どこの事業者のiPhone使おう? SK Telecom、2社目のiPhone通信事業者に

韓国人の生活を激変させたiPhoneが、ついにKTだけでなく携帯電話加入者シェア1位のSK Telecomからも発売されることになった。早ければ3月末にでもiPhone 4がSK Telecomから発売される。iPad 2、iPhone 5も続々と導入する計画だという。

 韓国初の携帯電話事業者であり、市場シェア50%以上、長期加入している人が多いSK Telecomであるが、長期割引や家族割引をあきらめてまでKTのiPhoneに乗り換える人が後を絶たず、頭を痛めていた。流出するユーザーを引き止め、iPhoneに対抗するためのマーケティング費が3000億ウォン(約220億円)を超えたことから、いっそiPhoneを発売してはどうかということで話がまとまったようだ。


 国中にモバイルインターネット革命を巻き起こしたiPhone 3GSとiPhone 4のユーザーはKTだけで220万件、携帯電話加入件数の約5%を占めている。SK TelesomはサムスンのGalaxy Sをはじめ、Android端末の宣伝に必死になっていた。SK TelecomはGalaxy Sだけでも240万件以上の加入者を確保し、スマートフォンユーザーはKTより多い(2010年末時点でKTが245万、SK Telecomは390万人)。


 韓国人がiPhone大好きな理由はやはりアプリケーション。これは日本のユーザーも同じだと思うが、世界で話題になっているアプリをリアルタイムで自分も使ってみたい、トレンドに敏感な人になりたいという意欲は、韓国の方がものすごくあるように感じる。


 KTが独占していたiPhoneがほかの通信事業者からも発売されることから、端末の売れ行きや通信事業者を選択する理由にも差が出そうだ。今までははっきりとKT(iPhone)対SK Telecom(Galaxy S)の攻防戦があり、KTはあまり好きじゃないけどiPhone使いたいから仕方なくKTにしたという人も少なくなかった。


 iPhoneを発売したことで一時期サムスンとKTの仲が悪くなったといううわさがあった。いつもならSK TelecomとKTがほぼ同時にサムスンの新機種を発売したのに、Galaxy SだけはKTからの発売がとても遅かったからだ。それが今度はサムスンとSK Telecomの仲が悪くなったといううわさが広がっている。サムスンの新機種をKTとLGU+にも同時提供するという。長年SK Telecomに端末を独占供給していたモトローラもKTと手を組むことになったので、ユーザーにとっては、端末で通信事業者を選ばないといけない時代はもう終わったようだ。








KTはソウル市内のカフェと提携し、店内でiPhone 4やiPadを体験できるようにしている


これからはiPhoneなのか、そうでないのかで通信事業者の選択を迫られることはなくなった。どっちの事業者の料金が安いか、Wi-Fiスポットが多いか、親切でアフターサービスも万全にしてくれるのか、サービス競争になるだろう。同じiPhoneで、同じく毎月9万5000ウォン(約7000円)のスマートフォン定額料金制でも、KTは800分無料通話・1000件無料SMSなのに対してSK Telecomは1000分無料通話・1000件無料SMS、SK Telecomは家族全員の加入年数に応じて割引幅が違う家族割り引き、KTは1年ごとに基本料が10%ずつ値下げされる自分割り、といった具合にサービス内容が違う。

 事業者の競争はユーザーにとってはうれしい話である。韓国ではスマートフォンを買うと専用料金制に加入しないといけない。通常の携帯電話料金の2倍以上あるので家計の通信費負担は年々増えるばかりである。iPhoneに対抗するために莫大な広告費を使うより、その予算で通信費を安くしてくれるとか、端末を安くしてくれるとか、そういう競争に火がついてほしい。


 韓国では2008年から約定加入が導入され、2~3年の間、同一の事業者に縛られていたユーザー1500万人が2011年に開放される。1500万人の多くは違約金が怖くてスマートフォンに乗り換えできなかった人とみられているので、SK TelecomはKTにこれ以上ユーザーを取られないためにもアップルと手をつなぐ必要があった。


 サムスンの端末を全面に売り出していたSK TelecomがiPhoneを発売したことで、Galaxy Sの人気はかげるだろうか。2011年2月韓国内の携帯電話端末シェアはまだまだサムスンが50.5%を占めている。売れた端末の内訳としてスマートフォンの割合は68%となっている。サムスンは普及型スマートフォンとしてGalaxy Sより安い端末も出し、Galaxy S2も十分話題になっている。とまれ、携帯電話加入シェア1位のSK TelecomからiPhoneが出るとなれば、韓国のモバイルインターネット事情はまた大きく変わるだろう。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年3月3日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110303/1030583/

脱獄アプリ続々、iPhoneの3G経由ネット電話禁止で高まるユーザーの不満

米AT&Tは2009年10月、iPhoneから3Gネットワークを経由したインターネット電話利用を許可する方針を発表した。iPhoneから無線LAN経由でSkypeなどを使いインターネット電話を利用できるだけでなく、移動通信事業者の3Gネットワーク経由でも使えるようになったことで、AT&T加入者は携帯電話・スマートフォンから自由に料金の安い音声通話を利用できるようになったのだ。

 移動通信事業者が提供するサービスに限らず、どんなサービスにもつながるようにしないといけないというFCC(米連邦通信委員会)が標榜する「ネットワーク中立性」に従うものである。このニュースは日本でも話題になった。


 この動きが意味するところは大きい。無線LANが使えない地域はあっても、携帯電話のデータ通信が使えない地域はほとんどないので、移動通信事業者のネットワークが開放されれば、移動しながらどこでもインターネット電話が使えるようになる。インターネット電話は加入者間の無料通話が目玉でもあるので、iPhone加入者どうしの無料通話はもちろん、家庭のインターネット電話との無料通話もできるようになる。国際電話も断然安くなるし、国際ローミングもいらなくなる。国際ローミングは、電話をかける方も受け取る方も電話代を払わなくてはならないので、負担が大きかった。


 移動通信事業者からすれば、モバイルインターネット電話を使わせることにより、重要な収益源である音声通話収入が大きく減るのは明らかだ。今後の見込みにしろ、モバイル端末と無線LANによる4Gネットワークが結びつくことで、どんな端末からもモバイルインターネット電話が使えるようになり、音声からの収益がますます減ることは間違いない。逆にネットワークを開放しても基本料は取れるので、市場先行効果を狙い加入者をたくさん確保した方が安定した成長ができるかもしれない。


 韓国で大人気のiPhoneからモバイルインターネット電話はできるのか? 3Gネットワークを使う通話で言えば「ノー」である。日本のiPhoneは無線LAN経由ではインターネット電話(Skypeなど)が使えても3Gネットワークからは禁止されている。同様に、韓国のiPhoneを提供するKTも、無線LANを経由したインターネット電話は利用できても3Gネットワークからは利用できないようにしている。



音声利用が多い韓国ユーザー



 ところが、いわゆる「脱獄(jailbreak)」として、3Gネットワークを無線LANとして誤認識させるアプリをダウンロードし、インターネット電話を使うユーザーが増えている。


 韓国KTのiPhone料金は2年約定の基本料に応じて無料通話150~800分、データ通信100MB~3GB、SMS200~300件+無線LANの利用が無料となっている。首都圏ではどこでもKTの無線LANを利用できるので、データ通信を利用しなくても済んでしまう。結果、毎月の無料データ通信分を全部消費しきれない。そのため「脱獄」して3Gネットワークからインターネット電話を使うことでデータ通信を消費するのが裏技として広がっている。そのほかに、3Gネットワーク経由でインスタントメッセンジャーの音声チャット機能を使った通話もできたが、これは2010年2月時点で3Gネットワーク経由でのアクセスが禁じられている。


 ユーザーらは「料金に含まれている3Gネットワークを利用しているだけなのになぜ禁止するのか」と早速反発している。3Gを無線LANに誤認識させるとはいっても、基本料内で使っているのでKTに損害を与えたわけではなく、これは違法ではないという主張だ。KTは「脱獄」できないようにするというが、この手のアプリは続々登場しているので、いたちごっこになる可能性が高いのではないだろうか。これではユーザーの反感を買うだけだ。AT&Tがネットワークを開放しているだけに、なぜいまさら閉鎖的な運営をしようとしているのかと非難も多い。


 日本の移動通信事業者のARPU(1契約当たりの平均収入)は平均的に音声6・データ通信4ぐらいであるが、韓国は音声8・データ通信2、音声通信の収入が圧倒的に多い。日本では定額料金制などで一時期ARPUが減ったものの、最近はデータ通信分が伸びたことでARPUも伸びている。しかし韓国では長年“勝手サイト”にアクセスできないようネットワークを閉鎖的に運営した結果、音声通話だけ伸びてデータ通信分が停滞または減少するという、世界の流れに逆行する現象が起きた。音声への要求は依然高いのだ。



Android搭載端末登場で状況は変わるか?



 KTは無線LAN、3G、Wibro(モバイルWiMAX)の3つのモバイル高速ネットワークを使える端末を発売している。モバイルインターネット移動通信最大手のSKテレコムは2Gでも無線LANを使えるようにすると発表した。無線LANとWibroのスポットも今の5倍ほどに拡大する予定だ。


 KTもSKテレコムも、FMC(有無線融合サービス)として、端末1台で携帯電話としてもインターネット電話としても使えることをしきりに宣伝している。自社のインターネット電話サービスがあるので、自前のネットワークを使って外部のインターネット電話を利用されては困るということなのだろうか。


 しかし3Gネットワークからのインターネット電話利用を禁止するとしても、携帯電話からインターネット電話を利用する時代に変わっていくことは間違いないだろう。締め付けを厳しくしてユーザーの反感を買うよりは、自由にして加入者確保と同時にモバイルインターネット電話の使い勝手向上を各事業者に工夫してもらいたいのだが、今のところ、目先の利益を優先したいようだ。


 2010年2月10日、KTのiPhoneに対抗してSKテレコムからモトローラのAndroid搭載端末が発売された。この端末からはGoogle Voice(米Googleが提供する音声通信管理サービス)を利用できるので、インターネット電話をどうするか、議論はまだ続きそうだ。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年2月18日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100217/1023008/

iPhone登場がキャリア間の競争を一層激化させる

SKテレコム5、KTF3、LGテレコム2。韓国移動通信キャリアのシェアは、ここ数年0.1~0.2%以内での変化しかなく、固着状態が続いている。シェアの固定化は移動通信市場成長の停滞を招き、サービスの質を落とすとして懸念されていた。有線ブロードバンドのKTと移動通信キャリアKTFとの合併による有無線通信サービスの同時加入によるバンドル割引や、料金値下げによるシェアの動きも微動たるものだった。

 それがiPhoneの発売から10日が過ぎ、大きな転機を迎えることになった。韓国通信事業者連合会によると、12月1日~3日の3日間ナンバーポータビリティでキャリアを変更したユーザーが5万6768人。そのうちの57.4%がiPhoneを発売しているKTへ流れ込んだのだ。


 11月に比べ2倍のユーザーがKTに切り替えている。いつもは40%以上がSKテレコムへと流れていたのに。今までは最新端末はSKテレコムが真っ先に出して、それから時差をおいてKT、LGテレコムで発売されていたので、ほしい端末のために長期加入割引を諦めてでもSKテレコムに変える人が多かった。韓国の平均機種変更は1年ほどであるが、実際には20~30歳代のユーザーだと6カ月もしないうちにころころ変えるたり、2台持っている人も少なくない。


 端末補助金競争でナンバーポータビリティを利用する人が急増し、マーケティング費用による赤字が話題になったことは何度もあったが、ナンバーポータビリティのシェアが動いたのはこれが初めてで、韓国では大きなニュースとなっている。


 4700万件もある携帯電話加入件数全体でみると、1位のSKテレコムにとっては痛くもかゆくもない数字ではあるが、クリスマスから始まり2月の卒業式、3月の入学式まで続く春の商戦でiPhoneだけで少なくとも50万台は売れると見込まれているだけに、このまま見過ごすことはできないだろう。


 それに全社員にiPhoneやOMNIAといったスマートフォンを支給する企業も増えている。大手企業やネット企業、出版社では、業務の効率を高め、同時に最新の端末でモバイルライフをいち早く体験させることで、マーケティングや新規ビジネス企画につなげるためスマートフォンを使わせている。ライバル会社が全社員にスマートフォンを買い与えたというニュースが流れると、うちもスマートフォン体制に変えるべきではないかとそわそわしてしまうのだろうか。「全社員にスマートフォン支給」の見出しがついたプレスリリースが毎日のように届いている。KTもビジネスユースを促進するため、iPhoneから利用できる無線LANスポットを、現在の1万3000カ所から2010年には5万カ所に増やすとしている。

SKテレコムはiPhoneの代わりとなるAndroid搭載端末の発売を急ぐ一方で、データ通信もコンテンツ利用料も無料の「フリーゾーン」サービスに力を入れている。月1000円ほどの定額で、「フリーゾーン」にある4000件ほどのコンテンツを通信費や情報利用料を気にせず使えるサービスである。


 続いてクレジットカード会社への出資も決めた。SKテレコムはHANAカードの株49%を取得し、モバイルクレジットカードサービス、モバイルコマース、位置情報を利用したクーポン・広告を強化するとしている。2400万人のSKテレコム加入者と、SKグループのマイレージサービス会員3000万人をターゲットにしたモバイルクレジットカードサービスとの相乗効果を狙う。


 HANAカードの複数のカードをUSIMに保存しておいて、決済する瞬間、ポイントが貯まるとか割引特典があるとか、もっともメリットのあるカードを自動的に選んで決済する。ここが、ただUSIMにカード情報を保存するだけだった既存のモバイルクレジットカードサービスと違うところである。


 プラスチックカードを発行しないのでカード制作や配送の費用を節約できるという点と、クレジットカード代金はSKテレコムの料金と一緒に請求されるので、携帯電話を使うためにもクレジットカード代金を払わねばならず、カード代金の延滞を減らせる効果も期待できる。KTもクレジットカード会社を買収するのではと噂されている。スマートフォンに続いて移動通信キャリアの金融ビジネス競争が韓国をにぎわすだろう。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年12月10日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091210/1021230/

国中がiPhoneに夢中! スマートフォンの料金値下げ競争が勃発

ついに2009年11月28日、韓国でもiPhoneが発売された。韓国最大の通信会社KTから発売されただけにインパクトは大きい。

 予約販売初日だけで2万人が殺到し、1週間もしないうちに6万5000人がiPhoneを予約した。11月28日には予約者1000人を招待したイベントが開催された。


 韓国で最初にiPhoneを手に入れたのは26歳の男性で、27日から27時間待って第1号になった。KT社長とおそろいのiPhone Tシャツを着て、仲良く手をつないでイベント会場に入場。時の人となった。1年間の無料通話と約1万5000円のiPhone専用スピーカーが贈られた。




KTのキム・ウシク社長(左)と韓国iPhone第1号を手に入れたホ・ジンソクさん


 会場では待ちに待ったiPhoneを受け取り感激するユーザーで奇声歓声の大騒ぎとなった。地上波DMB(韓国のワンセグ)が利用できない、ユーザーがバッテリーを交換できないといったことが指摘されたが、そんなのは全然問題にならない様子だ。日本とは違い、タッチ式でメールを打ち込むのが不便というユーザーはいなかった。


 ブログなどに書き込まれたiPhone自慢をみると、「とにかく大満足!」といったユーザーばかりだった。会社で机の上にiPhoneを置いたら通りがかる人みんなに「どこで買って、いくらだったのか」と質問攻めにされた、女性社員らに囲まれ「見せて! 見せて!」とねだられたなどなど、iPhoneを手に入れてからの急モテぶりを伝えている。


 iPhoneが韓国でここまで注目される理由はやはり豊富なアプリと、2年約定のスマートフォン定額制に加入すると、料金の高いデータ通信ではなく無料でKTの無線LANを利用できるからだ。スマートフォン定額制は月3万5000ウォン(約2600円)から9万5000ウォン(約7200円)で、料金に応じて3GS 16GBまたは3G 8GBの端末を無料でもらえる。


 公式サイトしか利用できずデータ通信料金も高かったため、モバイルインターネットがなかなか普及しなかった韓国。使い放題のパケット定額制はLGテレコムにしかなく、他のキャリアは従量制だったためデータ通信料金のトラブルが絶えず、携帯電話からネットにアクセスするのが怖かったのもある。


これでやっと本当の意味でのスマートフォン生活が始まる。KTの無線LANは全国に1万3000のアクセスポイントがあり、その他にフリースポットもあるので、主な都市ではどこにいてもネットにつながる。iPhone向けのスマートフォン定額制も安くはないが、その代わり無線LANでメッセンジャーやSkypeを使えば携帯電話の通話料を低く抑えられる。


 既にiPodを使って無線LAN経由でメッセンジャーやモバイルVoIPを利用しているユーザーも多い。iPodの便利さに慣れてしまった人達はさらに進化したiPhoneが待ち遠しかったようだ。iPhoneの登場で24時間オンライン状態にしてつぶやきまくる、TwitterのようなモバイルSNSの利用も急増するだろう。


 この夏からキャリアとベンダーが力を入れているアプリ配信サイトのアクセスも急激に伸びた。実際にアプリを購入するユーザーはまだ少ないが、関心は高い。個人もアプリを制作して販売できるマーケットができたことで、キャリアごとに、さらにカテゴリー別にあったマスターCPを通さないと携帯電話向けにモバイルコンテンツをサービスできなかった閉鎖的構造を脱皮し、パソコン向けデジタルコンテンツ市場の10分の1に過ぎなかったモバイルコンテンツ市場も大きな成長が予想される。


 KTはiPhoneを無料で提供するため一人当たり約7万円の端末購入補助金を支給している。その他キャリアは市場シェアを守るため通常新規加入に限って一人当たり2万~3万円ほど支払われていた補助金を同じく7万円以上に増やし、データ通信や基本料も値下げしている。既存加入者の離脱を防ぐため、懸賞イベントや長期加入割引、加入者同士の無料通話時間も増やしている。


 安く買えるのは嬉しいが、iPhoneが販売される直前にサムスン電子や他のメーカーのスマートフォンを購入したユーザーはがっかり。補助金をもらっても3万円はした端末が、数日の差で無料になったからだ。


 一部では、iPhoneの端末そのものの性能は韓国産のスマートフォンより劣る、カメラの画素数も低い、画像も荒い、それなのに何故ここまでiPhoneを持ち上げて騒ぐのかと批判する意見もある。しかしiPhoneは韓国移動通信業界を変えるシンボルのような存在であると評価してもいいだろう。iPhone販売をきっかけに、韓国の移動通信産はネットワーク、コンテンツ、プラットフォーム、デバイス、料金競争、全てにおいて「開放」がテーマとなっている。MVNOで金融、医療、物流など、色んな産業の事業者らが移動通信を利用したサービスを準備している。


 今のところは、ネットブックを持ち歩かなくても自由にインターネットが使えるという解放感だけでもiPhone売れる理由は十分といえそうだ。




(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年12月3日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091203/1020927/

韓国でもようやく発売 iPhoneが火を付けた端末値引き競争

11月28日、ついに韓国通信最大手のKTが「iPhone」を発売する。すでに予約受付初日だけで2万5000件を超える申し込みが殺到し、KTは発売当日、予約購入者1000人を招待した大々的なショーを開催する。(趙章恩)

 世界中で話題になっていたiPhoneをようやく手に入れることができるという興奮からか、韓国では学校でも会社でもiPhoneのことしか話題にならないほどだ。ベンチャー企業の社長や著名人らも自分のブログにiPhoneを予約したと書き込み、「絶対手に入れるべきだ」と盛り上げている。


 KTのiPhone予約サイトには、日本のiPhoneを使ったことがあるというユーザーらが期待のコメントを寄せている。熱しやすく冷めやすい国民性はまだ健在で、「iPhoneバブル」が懸念されているほどである。


 もっともこれには韓国特有の事情もある。韓国のモバイルインターネットは閉鎖的で料金も高かった。世界の流れに逆行してデータ通信の利用はあまり伸びず、ARPU(一人当たり利用料)の8割が音声通話とIT強国とはとても呼べない環境にある。そこにいつでもどこでもネットにアクセスできてアプリケーションも豊富なiPhoneが登場すれば、モバイルインターネットの普及に火を付ける可能性があるからだ。



「iPhone」発売を告知するKTのサイト画面


■2年契約で16GBモデルが無料に


 KTのiPhoneは3GS32GB、3GS16GB、3G8GBの3種類で、端末の出荷価格は32GBが94万6000ウォン(約7万5600円)、16GBが81万4000ウォン、8GBが68万2000ウォン。ただし、iPhone用に新設した2年契約のスマートフォン料金プランに加入すると、端末購入補助金で安く買える。


 KTがユーザーへ支給する端末購入補助金は「i-スリム」というプランが41万8000ウォン、「i-ライト」が55万ウォン、「i-ミディアム」が68万2000ウォン、「i-プレミアム」が81万4000ウォンとなっている。最も高い料金プランであるi-プレミアムは端末補助金と3GS16GBの端末価格が同額となっており、これに2年契約で加入すれば端末が無料で手に入る計算だ。


 ちなみに、端末購入補助金はキャリアが加入者へ端末を安く購入できるように支給する補助金のことで、これとは別に販売店向けの販売奨励金がある。2Gの端末であれば、代理店が販売奨励金を原資に端末価格を割り引くため、100ウォン端末(約8円)、1000ウォン端末といった安い端末が出回っている。
 
KTのスマートフォン料金プランでは、毎月の無料通話分や無料データ通信のほかに、KTが全国1万3000カ所に展開する公衆無線LANスポット「NESPOTZONE」からiPhoneを使ってインターネットにアクセスできるようになっている(無線LANゾーンから離れると3 Gのデータ通信に自動で切り替わるとKTは注意を呼びかけている)。



KTのiPhone向けスマートフォン料金プラン(付加価値税10%を除く)





■サムスン「OMNIA2」を対抗値下げ


 当然のことながら、このiPhone人気は他の携帯キャリアの大きな脅威となっている。携帯キャリア最大手のSKテレコムはさっそく、サムスン電子の最新スマートフォン「OMNIA2」をiPhoneと同じ料金設定で販売することにした。


 サムスン電子のOMNIA2は10月から販売されており、端末価格は8GBが 96万8000ウォン。SKテレコムの2年契約のスマートフォン料金プランに加入すると計70万ウォンほどの端末補助金が適用になり22万4000ウォンで買うことができた。これを一気に値下げしてiPhoneと同じく端末を実質ゼロウォンにする料金プランに改めるという。



高い料金プランほど端末購入補助金が多く支給される(KTのサイト画面)


■政府の意向に反する補助金競争が過熱


 しかし、端末購入補助金によるこうした値引き競争は、韓国政府がもともと望んでいた方向ではない。政府は補助金を減らす代わりにデータ通信や基本料を値下げして、より多くの加入者がメリットを感じられる料金制度をめざしてきた。例えば、LGテレコムは端末補助金の代わりに、18カ月以上の長期契約ユーザーの月額利用料金を11~25%割引する制度を導入している。


 キャリアは1年以上の長期契約を対象に約定期間に応じて補助金を支給することができるが、代わりにすべての端末とすべての加入者に同一金額を適用しなければならない。特定の端末だけとか、新規加入に限定するといった方法では、同じキャリアに長期間加入しているユーザーにメリットがないからだ。長期加入者もメリットを感じられる平等な補助金であれば制限しないというのが政府のこのところの方針である。


 その結果、キャリア同士の補助金競争も下火となっていたのだが、iPhone発売ですっかり台なしになった。モバイルインターネットの利用増加でコンテンツ産業を活性化するといったビジョンはどこへやら、目先の販売競争のための補助金がiPhoneによって以前より過激になった。スマートフォン競争をしているKTとSKテレコムはもちろん、LGテレコムも参戦して端末補助金を吊り上げている。





■アプリストアやSNSは置き去り?


 KTはiPhoneの補助金に相当する金額を他の端末購入者にも同じように支給し、既存加入者の端末買い替え時にも割引をしなければならない。KTとSKテレコムだけで4000万人近い加入者に1人40万~80万ウォンを支援するという計算になる。


 KTは携帯キャリア2位のKTFと今年合併し、有無線ともにシェア1位をめざしている。一方、携帯シェア1位のSKテレコムは有線ブロードバンドでシェア2位のSKブロードバンドを抱えており、ここでiPhoneに押されてしまっては4Gとスマートフォン時代のリーダーになれないと踏ん張っている。


 しかし、このまま補助金競争が続けば、売り上げは伸びても販売費用がかさんで利益に響くのは明らかだ。補助金競争に終止符を打たないと、アプリケーション開発や新規サービスへの投資を削るしかなく、長期計画による持続可能な成長は難しくなるだろう。


 KTもSKテレコムも、グーグルの携帯OS「Android(アンドロイド)」を搭載した端末を年内に発売すべく開発を急いでいる。Android端末も同じように補助金で無料となる見込みだ。質の高い端末を安く買えるのはいいことだが、モバイルインターネットの利用を支えるアプリストアやモバイルSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の強化を忘れると、また世界に置き去りにされることになる。




– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
[2009年11月27日]
Original Source (NIKKEI NET)
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000026112009 

iPhone発売にサムスン独自OS 韓国モバイル市場が変わる

いよいよ韓国でもアップルの「iPhone」が発売されることになった。2010年春にはグーグルの携帯プラットフォーム「Android(アンドロイド)」を搭載する端末も発売される。

 韓国でiPhoneは「来月フォン」というニックネームをつけられてしまった。「来月には出る」という報道が何度も繰り返されたせいだ。携帯キャリアのSKテレコムとKTの競争が激しく両方から出るのではないかとみられていたが、ひとまずKTから発売されることに決まった。




サムスン電子「OMNIA」シリーズの新機種


■今秋商戦はiPhoneシフト


 韓国の携帯電話メーカーはすでに昨年から、iPhone対策としてタッチパネル端末を次々と投入している。いよいよiPhoneが発売されることになった今秋の新機種は、すべてがスマートフォンというほどのiPhoneシフトである。


 サムスン電子は年末商戦に向けた新モデルとしてスマートフォン「OMNIA」シリーズ5機種を一気に発売した。さらに2010年を「スマートフォン元年」と位置付け、新製品を09年の20機種から倍増させるという。09年10月のサムスン電子の韓国内でのシェアはタッチパネル端末の好調で55.8%にまで達した。


 一方のLGエレクトロニクスも、副社長をリーダーとするスマートフォン担当事業部を新設するなど追い上げに必死だ。「最大のライバルはノキアではなくアップル」と述べ、世界市場に向けてスマートフォンで勝負をかける姿勢を見せる。09年には5機種、10年には10機種のスマートフォンを発売するという。



■キャリア系も端末製造に再参入


 こうしたなか、韓国最大キャリアであるSKテレコムの親会社SKグループもスマートフォン製造に乗り出した。SKグループは4年前に系列の携帯電話端末製造会社をパンテックに売却したのだが、スマートフォン市場の拡大をみて09年に再参入した。


 「W」というシリーズ名が付けられたSKのスマートフォンは、携帯電話からSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やブログを利用したい人向けに特化している。SKグループのSNS「Cyworld」や主なブログサイトに写真、動画、メモなどを簡単に転送できるようにした。


 韓国の携帯電話からアクセスするモバイルインターネットは閉鎖的なネットワークで、キャリアのネットワークを出て勝手サイトにアクセスすることができないようになっている。WはSKテレコムのネットワークを経由せず直接ブログにアクセスできるという点が画期的で、グループ会社ならではの連携策といえる。



SKテレコムの「W」


■サムスンが独自プラットフォーム


 調査会社IDCによると、09年7~9月の世界のスマートフォン出荷台数は前年同期比4.2%増の4330万台で過去最高を記録したという。


 メーカー別シェアは、フィンランドのノキアが首位で37.9%、カナダのRIMが19.0%で2位、アップルが17.1%で3位。携帯電話世界シェアで2位のサムスン電子、3位のLGエレクトロニクスはともに圏外だ。成長が見込まれるスマートフォン市場での地盤固めは急務である。



サムスン電子のAndroid端末「MOMENT」

海外勢では米モトローラ、英ソニー・エリクソンがAndroid を搭載したスマートフォンに力を入れている。サムスン電子も欧州に続き北米でAndroid端末「MOMENT」を発売したが、11月10日に新たに独自のオープンプラットフォームをリリースすることを明らかにした。

 今年12月に公開される予定の「bada」は韓国語で「海」の意味で、サムスン電子のモバイル端末の共通プラットフォームとして使うという。外部の開発者がアプリケーションを開発するためのソフトウエア開発キット(SKD)の提供も予定しており、10年にはアプリ販売ストア「Samsung Application Store」でbada向けアプリの配信を開始するとみられている。


 世界シェア2位の端末ベンダーであるだけに、サムスン電子のあらゆるモバイル端末で使えるようになれば、規模は大きい。サムスン電子が自社のプラットフォームとアプリストアを持つことで、世界のモバイル市場にまた新しい変化をもたらすであろう。





■韓国モバイル市場は大変革期に


 韓国のスマートフォン利用者はまだ73万人、移動通信端末の1.5%を占めるに過ぎないが、10年には3.7%に増加するという予測もある。スマートフォンとモバイルWiMAXや無線LANを組み合わせれば、通話料を安く抑えられるという期待も高い。


 前回のコラムでも述べたように、韓国政府は通信キャリアに対しモバイルインターネットの料金値下げを促している。すでにW-CDMAとモバイルWiMAXのデュアル端末がKTから発売されるなど、スマートフォンが使いやすい環境へと変わり始めた。モバイルを中心に放送と通信の融合も進みつつある。iPhoneの発売とタイミングを同じくするように、韓国モバイル市場は今までにない大きな変化の時期を迎えようとしている。



– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
[2009年11月16日]
Original Source (NIKKEI NET)

iPhoneの販売認可でモバイルコンテンツ市場が激化

前回書いたように、韓国でもiPhoneの販売がようやく認可された。サムスン電子やLG電子の新機種もスマートフォンを中心にラインアップが揃えられている。携帯電話端末の出荷数は減ってもスマートフォンだけは2桁パーセント増の成長を続けている。

 iPhoneが発売される2009年11月の直前10月に、サムスン電子は「OMNIA2」を発売する。2008年末に発売されてから人気絶好調のOMNIAの次のモデルで、3.7型の有機ELと800MHz動作のCPUが特徴だ。サムスン電子は有機EL搭載端末の好調により2009年8月、韓国携帯電話端末の市場シェア55%を達成した。スマートフォン市場でもシェア1位としてiPhoneと真っ向から勝負することになる。



iPhoneに先駆け2009年10月にサムスン電子が発売するスマートフォン「OMNIA2」


モバイルインターネットが使い放題のパケット定額制が始まって間もない韓国では、携帯電話から無線LANを利用できるようにするスマートフォンの登場により、有線ブロードバンドや2Gから一気に、料金が安くて速度が速い4GのWibro(モバイルWiMAX)または無線LANに乗り換えるユーザーが増えると予測されている。


 韓国放送通信委員会の調査によると、2008年末時点でもデータ通信定額制加入者の割合は10.9%、キャリアの売上対比データ通信売上の割合は17.4%に過ぎない。データ通信の割合は日本が41%、オーストラリア32.4%、イギリス27.8%、中国27.2%、米25.5%で、韓国は携帯電話から音声通話ばかりの基本的な使い方しかしていないことが分かる。理由は所得に比べ高すぎる料金のせいである。キャリアのデータ通信ではなく無線LANを利用できるiPhoneやスマートフォンの登場で、やっと移動しながら自由にネットが使えるようになった。

さらに、使いやすくなったモバイルインターネットを背景に、キャリアごとのアプリ販売サイトの競争も激しくなっている。


 韓国の最大シェアを誇るキャリアSKテレコムは、アップルと同じ仕組みのアプリ販売サイト「T STORE」をオープンした。コンテンツ会社や個人が開発したアプリをアプリ販売サイトを通じて販売できる。既に6500件ほどのコンテンツを確保している。サムスン電子もイギリスで始めたアプリ販売サイトをヨーロッパ、欧米、韓国でも始めようとしている。


 KTは11月より個人も参加できるオープンな「SHOW APP STORE」をオープンする。コンテンツ購入額よりダウンロードのために発生するデータ通信費用の方が高いという既存の不満を改善するため、無線LANやデータ通信料金の割引も始める。今までは携帯電話から1MBのゲームを2本ダウンロードするとデータ通信料金が7100ウォンもかかっていたが、これからは1000ウォン未満にするという。KTのアプリ販売サイトは携帯電話に限らず、IPTVやVoIPからも購入して使えるようにするなどデバイスを拡大していく。


 SKテレコムがアプリケーション2本当たり10万ウォン、超過分は1件当たり6万ウォンを要求しているのに対し、KTは登録費用1000ウォンで無制限アプリを登録できるようにした。1本当たり3万ウォンを超えた時点で売上の70%を開発者が30%をKTが取る。


 ポータルサイトのNAVERとDAUMもマップサービスやブログサービスの競争から、スマートフォン向けモバイルサービス対決への移行している。Web画面そのままモバイルでも表示するのではなく、スマートフォンの画面サイズやボタンを使って操作しやすく、ネットワークが遅い無線インターネットでも無理なく使えるようカスタマイズする競争が始まったのだ。どんなデバイスからも自社のサービスを利用させるための競争が本格的に始まった。


DAUMはWebメール市場シェアが38%と1999年オープン以来、不動の1位をキープしている。これをモバイルでも持続させようとしている。NAVERは増え続けているブログとマップユーザーをモバイルでも囲い込むためのカスタマイズに熱心である。ポータルサイト側はWEBメールやSNS、ブログ、マップ、ナビゲーションをスマートフォンから利用しやすいようにすることから発展し、SNS専用携帯電話端末の発売までも企画している。スマートフォンや携帯端末からどれほど便利に利用できるかによって、1位NAVER、2位DAUM、3位NATEというポータルサイトの順位が入れ替わることも予想される。


 既存音声通話より30%以上料金が安いモバイルVoIPも期待されている。NAVERとNATEはWibroや無線LANにアクセスできる端末からはメッセンジャー機能を利用して加入者間テレビ電話を無料で使えたり、インターネット電話として携帯電話や固定電話にかけられたりするサービスを拡大している。


 日本よりだいぶ遅れて火がついた韓国モバイルコンテンツサービス市場は、iPhoneをきっかけにスマートフォンの競争が激化し、Wibro・無線LANとアプリ販売サイトの組み合わせで利用が加速している。3Gまでは世界市場より遅れたが、4Gからはブロードバンド普及当時のように世界を驚かせたいという韓国政府の狙い通りになってほしいものだ。




(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年9月30日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090928/1018999/

ついにiPhoneの販売を認可、その狙いは?

ソウル市内ではWibro携帯またはスマートフォンと無線LANを利用してSkypeにアクセスし、料金の安いモバイルVoIPを利用したり、ノートパソコンを持ち歩かずスマートフォンでメールやファイルを確認したりする人をよく見かけるようになった。有線ブロードバンドに集中していたネットサービスも、この秋からは一斉に「スマートフォン」をテーマに動き出している。

 韓国政府が力を入れているモバイルインターネット活性化戦略は、まずもっともユーザーの不満の大きい、モバイルインターネット利用料金から手を入れようとしている。そのために選んだ競争戦略の一つがiPhoneの韓国内発売である。iPhoneがヒットすれば、スマートフォン向けサービスも活性化され、自然とモバイルインターネット料金値下げ競争につながるため、さらにモバイルインターネット利用者が増加すると見ているのだ。


 韓国でiPhoneが発売されなかった理由の一つはWIPIという韓国だけのミドルウェアを全ての携帯電話に搭載しなくてはならないという規定問題。これは2009年の4月に解決された。


 その次は位置情報法の適用問題。放送通信委員会はiPhoneを韓国で発売するには、アップルが位置情報事業者として許可を受けなくてはならないとした。紛失端末探しやマップなど位置情報を収集してサービスを提供する場合は、プライバシー保護と個人情報に関する法的責任所在を明確にするため、放送通信委員会より許可を受けなければならない。これも2009年9月に解決した。


 iPhoneを発売するKTが位置情報事業者及び位置基盤サービス事業者として認可を受けているので、iPhoneの位置情報サービスをKTのサービスとして約款に含める場合、アップルは許可を受けなくても位置情報サービスを提供できると判断した。KTが責任を取ることで、個人を識別できない方向案内や地図サービスはiPhoneから利用できるようになった。その代わり、個人情報を必要とする紛失端末探し(Find my iPhone)サービスは韓国で提供されない。


 放送通信委員会はこれから、個人のプライバシーを侵害する恐れがないサービスに対しては規制を緩和する方針である。位置情報法も改定し、個人を識別できない位置情報を収集する場合は事業者許可対象から除外する。


 海外企業の韓国進出を妨げ、モバイルインターネットサービスを井の中の蛙にさせていた各種規制がiPhoneをきっかけに一つ一つ解決され始めている。2008年から「今度こそは大丈夫」「春には発売される」「夏には発売される」と期待を集めてきたiPhone。紆余曲折の末に、やっと韓国でもiPhoneが利用できるようになったのだ。


 韓国のiPhoneは、電話・ブロードバンドサービスの最大手でもあるKTより発売される。KTは移動通信キャリアで子会社のKTFと2009年6月に合併している。移動通信キャリア最大手のSKテレコムもiPhoneを逃すまいと交渉を進めている。


 これからはキャリアとアップルの交渉次第であるが、あまりにも韓国のキャリアが熱心なため、アップルが無理な要求を次々に投げかけていて、その負担は結局ユーザーに回るという報道もあった。


 KTの場合、11月に発売を予定していて、端末価格はKTがユーザーに端末購入補助金を支払う形で「iPhone 3G」が12万~13万ウォン(約1万円前後)、「iPhone 3GS」が24万ウォン(約1万8000円)と、サムスン電子やLG電子のスマートフォンに比べ3分の1ほどの値段を予定している。米国や日本と同じくモバイルインターネット使い放題料金制が適用され、2年縛りを条件に安く買えるようになるが、iPhoneの端末価格は韓国の携帯電話市場に大きな影響を与えること間違いない。


 月々の支払額は、KTの場合2年縛りで月4万~5万ウォン(約3000~4000円)の料金を予定している。KTの携帯電話ARPUが平均3万2000ウォンなので、これよりは1万ウォン以上高くなる。KTはiPhoneに限らず、スマートフォン向けの料金制度を新しく導入し、モバイルインターネットの活性化を促進していくとしている。


 ユーザーの間では激安料金(月約750円)で勝負しているシェア最下位のキャリアであるLGテレコムのモバイルインターネット使い放題料金制度が好評である。高くても話題性のあるiPhoneを使うか、実利を選ぶか。新しい物好きで自慢したがりの国民性からすると、iPhoneがヒットすること間違いないように見える。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年9月25日

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090925/1018898/

ついに韓国でもiPhoneが発売に、モバイル市場を変える起爆剤となるか

韓国でもついに「iPhone」が発売されることになった。iPhone 3GSは市場シェア2位のキャリアKTが8月に発売を予定している(2009年6月にKTとKTFが合併して新生KTになった)。当初は7月に旧モデルのiPhoneを発売して、9月から3GSを発売するという話もあったが、3GSの8月発売にほぼ決まったようだ。端末価格は99米ドルを基準に決める模様。人気の高いサムスン電子スマートフォンの韓国内発売価格に比べてたったの8分の1程度なので、画期的な安さといえる。

 日本ではシェア3位のソフトバンクモバイルが発売しているiPhone。韓国ではキャリアとしては2位だけど、ブロードバンドや固定電話を含めると圧倒的1位である元国営のKTから発売される。KTはiPhoneを独占発売するため、長期にわたりAppleと交渉を続けてきた。


 しかし、APPLE側は韓国シェア1位(50.5%)のキャリアSKテレコムからも発売したいとして独占販売を拒否したという。もちろん、iPhone 3Gからは1国家1キャリアではなく、世界で複数のキャリアと契約しているので、韓国でも同じように複数のキャリアから出したいところだろう。


 iPhoneが狙っているシェア1位のSKテレコムは、既に自社のモバイルアプリケーション販売サイトの計画を発表している。グーグルのアンドロイド携帯と提携してアプリ販売サイトを育てるという戦略であるため、iPhoneそのものに興味があるけど、iPhoneユーザーが増えて自社のサイトではなくAPPLEのApp Storeを利用されてしまっては困る、というのが本音のようだ。SKテレコムは「KTがiPhoneを発売するならうちも発売するが、無理したくはない」と余裕の反応を示している。


 韓国は2008年3月から補助金制度が解禁となり、新規加入の場合は端末を半額以下で購入できるようになった。0ウォン端末も競争的に売り出されている。ナンバーポータビリティ(MNP)の利用も活発で、毎月携帯電話加入者の3~4%にあたる115万~120万人ほどがMNPを利用しているほど、新規加入を繰り返して次々に最新端末を安い値段でゲットするユーザーが増えている。

MNP競争で生き残るためには、端末のラインアップを充実させる必要がある。サービスや料金はどんなにアピールしても似たり寄ったりなので差別化が難しい。キャリアを変更したくなるほど、魅力的な端末は重要である。SKテレコムはシェア1位らしく、もっとも人気のあるサムスン電子の最新端末を優先的に発売している。さらにソニーエリクソンやHTC、ブッラクベリーのスマートフォンも独占販売している。それに比べKTはブロードバンドやIPTVと一緒に加入すると料金を割引をするという競争はしているものの、キャリアのシェアの差は縮まらない。KTとしてはなんとしても他のキャリアからユーザーを奪いたいので、iPhoneの独占販売は譲れない。


 韓国では2009年3月まで、国策で開発したモバイルインターネットのミドルウェア「WIPI」を搭載していない携帯電話端末は販売できなくしていた。iPhoneをはじめ海外メーカーにとっては、仕様を変えないといけない負担があるため端末販売をためらっていた。WIPIは韓国の携帯電話端末市場を自然に鎖国状態にしていた。


 2009年4月からソニーエリクソンをはじめ海外メーカーの端末がどんどん発売されるようにはなったが、端末に不具合があったりして、やはりスマートフォンよりは普通の韓国製携帯電話が使いやすい状況だった。端末のラインアップは増えたものの、ユーザーの立場からすればほしいと思う端末はない。しかしiPhoneとなれば話は別だ。無料で使えるアプリが豊富で、使って楽しい携帯というイメージがあるからだ。


 iPhoneがついに発売されると報道されてから、待っていましたとばかりに、ソフトウエア会社やモバイルコンテンツ会社が次々にApp Store向け戦略を発表している。モバイルコンテンツ業界も活気が出そうだ。


 KTは無線LANやWibro(モバイルWiMAX)といったモバイル用のインフラが充実しているだけに、iPhoneからパケット定額より安く、移動しながら高速インターネットが使えるようにもできる。韓国でもパソコンより携帯電話からネットにアクセスする人の方が増えるかもしれない。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年7月8日

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iPhoneのターゲットはずばり日本と韓国? [2007年6月13日]

6月29日に米国で販売開始となるアップルの「iPhone」に、世界中が注目している。音楽、TVの次は携帯電話と次から次へとユーザーを虜にしているアップルは素晴らしいと、発売予定すらない韓国でもiPhoneが韓国携帯電話産業に与える影響を分析したり、音楽市場の変化を分析したり大騒ぎだ。韓国MP3プレーヤー市場でのiPodのシェアは7%ほどとサムスン電子の「Yepp」、レインコムの「アイリバー」より断然低く、iTunesですらサービスの予定もない韓国でアップルが何かする度に自分のことのように大騒ぎするのはどうしてだろう。それはアップルが世界モバイル音楽市場の4割占めている韓国と日本を狙っているという判断からだ。韓国電子新聞なんて「アップルのiPhone発売は韓国のせい?」なんていう見出しまでつけている。

 2007年1月、市場調査専門のガートナーは「世界モバイル音楽市場規模は2007年137億ドル、2010年には322億ドル規模まで成長するだろう」と発表した。その中でもアジア地域のシェアは2005年41%、2006年42%と最も高く、北米が最も少ない。ここでいうアジア市場は日本と韓国の市場規模のことのようで、SKテレコムやドコモの音楽サービスを事例としてあげている。ガートナーは「現在はまだMP3プレーヤーを利用したダウンロードサービスが主流だが、間もなく携帯電話を利用した音楽利用が主流になるだろう」と予測し、その根拠として「日本と韓国ではパソコンより携帯電話を利用した音楽サービスの方が人気、音楽再生機能が携帯電話の基本的な機能になってきた。安全なサービス方式と簡単な課金方式が人気の秘訣」と述べている。音楽もそうだが携帯電話でほぼ何でも解決できるのは日本と韓国ぐらいではないだろうか。現に、ロシアなんて着メロサービスが始まったのは2006年になってようやくだそうだ。


 もっとすごい数字もある。イギリスのSCREENDIGEST社は2006年末、全世界モバイル音楽市場規模は1億6600万ユーロで、2012年には10倍成長した16億ユーロになると発表し、その60%を日本と韓国が占めるだろうと予想している。なお、2006年末の全世界オンラインダウンロード音楽市場は9億3200万ユーロ。モバイル向けはその6分の1にあたる。当たり前だが、この市場をアップルが放っておくわけがない。


 世界携帯電話シェア3位のサムスン電子は2007年1月、P2P音楽ダウンロードサイトの「SORIBADA」と戦略的提携を結んだ。韓国のモバイル音楽サイトは携帯電話キャリアごとにサービスされているため、番号移動制度を利用すると購入した音楽が全部使えなくなる不便があった。サムスンの携帯電話を利用している人ならキャリアに関係なく番号移動制度を利用しても国をまたがっても一度購入した音楽は続けて利用できるようにし、iPhoneにも対抗するのがサムスンの狙いだ。LG電子も利用者数1位の音楽サイト「BugsMusic」と提携するらしいという噂が続いている。


 音楽サイトにとってはモバイルサービスを提供できれば安定した収益原が確保できる、ベンダーが盾になるので著作権問題も解決しやすいというメリットがある。ベンダーにとってはキャリアに左右されない独立したコンテンツを提供できるので、新たな端末を販売する際の強みになるだろう。韓国は日本と同じくキャリアの代理店でしか携帯電話は販売されないので、現時点では、ベンダー単独ではどうにもならない。だが今後は、欧州式にベンダーのショップで端末を買ってキャリアのUSIMカードを装着するだけになる可能性もある。その時に備え、自社コンテンツを揃えることで「00の端末でないと嫌」というユーザーを増やしたがっている。アップルはまさに「アップルでないと嫌」というユーザーを、焦らず着実に韓国で増やしてきた。


 東京ビッグサイトのような展示場があるソウル三成COEX地下ショッピングモールには韓国で最も大きいアップルショップがある。アップルの全製品を体験し購入できる場所だ。


 アップルのパソコンといえば韓国ではデザインはとても素晴らしいが値段がべらぼうに高く利用方法も難しいというイメージが強かったが、Windowsも使えるMacやアップルTVの登場、値段が安くなったiPodの影響から「アップルって意外といいかも」と関心を持つ人が増えている。実際にいつ行ってもガラガラだったCOEXのアップルショップは根気よくショップを運営し続けた結果、「アップルの製品ってどうして海外では人気なんだろう」と見に来る訪問者が増え、2007年からは平日でもショップは人でいっぱい、アップルパソコンの使い方講座も毎週開催しているほどだ。


 iPodをはじめアップルの製品が徐々に話題の中心になってきたのをみると、iPhoneが韓国で発売される日もそう遠くなさそうだ。2007年5月時点で、約12万円という高価格で発売されているiPhone と瓜二つのLG電子のプラダ携帯。こんなに高くても1日1000台ほど売れているそうなので、これより少しでも安く販売されればiPhoneの勝ちかもしれない。


 サムスン電子はアップルにiPhoneに搭載される4GB、8GBナンドフラッシュメモリーを輸出している。販売実績は既に4GBメモリーで5億個前後で、半導体部門の収益改善につながっている。サムスン電子はアメリカでiPhoneに対抗してタッチキーパッドを採用しながらも99ドルという激安音楽携帯「アップステージ」を発売したが、自社携帯が売れてもiPhoneが売れてもサムスン電子は儲かる。iPhoneの発売は韓国にとって新たなチャンスとなっている。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070612/274527/