Vista登場でも苦戦の韓国パソコン市場で、売れ始めた意外なもの [2007年2月6日]

1月31日、ついにVistaが発売されたが、Vistaがどうのこうのと盛り上がったのは当日ぐらい。マイクロソフトは人気アナウンサーの司会に、人気プロゲーマーまで招待したVista発表会を盛大に開催したが、その現場ですらVistaにアップグレードするとサムスン電子やアイリバーのMP3プレーヤーが使えなくなった、iPodが使えなくなった、このサイトが立ち上がらなくなったと苦情ばかり目立っていた。そんな中でVistaで盛り上がろうと必死になっているのはマイクロソフトよりもパソコンメーカー。当のマイクロソフトは「10カ月後にはほとんどのパソコンでVistaが使われるはず」と自身満々の様子なのだが。

新入学商戦、「子供のため」も通用せず


 パソコンメーカーが必死になるのも仕方がない。2006年末からパソコンメーカーは「今購入してもWindows Vista無償アップグレードお付けします!」と騒ぎ、韓国人の最大の弱みである「みんな買い換えているのに古いパソコンのままではあなたの子供が恥をかく、仲間はずれにされる」と口説いているが、どうもぱっとしないのだ。


 韓国では何でも「プレミアム」、「子供の教育のため」というと売れる。他人の目に映る自分をとても意識しているうえに、少子化を背景とした教育熱が重なり、子供のためなら多少の出費は惜しまないからだ。現に、いまや一般の家庭でも、子供の数だけパソコンを持つのが当たり前になってきている。


 また韓国は2月が卒業式、3月が入学式なので卒業・入学祝いという名目で今が最もパソコンが売れる時期だ。2月18日はお正月(以前も書いたとおり、韓国では重要なイベントは旧暦で行う)なので、お年玉でオンラインゲームがすいすい利用できるパソコンを買いたがる子供も多い。


 そんなこんなでこの時期は、パソコンメーカーごとに新製品を発売し、懸賞イベントやおまけ合戦も過熱される。テレホンショッピングやオンラインショッピングでも、どこもかしこもパソコンとノートパソコンだらけになっているが、売れ行きは期待を下回っている。最も大きな顧客である企業と役所でのVistaアップグレードがまだ躊躇(ちゅうちょ)されている状況のため、パソコン買い替え需要は、3月以降にずれ込むと見られている。


 メーカーは「Vista対応だとどうしても高性能・高価格になっていまうので、100万ウォン(約13万円)ちょっとで買える普及型パソコンも発売する予定」だそう。ところが、パソコンの周辺市場では、Vistaのおかげで、意外なところが活気を取り戻している。


 大型液晶ディスプレイ市場だ。



市場の4分の1は20インチ以上に


 大型液晶ディスプレイ市場では、20インチ以上の製品が占める割合は2006年では11%ほどだったのが、2007年は25%に拡大すると予想されている。既に市場に出回っている50種類ほどのディスプレイ製品のうち、約6割が20インチ以上となっている。


 その理由は、マイクロソフトがVistaは22インチ以上の液晶ディスプレイに最適化されていると発表したことにある。それを受けて、中小メーカーが大型ディスプレイ製造に飛び込んできた結果、サムスン電子、LG電子など大手メーカーの大型液晶ディスプレイの価格は急落した。一部中小メーカーではWindows Vista認定ロゴの取得を急ぐ一方、20インチモニターを19インチモニターより安く販売しているほどだ。22インチ、24インチも同じように大幅の値下げが行われ、20インチは20万ウォン台(約2万4千円台)、22インチは40万ウォン台(約5万円台)にまで落ちた。


 低価格攻勢にさらされているサムスン電子は20、22、24インチそれぞれの大型液晶ディスプレイのプレミアムモデルを2006年12月と2007年1月に発売し、性能はもちろんデザインも優れた製品であることをアピール、Vistaにはサムスン電子のモニターが最も相性がいいと宣伝している。LG電子も19、20、22、24インチLCDモニターの新モデルを一挙発売し、コントラスト比3000:1、応答速度2ミリ秒と、群を抜く高性能をアピールしている。そのほか、大手ではHPのタッチスクリーンや回転できるモニターも注目されている。


 オンラインゲームやVOD(ビデオ・オン・デマンド)鑑賞のため利用することが多いパソコン用ディスプレイの需要には火がついたようで19インチから22インチへ買い替えが進んでいる。ソウルの秋葉原といわれる竜山(ヨンサン)では一度に50~60台の大量注文が全国から届いている。本体も部品も売れない中、唯一の救いになっているようだ。


 さらに、パソコン用ディスプレイを買い替えるついでにテレビも大型液晶のものに買い換える家庭も増えているようで、40インチのテレビは前年比40%、32インチは30%ほど安くなっている。50インチの値段も下がり始めた。市場で人気の高い40インチが42インチより値段が高くなる怪現象も起きている。現時点では、Vistaも話題だが、ブロードバンドでの動画配信やデジタル放送への出費を優先する家庭の方が実際には多いようだ。


 携帯電話よりもパソコンでネットを使う方が便利と思っている人が大半を占めるだけに、韓国でパソコンが売れなくなることはないだろうけど、Vistaの登場をきっかけとしたパソコン市場の動揺はまだ当分続きそうだ。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070206/260864/

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