イベントどころじゃない、Vista発売で大混乱の韓国 [2007年1月30日]


1月31日から発売となる韓国版「Windows Vista」。日本では29日の夜から深夜販売を実施したり、発売記念イベントを実施したりと盛りだくさんのようだが、韓国では全く違う雰囲気だ。新しい OSへの期待より「今Vistaに更新すると危ない!」と大騒ぎになっている。お役所の情報通信部まで3月まではVistaに更新するなと待ったをかける状態。一体何が問題なのか。

Webサービス「ActiveX」依存の因果応報


 答えは「ActiveX」。セキュリティが強化されたVistaのシステムで、韓国のほとんどのサイトが利用しているActiveXが不具合を生じ、インターネットバンキングやオンラインゲームが利用できない、映像・音声の登録・再生にエラーが発生するためサイトが正常に表示されないといった問題が起きている。


 ブラウザー上で手軽にアプリケーションをインストールさせたり、機能させたりできるActiveXコントロールは便利なツールだが、相手のPCをいじくり回すハッキング用に悪用される場合もある。Windows XPのService Pack 2でもActiveXのインストールやダウンロードをブロックする機能がついていた。


 サイト側はActiveXを正常に作動させるためVista向けにソースコードを書き換えなければならないが、いまだに対応しきれていない。あれだけ世界中がVista、Vistaと騒いでいたのに何をやっていたのかというのが率直な感想だ。今になって3月までVistaを使うなというのはいくらなんでも勝手な言い分だろう。


 そもそもActiveXはWindowsとIEの組み合わせ以外では作動しないため、韓国国内では、LinuxやFirefoxといったオープンソースベースのソフトを使っているユーザーはインターネットバンキングやサイトを利用するのに苦労していた。IE以外のブラウザーを利用するユーザーのことも考慮にいれていたらActiveXに頼りすぎることにもならなかったろうし、新OS登場に伴う今回のような騒動も起こらなかったはず。


 例を挙げれば、韓国のインターネットバンキングにアクセスすると4~5つのActiveXが立て続けに登場し、この中で1つでもインストールしないと利用できないようになっている。どういうプログラムがインストールされるのかよく分らないが、とにかくインストールしないとインターネットバンキングにログインすらできなくなっているので従うしかない。ActiveXはサイト側が手抜きできるから好んで利用しているようなものだ。


Vistaの価格、なぜか韓国語版は割高


 この問題以上に韓国語版Vistaの価格が他の国より高い点も論争になっている。「Windows Vista Home basic」の場合、通常版はプロモーション価格27万4000ウォン(約3万6000円)、アップグレード版は同じくプロモーション価格で14万2000ウォン(約1万9000円)。対して、日本語版の参考価格はそれぞれ2万7090円と1万4490円だから通常版は9000円も高い。さらに、アメリカで販売されている英語版と比べると円換算で1万5000円も高い。


 企業でも家庭でも使えるUltimate通常版に至っては、円に換算して7万4000円近く、日本(4万8800円)やアメリカ(399ドル)の約1.5倍になる。当然、韓国のWindowsユーザーの間では不満の声が上がり、Vistaへアップグレードする意欲もなくなっている。現に、韓国の価格比較サイトDANAWAが会員4144人を対象に調査した結果、87%がアップグレード計画がないか、もしくは数カ月ほど様子を見てからアップグレードすると答えている。


 韓国OS市場でのWindowsシェアは95%とアメリカより10%ほど高い。その点から考えるとマイクロソフトは値段を高くしてもみんな買うしかないとたかをくくっているのではないかと勘ぐりたくもなる。こういった指摘に対し、マイクロソフトは「独占でもなく値段を調整しているわけでもない。韓国ではOSが搭載されたPCを購入する人がほとんどでパッケージを別途購入する比率は0.1%にもならない。OEMのOS価格は全世界共通なので韓国だけ割高ではない」と主張している。


 もちろん、Vistaは悪者というわけではない。ファイルの中身まで先に見せてくれるプレビューや検索機能は充実しているし、子供をネット中毒から保護してくれる機能もある。1日の利用時間制限、子供がアクセスしたサイトのリスト、特定サイトにはアクセスできなくする制限機能もある。半透明の3Dで表示される背景画面やサイドバー、タスクバーにマウスをおくと今開いているファイルのサムネールを見せてくれるのも面白いし、便利になりそうだ。もう一つ個人的に気に入ったのはフォント。Vistaの中で使われる「マイピクチャ」、「マイドキュメント」などのメニューを表示する文字のフォントが少しだけ角ばってとてもかわいくなったことは大歓迎している。だからこそ、韓国でももろもろの問題が早く解決して他国のように5年ぶりの新しいOSで大いに盛り上がってもらいたいと思うのだ。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070130/259995/

Vista登場でも苦戦の韓国パソコン市場で、売れ始めた意外なもの [2007年2月6日]

1月31日、ついにVistaが発売されたが、Vistaがどうのこうのと盛り上がったのは当日ぐらい。マイクロソフトは人気アナウンサーの司会に、人気プロゲーマーまで招待したVista発表会を盛大に開催したが、その現場ですらVistaにアップグレードするとサムスン電子やアイリバーのMP3プレーヤーが使えなくなった、iPodが使えなくなった、このサイトが立ち上がらなくなったと苦情ばかり目立っていた。そんな中でVistaで盛り上がろうと必死になっているのはマイクロソフトよりもパソコンメーカー。当のマイクロソフトは「10カ月後にはほとんどのパソコンでVistaが使われるはず」と自身満々の様子なのだが。

新入学商戦、「子供のため」も通用せず


 パソコンメーカーが必死になるのも仕方がない。2006年末からパソコンメーカーは「今購入してもWindows Vista無償アップグレードお付けします!」と騒ぎ、韓国人の最大の弱みである「みんな買い換えているのに古いパソコンのままではあなたの子供が恥をかく、仲間はずれにされる」と口説いているが、どうもぱっとしないのだ。


 韓国では何でも「プレミアム」、「子供の教育のため」というと売れる。他人の目に映る自分をとても意識しているうえに、少子化を背景とした教育熱が重なり、子供のためなら多少の出費は惜しまないからだ。現に、いまや一般の家庭でも、子供の数だけパソコンを持つのが当たり前になってきている。


 また韓国は2月が卒業式、3月が入学式なので卒業・入学祝いという名目で今が最もパソコンが売れる時期だ。2月18日はお正月(以前も書いたとおり、韓国では重要なイベントは旧暦で行う)なので、お年玉でオンラインゲームがすいすい利用できるパソコンを買いたがる子供も多い。


 そんなこんなでこの時期は、パソコンメーカーごとに新製品を発売し、懸賞イベントやおまけ合戦も過熱される。テレホンショッピングやオンラインショッピングでも、どこもかしこもパソコンとノートパソコンだらけになっているが、売れ行きは期待を下回っている。最も大きな顧客である企業と役所でのVistaアップグレードがまだ躊躇(ちゅうちょ)されている状況のため、パソコン買い替え需要は、3月以降にずれ込むと見られている。


 メーカーは「Vista対応だとどうしても高性能・高価格になっていまうので、100万ウォン(約13万円)ちょっとで買える普及型パソコンも発売する予定」だそう。ところが、パソコンの周辺市場では、Vistaのおかげで、意外なところが活気を取り戻している。


 大型液晶ディスプレイ市場だ。



市場の4分の1は20インチ以上に


 大型液晶ディスプレイ市場では、20インチ以上の製品が占める割合は2006年では11%ほどだったのが、2007年は25%に拡大すると予想されている。既に市場に出回っている50種類ほどのディスプレイ製品のうち、約6割が20インチ以上となっている。


 その理由は、マイクロソフトがVistaは22インチ以上の液晶ディスプレイに最適化されていると発表したことにある。それを受けて、中小メーカーが大型ディスプレイ製造に飛び込んできた結果、サムスン電子、LG電子など大手メーカーの大型液晶ディスプレイの価格は急落した。一部中小メーカーではWindows Vista認定ロゴの取得を急ぐ一方、20インチモニターを19インチモニターより安く販売しているほどだ。22インチ、24インチも同じように大幅の値下げが行われ、20インチは20万ウォン台(約2万4千円台)、22インチは40万ウォン台(約5万円台)にまで落ちた。


 低価格攻勢にさらされているサムスン電子は20、22、24インチそれぞれの大型液晶ディスプレイのプレミアムモデルを2006年12月と2007年1月に発売し、性能はもちろんデザインも優れた製品であることをアピール、Vistaにはサムスン電子のモニターが最も相性がいいと宣伝している。LG電子も19、20、22、24インチLCDモニターの新モデルを一挙発売し、コントラスト比3000:1、応答速度2ミリ秒と、群を抜く高性能をアピールしている。そのほか、大手ではHPのタッチスクリーンや回転できるモニターも注目されている。


 オンラインゲームやVOD(ビデオ・オン・デマンド)鑑賞のため利用することが多いパソコン用ディスプレイの需要には火がついたようで19インチから22インチへ買い替えが進んでいる。ソウルの秋葉原といわれる竜山(ヨンサン)では一度に50~60台の大量注文が全国から届いている。本体も部品も売れない中、唯一の救いになっているようだ。


 さらに、パソコン用ディスプレイを買い替えるついでにテレビも大型液晶のものに買い換える家庭も増えているようで、40インチのテレビは前年比40%、32インチは30%ほど安くなっている。50インチの値段も下がり始めた。市場で人気の高い40インチが42インチより値段が高くなる怪現象も起きている。現時点では、Vistaも話題だが、ブロードバンドでの動画配信やデジタル放送への出費を優先する家庭の方が実際には多いようだ。


 携帯電話よりもパソコンでネットを使う方が便利と思っている人が大半を占めるだけに、韓国でパソコンが売れなくなることはないだろうけど、Vistaの登場をきっかけとしたパソコン市場の動揺はまだ当分続きそうだ。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070206/260864/