないから政府も企業もIE8向けにアップグレードしない、しかもIE以外ではまともに表示されないサイトを作る、IE6に戻る、の悪循環になってしまっているのかも。スマートフォンやタブレットPC向けのモバイルブラウザー競争がヒートアップしているだけに、韓国でのIE6問題は最優先課題なのかもしれない。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年11月11日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101111/1028492/