21日、NPO法人「アジアITビジネス研究会」が都内にて部会を開催し、RBB NAVi「現地直送!韓ドラ事情」でもお馴染みの趙章恩(チョウ チャンウン)氏による「世界に先駆ける韓国のWeb2.0ビジネスモデル」と題した講演が行われた。
「アジアITビジネス研究会」は、アジア地域での国境を越えたビジネスの活性化などを図る目的で設立されたNPO法人である。また、同NPOの顧問を務める趙氏は、日韓における企業の市場調査や事業進出支援などを多数手がけ、両国のIT市場に非常に詳しいプロデューサーである。本講演では、韓国インターネット/モバイルの利用状況から、韓国国民を夢中にさせているUCC(User Created Contents:ユーザー参加型コンテンツ)まで、韓国におけるありとあらゆるWeb 2.0サービスが紹介された。
◆韓国人は3歳からインターネットに慣れ親しむ
韓国では、30代までのインターネット利用率が非常に高く、10代ですでに97~98%に達する。3~5歳の幼児のインターネット利用率も50%を超えており、物心ついた頃からマウスを操作していると言う。
インターネットの利用時間は1日平均2時間。2006年全世帯の通信費は飲食・宿泊費を上回ると言う。これが家計の圧迫要因にもなり、キャリアに対する値下げ運動が起こっているようだ。またインターネットの利用時間は19時~22時台にピークを迎え、このピーク時間を避けるためにテレビのゴールデンタイムが23時台にシフトしたというほど、インターネット利用が普及している。
◆テレビ報道よりもネットの口コミを信じる人が増加
韓国インターネット振興院の調査によると、ブログなどの投稿記事にコメントを書いたことがある人は全体の45.5%と、韓国人のネットコミュニティ活動に対する参加意識の高さがうかがえる。
またネットの口コミを重視する傾向があるというのも特徴的だ。テレビ報道は規制がかかることがあるが、ネットコミュニティでは個人が自由かつ即時に情報発信できることから、テレビよりも投稿サイトなどでニュースをチェックする人が増えているという。実際、あるいじめ事件に関する動画投稿が115万人以上に視聴され、さらに300万人以上に外部リンクで視聴された結果、視聴した人からの通報で事件翌日には加害者が特定されたそうだ。テレビでのニュース報道がその後になったことが、ますますテレビ報道の信頼性を下げることになったという。
◆韓国のWeb2.0は第3ラウンドに
韓国ではWeb2.0という言葉が出てくる前から、UCCが登場していた。趙氏によると、2000年にはすでに、テキストベースのニュースやQAサイトが、また画像系では写真投稿サイトや、ブログ/アバター/SNSが1つになった「CyWorld」に代表されるコミュニティサイトが人気になっていたという。
昨年2006年は第2ラウンドに位置付けされる年で、「PandoraTV」や「AFREECA」など、UCCからさらにSCC(Seller Created Contents)、PCC(Proteur Created Contents;Proteurはプロとアマチュアの間を表す造語)といったビジネスに直結する動画配信などが活発化した。こうした動画配信の活発化で「地上波視聴率が大幅下落した」(趙氏)。
そして2007年下半期以降、第3ラウンドとして「ポータルの反撃」が起こるだろうと趙氏は言う。動画専門サイトのあまりの人気ぶりに危機感を持ったポータルサイトが、自サイトでの新しい動画サービスを投入してくるというのだ。
◆マーケティングの限界がユーザーを巻き込んだUCCの発展に
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趙章恩(チョウ チャンウン)氏 | 韓国のUCC市場活発化の背景として、趙氏は「インターネット検索でありとあらゆる情報を見つけられるようになり、ユーザーが賢くなった。ちょっと新しいくらいのサービスでは喜ばなくなったし、韓国の国民性もあってか、面白い動画があってもすぐに飽きて別のコンテンツへ移動してしまう」と語る。またオンラインマーケティングに関しても「使えるビジネスモデルをすべて使い果たし、限界が見えていた」と言う。そこで「ユーザーを巻き込んでユーザーにコンテンツを作らせてしまおう」という考え方を持った企業と、「自分でやってみたい」という欲求を持っていたユーザーのニーズが合致した。
「軍事政権のように上層部だけが情報を握るのではなく、誰もが平等に情報を取得できる時代。ニュース記者がチームや個人でブログを持ち、別の角度からも情報を発信するようになり、ユーザーは様々な情報をシェアリングできるようになった」(趙氏)。今ではユーザーが作るように巻き込まないと収益は生まれないのではないか、とまで言われているそうだ。
◆韓国の代表的UCCサイト
以上のようなことから、韓国では多数のUCCサイトが登場しているという。趙氏が講演の中で言及したサイトのいくつかをここで紹介する。
・「DAUM」のTVpotは、動画を無制限で登録できるようにし、毎日人気ランキング5位まで現金10万ウォンを進呈することで動画を集め、動画の前後に流れる広告で収益を得ている。
・ポータルサイト「NAVER」は、動画検索サービスを提供し、UCCのみならず有料動画も対象とし、さらに場面検索にも対応したことで人気となっている。
・「CyWorld」は、今春から「CyWorld2.0」の提供を開始したが、3つのIDを使い分ける複雑な機能がユーザーにはあまり受け入れられていないようだ。広告に関しては、自分だけに見える動画広告の視聴でポイントを「ドトリ」(どんぐり)と呼ばれるサイバーマネーで受け取れるようになっている。
・「Yahoo!」は、動画のタグ検索サービスを提供したが、不適切な動画を放置したことが問題となりサービス中止に追い込まれたという。
・「Pandora.TV」は、動画販売を行っており、地下鉄や病院、銀行などでも流れている。こうして販売した動画の著作権者に広告料の一部を支払ったり、個人の動画制作のサポートするなど、PCC市場を活性化させている。
・「AFREECA」は、リアルタイムストリーミングの個人放送を提供しており、個人がテレビショッピングのように商品紹介することで報酬を得るモデルを取り入れている。
このほか、行政が環境保護に関するUCCを公募したり、eラーニングなどでのUCC活用も事例も見られるとのことだ。
◆UCCのビジネスモデルは広告収入から次のステップへ
韓国のUCCは、ビジネスモデルとしてはまだまだこれからとの見方はあって、現状は広告モデルが多いという。今後は広告媒体としての利用や有料チャンネル、コンテンツ販売での利用のほか、UCCサービス向けのサーバ構築や、UCCの撮影に便利なデジタルビデオカメラなど関連産業へもビジネスモデルが広がりつつあるという。
このようにUCCが普及して、ユーザーによる情報の活発な共有が行われている韓国であるが、もちろん著作権や、引用権(既存コンテンツの編集やモノマネ等)といった問題も多く、ガイドラインの策定が進められている。また個人のプライバシーを侵害するようなコンテンツを規制するために、7月からは実名制度が導入される。
◆何でも2.0?
Web2.0発展のためには、「無断コピーやプライバシー侵害、暴力映像などは規制しきれるものではなく、取り締まるよりも、ユーザーが違法なことをしないで済むように、たとえば、サービス提供元が著作権料を払うなどして、100%ユーザー自身が作れる環境を用意できるように少しずつ変えていくことが求められる」と趙氏は語る。
「関係者が連携して一緒に発展できるようにすることも大事。ポータルだけが儲かったり、利益を独占しないこと。キャリアもメーカーもユーザーも、みんなが儲かる社会を目指してほしい」と趙氏はいう。さらに「韓国内から世界へ向けて発信できるWeb2.0を」と言い、Second Lifeのように、世界中へ展開するためには、サーバ負荷の分散なども考慮していくことが必要であることにも言及した。
趙氏は、「韓国だけでなく日本にも言えることだが、“何でも2.0を付ければいい”“2.0を付ければかっこいい”というような考え方がある。しかし本当に2.0を付けるだけでいいのか? ということを考えて欲しい」と語ると、会場から笑いが起こった。 |